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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第一章~大干支珍道中~
19/66

たこパ

マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=4955


星美ちゃんイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=34832

 料理の方は真多子に任せ、僕達は機械油で汚れた作業場の中に落ち着ける場所作りを急ぐ。


「おいおい、何してんだお前ぇら。 腹減ってんだから早く食おうぜ」


「シット!! タコロウ、このノッポおかしいデース!! こんなゴミ捨て場でディナーが出来るわけないデショー!!」


「ノッポは失礼だろ、『深角(フカク)の兄貴』、な。 あと何度も言うけど僕の名前も『小太郎(コタロウ)』だから、いい加減覚えるように。 でもまぁ、確かにこれじゃ食事は難しいかな」


 周囲は突貫作業で脚の踏み場も見えない有様だ。

 ゴミ捨て場という状態は否定できない。


 基本的に片付けが出来ない兄貴がいた場所は、決まって散らかり放題になっているのである。


 ある意味、豪快で男らしい人と言えるだろう。

 流石は兄貴だ。


(だからと言って、機械屑に座って飲食じゃあまりにも味気ないしね)


「兄貴、これだと油の臭いで料理の風味も分からないよ。 せっかくだし美味しく食べよう」


「ア~……タコローの話も分かるっちゃぁ分かるな……ヨシッ。 んじゃ、屋台の上に机とか積んであるからよ、それ引っ張りだせば少しはサマになんだろ」


「上に? 屋根には何も載ってないみたいだけど……」


 兄貴が指差す先、蒸気屋台の上方は普通の切妻屋根に見える。

 傾斜は緩いとはいえ、傾いた二枚の屋根板を合わせた雨除けのもの、とても物を載せるようには出来ていない。


 当然、僕の目には何も映っておらず、思わず眼を擦って二度見した。

 だがやはり何も見えていない。


「ところがどっこい、屋根と天井の隙間に挿し込んであるんだぜ。 こう、折り紙みたいにパタッと折りたたんでな。 屋台のケツから見てみろ、タコロー」


 兄貴が本でも閉じるように、パタと両手を合わせる。

 どうやら蒸気屋台『ヤタイヤタイヤ』には組み立て式の長机と椅子が積んであるらしい。


 兄貴のことを信じていないわけではないが、僕は首を傾げながら屋台の後ろ手に周る。


「ここに……? あっ本当に入ってた!!」


 『屋根(やね)』の上ではなく、『屋台(やたい)』の上とはそういうことか。

 二等辺三角形の屋根の中、そこに折りたたまれた木板が重なっていた。


 グッと引き出すと、木の擦れる心地良い音が手を伝い、新品の切り出した家具独特の匂いが漂ってくる。


「さっすが兄貴! こういう凝ったカラクリ造りは()の国一だね!」


「まぁな、それほどでもある! なんたってオレ様はガキの頃から木を削っては組み立ててたんでな、そこいらの細工師とは年季が違ぇのよ! それというのも……」


(ただ、収納術がここまで長けているのに、掃除がまったく出来ないのは謎だけど……)


 あの饒舌ぶりだと兄貴の自慢話が長くなりそうなので、僕は僕の出来る作業を進めることにした。

 幸い、取り出した机を立てるのはそこまで難しいものではないようだ。


 木板に打ち込まれた蝶番に従って、折り畳み机を組み立てていると、チョイチョイと僕の服の裾が引っ張られる。


「ん、なんだ……?」


 何事かと振り返ると、そこにはふくれっ面の星美(スターミー)が僕を睨んでいたのだ。

 しばらく静かだと思っていたが、もしやずっとそんな顔をしていたのだろうか。


 特に何か恨まれるようなことに心当たりは無いのだが。

 そう思案して言葉を選んでる内に、向こうから口を開いた。


「タコロウ……あのノッポにはタコロウって呼ばれても気にしてないデース」


 何を言い出すのかと思えば、なんともしょうもないことであった。

 どうも自分だけ訂正されたのが気に食わないらしい。


(子供か!……いや子供だったな)


「兄貴はいいんだよ。 愛称みたいなものだし。 お前はわざと間違えてるだろ」


 作業を中断してまで続ける話でもない。

 僕はすぐに机に視線を戻し、あしらうように言葉を返した。


 今日は午後一杯、コイツらに振り回されてへとへとだ。

 これ以上無駄に体力を使いたくないのもある。


「ブー!! そんなのおかしいデース!! ミーのはニックネームとどう違うんデス!!」


(むっ、お子様らしい屁理屈を……)


