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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第一章~大干支珍道中~
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旅は道ずれ、世は不条理

マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=4955


星美ちゃんイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=34832

「ダハァ~もう喰えねぇ!」


「ミートゥー!!」


「ふぅ、ご馳走様。 二人共、よくそんなに食べられるね……」


 深角(フカク)の兄貴と星美(スターミー)の腹は、水風船のようにパンパンに膨張している。

 鋼の胃袋を超えて、もはやゴムの胃袋だ。


 僕はといえば、流石に常識的な範囲しか食べていない。


 これが魔人類(キマイラ)との身体の差なのだろうか。

 僕も右眼が治ったら、あれくらい食べてみたいものだ。


 さぞかし満足感があるのだろう。

 人の身に近い自分の身体が恨めしい。


「いや~作り甲斐があったよ~。 アタシは片付けしちゃうから、みんなはゆっくりしててね」


「悪いな、よろしく頼むよ真多子(マダコ)


 僕も片付けを手伝おうかと思ったが、屋台の中はそこまで広くないので邪魔になるだろう。

 ここは彼女の好意に甘えることにした。


 せめて真多子が机の上の物をまとめて、運びやすいようにだけしておく。


 ともかく皆の食欲が凄まじく、空き皿だけでも大変な量になっていたのだ。

 その全てを一人で焼き上げた真多子の腕前は相当なものだろう。


 何せ、彼女の腕は六本だ。

 プロが三人いるようなものである。


 それでも僕達三人を満足させるには、休む暇も無かったはずだ。

 屋台組み立ての時はほとんど動いていなかったとはいえ、かなりの重労働だろう。


 たまに様子を見る限り、真多子はたこ焼きを焼く合間にちょこちょこ味見もかねてつまんでいたらしい。

 一人だけ食べ損ねたということがないようで一先ず安心した。


(さっきは元気な顔を見せていたけど、疲れているのは間違いないよな……後でお礼も兼ねて労おう)


 真多子はタコの特性が強いため、全身が筋肉の塊だ。

 だが強い身体の代わりに疲労が溜まり易い体質なのである。


 そのため、僕がよくマッサージをして筋肉疲労を和らげ支えているのが最近の日課だった。

 この前の捕物事件の夜などは、かなり念入りに施術している。


「そういやぁ、タコロー。 お前ぇ中央行きたいって言ってたよな。 何しに行くつもりだ?」


「あ、そっか……あの爆発騒ぎで兄貴に言ってなかったね。 詳しくは口にできないけど、僕のやってる本業の方で用事があるんだ」


「ほーん、ニンジャのやつか。 しっかし、中央か……こんな田舎よりも発達してるって聞くじゃねぇの。 一度拝んでみてぇもんだぜ」


「ミートゥー!! お姉さま達だけで旅行なんてズルいデース!!」


 中央『庇護本(ヒゴモト)の国』、そこが僕の任務の目的地だ。


 しかし、どうにもこの依頼からはきな臭いのが拭えなかった。

 遊びに行くわけではない以上、生返事で同行させるわけにはいかない。


「一応断っておくけど、この旅は僕と真多子の二人旅の予定だよ。 どんな危険が待っているか分からないし、巻き込めないからね」


 僕はいつになく真剣な面持ちで釘を刺す。

 手伝ってくれた二人には悪いが、これは二人のためでもあるのだ。


 だが兄貴はそんな僕の気持ちをぶった切り、空気を割るような大声を張りながら僕に顔を寄せる。

 兄貴のツバが僕の顔面をビシャビシャに濡らすほどにだ。


「水臭ぇぞタコロー!! 俺とお前ぇの仲じゃねぇか!! 第一なぁ、一人でアレ運転できんのかよ?」


「あ……」


 その瞬間、シマッタという言葉が頭に浮かんだ。


 『アレ』と兄貴が親指を後ろに指した蒸気屋台『ヤタイヤタイヤ』。

 世界に一台しかない特注品を製作者以外の誰が動かせよう。


 僕は部品集めの指示しかしておらず、製作過程は一つも見てすらいないのだ。


「よぅし決まりだな! こっちの女にも見飽きてた所だし、いやぁ~楽しみだぜぇ! マヴい女が多そうじゃねぇの、うしゃしゃ」


 結局、兄貴の好奇心と性欲に押し切られてしまった。

 既に両手に華の未来を想像しているのか、だらしなく涎を垂らしている。


(そっか、兄貴は女癖が悪くてこの大干支(オオエド)の街じゃ相手にしてくれる人いないもんね……)


