形勢逆転からの逆転
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突然叫んだ僕に対し、ギョッと目を剥く悪党達からの視線を集める。
だからと言って、僕が窓から身を乗り出して飛び移る様子も無い。
向こうからすれば、何のことかまるで分らないだろう。
でもそれで良かった。
一瞬でも気が引けたら御の字。
悪党達の乗る装甲車の上。
その闇夜の暗い影が伸びたかと思うと、ヌッと腕が飛び出す。
『あらん……? なんだい、これは?』
まるで風に揺れる稲穂のように伸びる腕一本。
露出の多い女がそれに気が付き困惑するその一瞬、不意を突いて手中から『返却物』を乱暴に奪い取る。
『あ痛っ~!! んもう、なんて手癖の悪いヤツなんだい!!』
イカージョと呼ばれていた女が、手をさすりながら影の方を注視する。
夜間とはいえ、蒸気屋台の窓から漏れる灯りで充分照らされているはず。
だがそこには、先程の腕は影も形も見当たらない。
「これはコーちゃんが預かった物だから、返してもらうね!」
声と共に、闇の中から戦闘服に着替えた真多子が姿を表した。
まるで突然そこに沸いたかのように。
『なんだい、コイツ!? どこに隠れてたのさ!?』
奴らには見えなかっただろうが、しかし僕には見えていた。
この右眼が開眼し、『χ眼』を発動させればどんな生物だろうとハッキリ見抜けるのだ。
僕の十字に開く瞳は、ずっと真多子の姿を捉え続けていたのだから。
彼女は常に『返却物』の近くにいてくれたのである。
「軟体忍法『姿隠しの術』!! 最初からずっとここにいたのでした~! 残念だったね!」
タコの特性が強く出ている真多子は、全身の色を自在に変色させることが出来る。
蛸の保護色能力、天然の光学迷彩というわけだ。
そして僕が最初に蒸気屋台の窓を開けたのは、悪党共へ声を届けるためだけではない。
真多子が外へ抜け出すための出口を確保していたのだ。
そうして外の影と同じ黒く変色し、ひっそりと誰にも悟られずに移り合図を待ってくれていたのである。
あの特性がある限り、光を必要とする目に頼る者になど、彼女の姿を捕捉することなんて一生出来やしないだろう。
「手癖が悪いのはお互い様だろ! 上出来だ真多子、戻ってこい!!」
『ボサっとしてんじゃないよスクイラー! あいつを捕まえな!!』
『イカなるご命令も喜んで! ぬぅぅぅ!!』
僕が真多子へ指示を飛ばすのとほぼ同時に、向こうの頭役と思われる女も老紳士の尻を蹴飛ばす。
老紳士は星美の肩から片腕を離すと、その大きな手を鉤のように鋭く曲げて真多子へと襲い掛かった。
しかし、その掌は虚しく宙を掻く。
なぜならば、真多子がスイと身体を浮かせて後退していったのだから。
まるで幽霊か操り人形のような不自然な動きは、度肝を抜かれたことだろう。
『なんと!? 空を飛べるとは聞いていませんぞ!!』
「へへ~ん、軟体忍法『伸縮自在の術』だもんね!!」
もちろんこのカラクリも僕には丸見えだった。
伸縮自在とは彼女のタコ腕のこと。
しなやかな筋肉だからこそ出来る腕の延長だ。
あとは術といってもタネは単純である。
先の保護色能力で隠していた腕を蒸気屋台に張り付け、思いっきり自分の身体を引っ張っているというわけだ。
これで怪奇、空中浮遊の完成。
とはいえ『χ眼』で見えていると、中々にシュールな絵面ではある。
さしずめ、糸で引く凧のようだ。
「ただいまコーちゃん! はいコレ」
真多子が開けた窓の枠へ跨るように両脚を着けると、腕を潜らせて僕の手に荷物を落とす。
奪われていた巾着袋だ。
「ありがとう! 真多子はこのまま急いで上に登れ、僕にもう一つ策がある。 上に着いたら、思いっきり息を溜めておけよ!」
「よくわからないけど、おっけ~任せて! コーちゃんの言う事ならきっと何かあるんだもんね!」
