謎の悪党
マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=4955
星美ちゃんイメージ画像はこちら(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=34832
悪党どものイメージ画像はこちら(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=56790
僕達の乗る蒸気屋台の窓、その枠内に収まるよう狙ったかのように人影が伸びる。
室内から届く光量では、向こうに二人組が立っていることしか分からない。
だが光源はコチラ側だ。
僕に見えているということは、逆に向こうもこちらの様子を窓越しに窺っているのだろう。
それも、ハッキリと。
コチラのヤタイヤタイヤはかなりの速度を維持しているはずなのに、こうも簡単に並ばれるとは思わなかった。
(何者なんだアイツら……まさか転生者か?)
深角の兄貴の技術は、相当な資金を注ぎ込んでようやくここまで発展したものだ。
これほどの技術を持つ魔人類が、そう何人もいるとは思えない。
そう誇っていいほどの偉業を兄貴は成し遂げている。
他にあるとすれば、中央の転生者達が生まれ持った生前の知識の産物によるものだろう。
もしくは、兄貴以上に相当な資金力を持つ組織だ。
(いずれにしても、二度も体当たりをぶち込んで来たんだ。 とても歓迎しているってことはないだろう)
相手の意図も出方も不明だが、ひとまず迎え撃つ準備をしなくてはならない。
僕は真多子と星美の方へと振り返り、指示を出そうと口を開いた。
しかしその声よりも先に、窓の外が喧しく声を拡散させてきた。
『ア、ア~、テステス……ご機嫌イカがかな諸君。 少々手荒いモーニングコールだったが、目が覚めただろう』
紳士的な男の声だ。
メガホンとも少し違う機械音交じりの声の拡張、これは拡声器というものだろうか。
窓越しにでもしっかりと聞こえて来る。
「コーちゃん、あれって敵なの!?」
「しっ! 向こうは対話する気らしい。 僕が気を引くから、真多子は姿を隠して外に張りついてくれ」
「ミーはどうしマショー……?」
「お前は、万が一に備えて分身と入れ替わっておけ。 本体は備蕩炭入れのソファーに入って隠れておくんだ」
真多子と星美の二人に言いそびれていた指示を出すと、僕は窓を開け放って声を張る。
ついでに、奴らのせいでモロに喰らった赤い紅葉も見せつけた。
「僕の頬を見れば分かるだろう! 嫌っていう程に頭が冴えたとも! お前らいったい何者なんだ!」
なるべく向こうから見える窓の視界を塞ぐために、僕はややせり出すように窓へ詰め寄る。
指示を出した後ろの二人の動きをなるべく誤魔化したいのだ。
『さぁ、誰でしょうねぇ。 そんな私どものことよりも、あなた方の持つ荷物の方が気になりますな。 昼間……何か、受け取りましたね?』
(やっぱりそう来たか……)
やつらの言っている荷物とは、間違いなく僕の懐に忍ばせてある『返却物』のことだろう。
どこにでもある無地の巾着に包まれた小さな物。
中身は僕を含め、誰も知らない。
ただの盗人が持っていた盗品だったはずだが、それを国のトップが『自分では手に負えない』とまで言わせた、いわくつきの代物だ。
何かある予感はしていたが、ここまで堂々とやってくるとは予想外であった。
追って来た以上、所在はバレているだろうが一応しらばっくれてみることにする。
「何のことだ! 捕物協力への感謝状くらいしか心当たりがないぞ!」
窓際のこの位置では、どうせ暗くて向こうから細かい字までは読めやしない。
光源を背にしたのをいいことに、テキトウな紙切れを一枚手に取り振ってやる。
『馬鹿を言いなさい。 街の小さな英雄殿が、こんな夜道を急ぐ理由もないでしょう。 いイカげん、この茶番は止めと致しましょうか。 最終警告です、渡す気が無いのでしたら先程よりも乱暴な手を使うことになりますな』
分かってはいたが、やはり誤魔化しは通じないらしい。
いや、そもそも人違いだろうと襲う気なのかもしれないが。
(だが、何故僕達が持っていると知っているんだ……? あの場にいたのは絶対に僕と真多子、そして国主様の三人だけだったはずだ)
そもそも僕は、表向きは確かに表彰として出向いたのだ。
外部の人間に僕の素性がバレるはずもない。
ならば、内部に情報を流した者がいることになる。
今の国主に代わって体制が一新されたとはいえ、まだまだ巳の国も一枚岩じゃないのだからありえるだろう。
裏切者のことを今考えていても仕方がないことだが、頭の隅に留めておかなければ。
