完成、ヤタイヤタイヤ
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蒸気屋台の組み立ては、出だしこそ不安が残るものであったが、すぐに成果が見えて来た。
「まずはパーツの分解からやってくれ。 裂けた機械部分から使える部品だけでも掻き集めるんだ」
「トゥイージィ!! こんなものカズノコサイサイデース!! どんどんバラしていきマショー!!」
「カズノコ……おちゃのこのことか?」
「シャラァップ!! 細かいことを気にする男はモテないデース!!」
「余計なお世話すぎる……」
なんだかんだと僕に噛みついてくる星美達も、真多子の屋台のためとあればいつもより素直に指示を聞いてくれたのだ。
ただし僕が何か口にするたびに、サラウンドで分身体達から返し言葉が飛び交うので、僕の心労が尋常じゃない。
だが今回の協力で星美のことを見直した、というよりも僕は彼女のことを甘く見過ぎていたと痛感した。
荒事には全く向かない上に、隠密性もまるで無い特性だが、とかく人手が要りようの時にはここまで頼もしく感じるは思わなかった。
相手は子供だからと、また僕は頭の固い思考になっていたらしい。
僕はもっと相手の本質を見る、真多子のような柔らかい頭に切り替えないといけないだろう。
「そっちの手の空いてる組は、こういう細長い管を掘り出してきてくれ。 そこのお前らは部品を整理してくれ、長さや穴の大きさの違いも気をつけてな」
「ブー!! タコロウも口だけじゃなく身体を動かせデース!!」
「僕はお前らの司令塔役だからいいの。 ほら、その陰で遊んでるグループは作業に戻るんだ」
皆で大きなエンジン部分を見つけた後は、細かいパーツなどは各個に部隊を分けて集めさせているのも便利であった。
工具さえあれば星美の非力な分身体でも容易に解体出来るため、必要な材料の収拾に困らないのも幸いしたのだろう。
僕の目の前にはあっという間に、整理された選り取り見取りの部品市が開かれていた。
このままお客を呼び込んでも充分に通じる見易さであり、まさに壮観といえる。
これならば、一目見渡せば欲しい部品と足りない部品が把握できるだろう。
屋台の設計図は兄貴の頭の中にしかないため、確認のために本人を呼ぶ。
「よしっと……兄貴、こんなものでどうかな? 足りないものがあれば探してくるよ」
「おう、どれどれ……ウヒョー! いいねぇ、やれば出来るじゃねぇのお嬢ちゃん達! おっしタコロー、ついでだからオレ様のお宝全部やっといてくれや」
恐らく初めてであろうこの広場の整頓された光景を一望し、目を輝かせる兄貴。
しかし、いくつかの部品を両手で拾うとすぐに作業場へと振り返り、さらに仕事を押し付けられてしまった。
兄貴のお宝、つまりここにあるガラクタ山脈のことだ。
一山崩すだけでもあれだけ忙しかったのに、その全てを片付けろいうのか。
絶対に星美達から大顰蹙を買うに決まっている。
このままでは僕の繊細な硝子の心が粉々に砕けてしまうだろう。
「いや兄貴、流石に全部はちょっと……」
「馬鹿野郎、タコロー! 男ならなぁ! ここぞという時にケツで踏ん張れるようにならなきゃぁ、いけねぇのよ! ケツの穴のちいせぇことヌカしてんじゃねぇ!!」
「ぐ……う、うんそうだね。 分かったよ兄貴! それと、お尻が丸出しのままだよ兄貴……」
「オホッ!? 道理で風通しが良いと思ったわけだわな。 ま、死ぬわけじゃあるまいし細かいことは気にすんなって、モテねーぞ!」
ここに着いた時の爆発で焼けたのだろう、兄貴の尻は丸出し状態である。
先程ガラクタの山から助け出す時も、この尻が目印になっていた。
しかし、そんなことを意にも介さない男気はさすが兄貴だ。
リーダーシップといい、僕との器の差を見せてくれる。
(やっぱり兄貴はスゴイ……!! 僕も尻くらいで騒ぐような小さな男から卒業しなきゃな!!)