 ようやく机を組み立て終えて、一旦手を止める。

 その机に腰を預けて星美と向き合うと、(たしなめ)めるように声のトーンを落とした。


「そりゃぁ、僕がちゃんと名前で呼んでくれって頼んでるんだ、嫌がってる相手に使うのは違うだろ」


 目と目を合わせ、できるだけ真摯に諭したつもりだった。

 しかし、急に星美の目が潤みだし、鼻っ面も赤くなる。


 不味い、これは泣きだす兆候だ。

 僕は慌てて言葉を繋ぐ。


「あ、いや! そこまで嫌がってる訳じゃないぞ! 気にしなくていいって!」


「……本当デース?」


「本当! 本当だって、だから泣くなよ……」


 僕はずっと同年代しかいない中央学校で育ったから、あまり年下の子供の扱いに慣れていない。

 こうなった子を相手にどうしたものかと困り果てていた。


 だが、そんな僕の顔を見た途端、星美の涙は一気に引っ込んで乾いてしまった。


「イエス!! 言質は取れマシタ!! これからもタコロウって呼びマース!!」


「……へ?」


 あれだけしおれていた様子が豹変し、元気に騒ぐ生意気な子供に早変わりである。

 つまりウソ泣きだったのだ。


(こ、こいつ……どこで泣き落としなんて手を覚えて来たんだ……!!)


 お子様とはいえ女。

 男を手玉に取る女性の一面を垣間見て、僕は戦慄して開いた口が塞がらないのであった。






「みんな~焼き上がったよ~!」


 蒸気屋台から聞こえる真多子(マダコ)の声で我に返る。


 小さな子供に翻弄されている場合ではなかった。

 僕達の胃袋には美味しい食べ物が必要なのだ。


 組上がった机を多少マシになった広場に設置すると、動揺に椅子も並べる。

 そこに真多子以外の皆が座ると、胃を刺激する魅力的な香りと共にたこ焼きが運ばれて来た。


「このソースと青ノリの匂い……たまらないな」


「オホ~うまっそうだぜ! 出来立ての飯を囲んで喰うのに勝る贅沢は無ぇ! 遠慮なく食い倒れてやろうぜ」


「お姉さまのたこ焼きのテイストはミーが保障しマース!! あまりの(うま)テイストにほっぺがロストするのも間違いなしデース!!」


 葉の大きい広葉樹の両端を結び、舟皿にした容器に入れられた見事なたこ焼き。


 食文化の発展に関しては転生者達に感謝しなければならないだろう。

 なんたって、こんなに美味しそうな料理にありつけるのだから。


「次も焼き始めてるから、食べながら待っててね~!」


「おふ、まふぁふぇたぇ(オウ、任せたぜ!)」


 真多子が配膳を終える前に、兄貴はもう一つ目に手を付けていたらしい。

 熱くてまともに声が出せていないが、口の中で少しづつ冷ましながら味わっているらしい。


 中々に器用なことをしている。

 火傷しないのだろうか。


「シット!! 先を越されマシタ!! ミーも食べたいデース!!」


「あっ、おい僕のだぞ!」


「ンン~!! おいふぃデース!!」


 僕が手に取ろうとしていた爪楊枝を横取りし、星美も兄貴に続き口へと放り込む。

 おまけに、美味しさに悦ぶ表情をこれ見よがしに僕へ見せつけて来た。


 腹が立つと言いたいところだが、腹が減って立つものも立たない。


 僕は素直に他の爪楊枝を手に取り、今度は邪魔の入らぬ内に口へと運んだ。


「ほふ、ほふ、おお……美味い!」


 以前に出店の作り置きを真多子から貰ったことがあったが、やはり出来立ては全然味が違う。


 中のトロリとした具が口に広がり、ダシの味と調味料の風味を強く感じられる。

 しっかりと熱を通し、歯ごたえのあるタコのコリコリとした弾力も小気味良い。


 特に、このソースは素晴らしい。

 果物を使った黒くてやや粘性のある液体だが、酸味が油の強さを中和しどんどん食べていけるのだ。


 疲れた身体に、このエネルギーの塊のような食べ物は劇薬すぎる。

 三人とも手が止まらず、口には常にたこ焼きの味が満たされていた。


「お待たせ~! おかわり思って来たよ!」


「よっしゃドンドン来いやぁ! オレ様の鋼の胃袋をお前らに見せてやるぜぇ!」


「流石は兄貴、けど今回は僕も負けない気がするよ」


「残念、ウィナーはこのミーデース!! お姉さまのたこ焼きだけは絶対負けられないのデスヨ!!」


 喰えども喰えども運ばれてくるたこ焼きの山。

 出店で鍛えた真多子のピック捌きは衰えを見せず、僕達の胃袋を満たしていく。


 蒸気屋台『ヤタイヤタイヤ』の完成式は、盛大なたこ焼きパーティで盛り上がるのであった。

初めての作品のため、色々と間違っている所があると思いますので、ご指摘・アドバイスなどをいただけると助かります!


よろしければ、評価・コメント・ダジャレなどもいただけると多幸感で満たされます!

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