 兄貴の境遇を案じ、少し悲しい気持ちになる。


 なぜなら兄貴の発明の代表作が特殊な海藻で作った透明の衣服だ。

 さらにはそれをなんとか着せようと、男連中で団を組み推進運動までやっていた。


 もちろん失敗に終わったのだが、そんなことをしていれば、それはもう女性陣から嫌われるだろう。


 使い方次第では便利な発明品なのだが、兄貴の目的は女性の裸を見たい一心だったのだ。


 助平心をまったく隠さない男らしさは、流石兄貴らしいというところだが。


「ううん、じゃぁ兄貴には運転を頼むとして……」


「ストォォップ!! その先の言葉は不要デース!! ミーは絶対お姉さまについていきマース!!」


 問題はコチラの手の付けられないお転婆娘だ。

 僕の言葉を遮り、横暴なことを宣言しだした。


「何言ってるんだよ、お前まだ子供じゃないか。 学校……はもう休みか、それでも危険な仕事に連れていけるわけないだろ」


「リッスン!! ティーチャーは言いマシタ!! サマーヴァケーション中は大人の手伝いをしなさいと!! それにタコロウはどうせまたヒトデ不足でヘルプミーと助けを呼ぶデショー!!」


「ぐぬ……」


 少々痛い所を突かれた。

 確かに今回の依頼内容は、どこにいるとも知らない相手を探す闇雲なものだ。


 人探しで手は多いに越したことはない。

 今回コイツと作業をして、存外使い道のある特性なことも理解している。


 それでも子供を引っ張り出すのは気が引けた。


 だいたい、この子は先々代の預かっている子供なのだ。

 僕や星美の一存で旅になど出れるわけがない。


「だけど、先々代に話を付けないとどうしようもないだろ。 やっぱり無理だね」


「チッチッチ、スイーツより甘いデース!! リトルミーズ、カモン!!」


 星美が指を鳴らすと、どこからともなくライトアップされた分身体が姿を現す。

 ご丁寧にスモークまで焚かれ、ドラムロールだって鳴っている。


(まだ戻していなかった分身がいたのか……)


 突然の一人劇団が始まり、僕が呆気に取られていると小さな星美が面を上げる。


「ウォッチミー!! マスターからの伝言デース!! 『可愛い子には旅をさせよ』、ゴーサインデスヨ!!」


「ウソだろ……!?」


 予想していなかった報告に、思わず言葉が漏れる。

 だが、先々代なら言いそうではあり、半信半疑で否定しきれない。


 もはや止める口実は無い。

 このままでは、本当に子供を巻き込むことになってしまう。


「みんなお待たせ~。 飲み物とか欲しい?」


 そこへ、丁度片付けが終わった真多子が帰って来た。


(良かった……! 慕っている真多子の言うことなら素直に聞いてくれるだろう。 星美に考え直すよう説得させる好機だ!)


 お子様が余計なことを言い出すまえに、僕は慌てて真多子を捉まえる。


「真多子! コイツに旅を諦めるよう言ってくれ! 先々代にまで根回し済みだから手に負えないんだ!」


 必死に訴えるが、当の真多子はキョトンとした表情でコチラを見返してくる。


 急に話を飛ばし過ぎたか、やはり順序立てて説明するべきだった。


「話が付いてるのは当たり前だよコーちゃん。 ミーちゃんに出発の連絡しておいてって頼んだのアタシだもん。 急に出発したら、おじいちゃん心配しちゃうからね~」


「イグザクトリィッ!! そういうことデース!! お姉さまはちゃんとミーを評価してくれてマース!!」


「ウソだろ……」


 またも予想外の事態に言葉が漏れる。

 今度はかなりトーンが低く、もはや諦めに近い溜息のようなものだ。


 唯一の味方だと思っていた真多子すら、このお子様側らしい。

 由々しき事態である。


(もしや子供を連れ出さない方がいいと考える僕の方がおかしいのか……?)


 世の不条理に、思わず頭を抱える。


 生意気ではあるが、一緒に暮らす家族だ。

 あまり危険な目に合わせたくないと思うのは間違っているのだろうか。


 そんなことを悩んでいると、後方からエンジンをフカす音が響く。


「タコロー! 早く乗らねぇと置いてくぞ! ほい発進」


「コーちゃん、急ぐんじゃなかったの~? 先行くよ~」


「ハリィアップ!! まったく、これだからタコロウは手を焼きマース!! アデュー!!」


 散々なことを言われて振り返ると、僕以外の全員が既に蒸気屋台へ乗車していた。


「なんで僕が置いて行かれることになってるんだよ!! 待ってくれぇ!!」


 この世はあんまりにも理不尽すぎる。


 遠ざかっていく屋台を追いかけ、煙たい蒸気を掻き分けながら僕は駆けるのであった。

初めての作品のため、色々と間違っている所があると思いますので、ご指摘・アドバイスなどをいただけると助かります!


よろしければ、評価・コメント・ダジャレなどもいただけると多幸感で満たされます!

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