憧れの人に激励されたとあっては、くよくよ泣き言を言っている暇はない。
僕は気を引き締めて、キャイキャイと好き勝手騒ぎ文句を垂れる星美達に立ち向かうのであった。
「ケイ、オー!! ウィナーは……ミー!!」
僕の目の前は真っ白に染まり、機械油の臭いが染みる地面へと倒れ伏す。
その背中へ、追い打ちをかけるようにのしかかる重量感が襲った。
「ぐえっ」
小さな子供とはいえ、勢いをつけて飛び乗られるとかなりしんどい。
踏み潰されたカエルのような、情けない声が漏れ出した。
僕は兄貴に頼まれてから、あの後かなり頑張った。
よくあそこまで頑張り抜いたと、自分を褒めてやりたいくらいだ。
そのおかげで、周囲から苦情続きのガラクタ山脈はすっかり姿を消し去っている。
こじんまりとした出店くらいだった部品置き場も、巳の国一の大商店と謳えるほど広く整頓されていた。
傾いた夕陽に照らされ、それは見事な陳列状況といえるだろう。
文句のつけようもないはずだ。
(しかし……どうしてこんなに元気なんだ……)
僕の背に跨り、疲れをまるで見せないお子様のことだ。
こちらは周囲に気を配り続け、絶えず指示を出し、声を張っていた。
だが、星美達だって彼方此方へ動き回り、ずっと作業していたはずなのだ。
(おかしい、どこで差がついた……子供の体力は無限にあるのか……?)
干物のように干からびた僕の上で喧しく勝利宣言をする、このお子様が恐ろしい。
自分が幼い頃もここまで活発であったのだろうか。
「あ、こら~! もう、ダメでしょミーちゃん! コーちゃんとは仲良くしないと、ほら降りて降りて」
「オゥソーリー、お姉さま……でもタコロウが悪いんデース!! 偉そうに口ばっかりの男デスヨ!!」
「うぅ、真多子……助かった……」
幼女に踏みつけられていた僕の身体を真多子が優しく抱き起してくれた。
霞む瞳に映る彼女の姿は、6本の腕がまるで翼のようで天使に思えて来る。
ガミガミ煩い小悪魔娘とは大違いだ。
「あっそういえば、屋台完成したよ! 二人共見て見て~! カッコイイんだから!」
「イエス!! 見たいデース!! ヨボヨボおじじのタコロウなんて置いて、見に行きマショー!!」
「おお、そういえば僕達は作業場に近付いてないから、全然進捗知らなかったんだよな。 よいしょっと、早速行こうか。 抜け駆けしようとする薄情なヤツは来なくてもいいぞ、痛ッ!!」
散々僕に馬乗りしてきた星美に嫌味の一つでも返そうと思ったが、脛蹴りという地味に痛い報復を受けたのでそれ以上は口にチャックしておく。
相手は多勢、こちらから手が出せない以上、あまりにも分が悪い。
作業場に入ると、兄貴が布に包まれた何かの横に立っていた。
「おう、来たかお前ぇら。 そんじゃ、目をかっぽじって、よぅく見てな!」
僕達の顔を見るなりニヤリと歯を見せて笑い、その布を取っ払って隠されていたシルエットを明らかにする。
「おぉ……これが……!!」
「ブラーボゥ!!」
「どうよ、名付けて『ヤタイヤタイヤ』だ! どんな悪路でも料理できる優れものよ!」
それは一見すると、やや胴長の馬車のように見える。
だが先頭で引くための持ち手などは無く、『異世界』でいうところの車に近い形であった。
車体を支える車輪は全部で8つ見られ、八輪走行と屋台を掛けた名前ということなのだろうか。
その奇抜な見た目で呆気に取られていると、車体横に着いた突き出し窓がコチラへ開き真多子が顔を出す。
「じゃじゃ~ん! ちゃんとここで料理もできるんだよ~! フカくんに色々付けてもらったんだ~!」
真多子の声に混じり、何やらジュウジュウと焼ける音、そしてお腹を鳴らす香しい煙も飛び出して来た。
この匂いは恐らく、真多子がたまに出している出店『明石家』自慢のたこ焼きだろう。
「へっへっへ! 蒸気の余熱を鉄板に回してんのよ。 オレの自信作だぜ」
「みんな頑張ったからお腹空いてるでしょ? いっぱい焼くから休憩にしようよ!」
そういえばまともな休憩もしていなかった。
僕は生唾を飲み込むと、お腹の虫が暴れ出す前に屋台へと駆け寄るのであった。
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