「待て、分かった! 渡すから! 女、子供には手を出すな!」
そう口にしながら星美の分身体を引き寄せ、守るように抱きしめる。
背丈が少し小さくなっているが、遠目ではそうそう分かるまい。
こうして子供の身を案じるフリをすれば、降参した説得力が増すはずだ。
わざわざ対話してくる以上、これに乗せられてくれるだろう。
『いいでしょう。 ならば、まずはその車を止めなさい。 下手な考えは起こさないことですな』
ここまでは想定通りの流れだ。
僕は睨みを利かせながら頷いて見せると、伝声管から兄貴へ行進停止の連絡を入れる。
やがて、蒸気屋台はしぶしぶと諦めるかのように速度を落とし、完全な停車状態となった。
向こうの装甲車も、僕達に合わせて減速しながらさらに幅寄せしてきた。
もはや接触スレスレの距離である。
そのおかげか、ようやく車内から洩れる光量でも相手方の顔が見えて来る。
(一人は声からして男だと分かっていたが、もう一人、隣のやつは女だったのか)
女はアイマスクのようなもので目元を隠しており素顔が分からないが、その服装は派手な上に露出が激しいため、身体つきから性別が判断できた。
紳士的な声色の男は、声の通り年配であり白髪と白髭を整えた紳士然としていた。
歳の割りにはかなりガタイが良く、その大きな拳は相当な怪力自慢であると予想される。
(そして車体の上にいるこの二人の他に、恐らく中にもう一人か二人くらい運転手がいるはずか……数の優位は取れそうもないな)
下手な考えは起こすなと忠告してきたのも、僕達の人数を把握した上でのことだろう。
しばらく様子をみていたのもそのせいか。
今は大人しく機会を待つしかない。
『よろしい。 では、例の物を……そうですね、そこの子供に持ってこさせなさい』
「なっ……!? 卑怯だぞ!」
『なんとでも言いなさい。 護りたいのでしょう? 素直になることをお薦めしますな、ちなみに……もしも偽物を持たせたなら、分かっていますね?』
あくまでも慎重に事を運ぶ気のようだ。
あの紳士、中々に用心深い。
小さな子供であれば、暴れた所で抑えつけられるつもりなのだろう。
実際、彼は逞しい腕を下げており、その剛腕が自慢らしいのだから。
僕は苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、悔しさで声を震わせながら星美に声を掛ける。
「いいかい、余計なことは何も喋るな。 黙ってコレを持って行くだけでいい、出来るね?」
僕の顔を見て事態を察したのか、星美は小さく震えながらコクンと頷く。
懐から取り出した預かりものの巾着を手渡すと、彼女を窓枠へと乗せてやる。
身体が小さいので、登る時の足掛かりとして僕の膝を階段に使ったのだ。
『いい子ですね。 さぁお嬢さん、こっちへ跳び移りなさい』
窓と向こうの装甲車の屋根は丁度同じくらいの高さだ。
両車がほぼ密着した今なら、簡単に移動することが出来る。
少し戸惑うように星美は周囲を見渡し、見つかるはずの無い逃げ道を探す。
しかし、どうやっても隣の装甲車に挟まれ八方塞がりである。
諦めたように目を伏せると、意を決したのか勢いをつけて跳躍した。
彼女が向こうに着地すると、すぐさま老紳士が両肩を鷲掴みして受け止める。
その時、星美が少し痛そうな声を上げたのが頭に響いた。
(星美……!!)
あの男、口では紳士然としているが、子供だろうとまったく容赦するつもりもないらしい。
紳士が拘束している間に、隣の女が巾着を手早く奪う。
そして軽く口紐を緩めて中を確認すると、満足したように不敵な笑みを浮かべた。
『こいつは間違いなく本物のようだねぇ。 スクイラー、ハッチを下げな!』
『イカなるご命令も喜んで! それでは足元にご注意くださいイカージョ様』
スクイラーと呼ばれた紳士の男が足元のスイッチを踏むと、彼らが徐々に下へと消えていく。
星美も一緒にだ。
「待て! 話が違うじゃないか! その子を置いていけ!!」
『手を出さないと言っただけでしょう。 追跡されては厄介ですからな、それまでは人質ということです。 テキトウな所で捨てて行きますので勝手に拾ってほしいですな。 さぁ、車を出しなさいゲソッキー』
もはや身体の半分が車内へと潜り、星美も見えなくなっている。
「真多子ォォォ!! 今だァッ!!」
僕はどこにいても聞こえるくらい大きな声を上げて、切り札へと合図を送るのであった。
初めての作品のため、色々と間違っている所があると思いますので、ご指摘・アドバイスなどをいただけると助かります!
よろしければ、評価・コメント・ダジャレなどもいただけると多幸感で満たされます!