細かい理由も聞かず、彼女は窓枠を勢いよく蹴って再び外へと飛び出して行った。
幼馴染として長い付き合いだから、お互いよくウマが合う。
こういう時の阿吽の仲は、とても潤滑に事が進んで助かるものだ。
だが、悪党達も黙って見ている気はないらしい。
すぐに下降していたハッチを上げ直して、全身を見せる。
『グヌゥ……しかし、忘れてはいないでしょうな。 コチラにはまだ人質がいるのですよ。 手荒な真似をされたくなければ……』
『それで? アンタの言う人質ってのはどこにいるんだい』
『は?』
脅すような低い唸り口調の老紳士であったが、頭役の女に指摘されて素っ頓狂な声を上げる。
子供の小さな肩へめり込むように握っていたはずの拳は、またもや宙を掴んでいたのだ。
『そんな馬鹿げたことが!? 確かに先程までここに……!!』
確かにハッチが下がり、星美の姿が見えなくなるまではいたのかもしれない。
しかし、そこには僕の『χ眼』を以ってしても何も映らなかった。
つまり真多子のように変色して隠れているわけでもない。
今度は本当にいないのだ。
「お探しの人質っていうのは、コイツのことかな?」
僕はもったいぶったような仕草でソファーの上蓋を上げると、中から星美が顔を出した。
「サプラ~イズ!! 瞬間移動のマジックショーは大成功デース!!」
『おのれ……おのれっ!! このイカサマ師スクイラーを二度も謀るとは!!』
冷静沈着のポーカーフェイスかと思っていたが、意外に激情型な紳士らしい。
顔を真っ赤にして湯気を立てている。
本当は星美を最初にここへ隠してからずっと動いていなかったのだが。
奴らの所へ出向かせたのは、星美の分身体だ。
分裂というヒトデの特性を持つ彼女だから出来る疑似瞬間移動である。
分身体はとっくに自壊しているから、本体が移動したように錯覚させているだけなのだ。
(忍者というよりも、だんだんと手品師集団になりつつあるな僕達……)
だが、これで相手に盾とされるものはもう無い。
逆に言えば、向こうも攻め手に周らなければならなくなったということだ。
とはいっても相手の戦力がまだまだ未知数な以上、まともに殺り合う気はサラサラない。
忍者の心得、逃げるが吉だ。
『アンタこの前の盗人選びと言い、失敗が続くねぇ』
『誠に申し訳ありません、イカージョ様ッ!! こうなれば、ゲソッキー! 構いません、主砲の用意です!!』
『うぃっすー』
初めて聞く若い男の声が返事を返す。
姿は見えないが、恐らく運転手なのだのだろう。
それにしても『主砲』と言ったか。
まさか戦闘手段まで積んでいるとはかなり物騒だ。
呼び合っている名前も明らかな偽名。
ますます、裏のある組織の手の物であることが窺える。
「おいタコロウ! なんかヤベェもん振り回してるのが見えんぞ!! コッチは戦闘用じゃねぇんだ、木端微塵にされっちまうって!!」
運転席からも敵車両の動きが見えたのだろう。
伝声管から深角の兄貴の焦りで上ずった声が響く。
「兄貴、汽笛を思いっきり鳴らして、蒸気を吹き出すんだ! そうすれば発進のチャンスが生まれるから!」
「チックショォッ! 本当だなタコロウ!? 信じるからな!!」
兄貴の泣きそうな声を伝声管に押し返す。
窓の向こうでは。禍々しい砲塔が旋回しているのが目につく。
もう時間が無いが、目算ではギリギリ間に合うはずだ。
『散々コケにしてくれたお礼です。 一撃で沈めてさしあげましょう!』
『あら~イカしてるじゃないのよさスクイラー。 いいかい、外すんじゃないよ!』
老紳士は下にいる運転手へ指示しているのか、手旗信号のように腕を振っていた。
彼の腕が静止した時、それが僕達の最期ということだろう。
姿隠しの術はこんな感じです(外部サイト)
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