ヒトデ不足にヒトデ参上
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深角の兄貴はガラクタの山を掻き分け、まだ生きている蒸気エンジンを探し始めている。
ここに積まれた失敗作達は、兄貴の血と涙と努力の副産物だ。
だが、景観の悪さと度々発生する爆発事故のせいで、このように雑然とした有様で放置されている。
そのせいか周囲に民家は無く、ここを中心とした空き地が広がっているのだ。
苦情も当然来るらしいが、兄貴はいくつかの発明品で財を成してそこそこの富家であるため、大雑把に金銭で解決してしまう。
ここにある研究材料も全て兄貴が自費で掻き集めたもの。
そんな兄貴の好意に頼っていて注文を付けるのは申し訳ないが、中央への移動は急務だ。
なるべくすぐにでも蒸気屋台が手元にほしい。
僕は恥を忍んで訊ねてみることにした。
「兄貴……忙しいところ悪いんだけどさ、組み立ての方はどれくらいで終わりそうかな? 僕達、明日か明後日には中央まで行きたいんだ」
「アン、屋台か? あ~……そうだなぁ」
自分でもかなり図々しいのは理解している。
しかし、今僕が頼れるのは兄貴しかいないのだ。
駄目で元々、きっと兄貴なら不可能を覆してくれるという期待を込めて返答を待つ。
「まぁ頑張っても後二日じゃねぇの? いくらオレ様の頭の中に完成図があるからって、人手が足りねぇしな」
完成は明後日、それでは午の国を経由するのと変わらない。
相手と連絡も取れないのに、そんなに時間を開けてられては困るのだ。
「そんな!? 僕と真多子も手伝うし、それでも早くならないかな……!!」
「バッカおめぇ、何言ってんだタコロー。 当然お前ら含めての作業時間に決まってんだろうが。 まだエンジンだって見つかってねぇってのに、ほらタコローもさっさと探せ!」
そう言いながらも、兄貴は金属片の山からアレでもないコレでもないと部品を選別し、山を切り崩して新たな小山を築いている。
爆発の度に小屋ごと部品が彼方此方へ散乱するものだから、目的の物を見つけるのも一苦労であるということか。
(完全に僕の見通しが甘かった……確かに兄貴の頭なら完成図はすぐ浮かんだ。 でも、その材料を探す工程がここまで時間の掛かるものだったなんて……)
急に肩の力が抜け、ガックリと首もうなだれる。
途方に暮れるとはこういう状況を言うのだろうか。
僕の受けた任務はいきなり出端を挫かれ、幸先の不安な始まりとなってしまった。
いったい、国主様や真多子にはなんと言えばいいのだろう。
(頭脳労働担当だなんて聞いて呆れる不始末だ……)
僕が頭脳で真多子が肉体で、二人でようやく一人前の軟体魔忍だなどと浮かれている場合ではなかった。
「クソッ、せめてもっと人手があれば……」
大干支はこれから夏本番の観光シーズンが来る。
今はそれに向けて誰もが忙しく準備に走り、手の空いているものなどいるわけがない。
(人手、そういえば真多子のやつが見当たらないな……いつもなら騒がしいくらいだから、探さなくても場所が分かるのに)
僕と兄貴と真多子、この三人揃ってもようやく完成に二日なのだ。
肝心なところでいなくなられては困る。
僕が伏せていた頭を上げて周囲を見渡すと、聞き慣れた声が広場に響く。
「ヘェェェーイ!! その負け犬みたいにしょぼくれた顔、よほどヒトデにお困りのようデース!!」
この耳にキンキン響く声と変な喋り方はアイツしかいないだろう。
声の方へと振り返ると、今朝追い返したヒトデ娘の星美がそこにいた。
「負け犬ってなんだよ、僕は今忙しいんだから大人しく学校へ戻るんだ。 どうせまた抜け出して来たんだろ」
このお子様は隙あれば僕を敵視して貶してくる。
懐いている真多子が付いていないと、僕には手に負えないお転婆娘だ。
今回は普通の子供くらいの背丈なので、分身ではなく本体がここに来たのは明白。
いい加減、学校へ謝りに行く時間もないのだし、これ以上面倒を増やさないでほしいものだ。
「シャラァップ!! ルーザーはお黙りデース!! 事情はお姉さまから全て聴きマシタ!!」
「そんなこと言わないでよコーちゃん。 ミーちゃんはね、アタシが呼んで来たんだ~。 きっとコーちゃん困ってるだろうな~って思って」
星美に続いて、しばらく見当たらなかった真多子も姿を現す。
急いでいたのか服が汗ばんでおり、少し息が上がっているようだ。
しかし、そこまでして連れて来る価値が、このちびっ子にあるのだろうか。
まだ未成熟なため、力は僕よりも弱いというのに。
「そりゃ困ってはいるけど……あっそうかヒトデって……!!」
毎朝のアサリ採り等雑用くらいにしか役に立たなかった特性だが、星美はヒトデらしくその身を分けて増やすことが出来るのだ。
ただし分身体は本体よりも小さく、さらに非力である。
だがつまり、今一番必要としてる『人手』の確保ならこの娘一人で解決出来ると言うことだ。
「ザッツライッ!! ズバリその通りなのデース!! ついにミーの自慢のリトルミー達がライトアップされる時なのデス!! ヘイ、カモーォォォン!!」
劇場で声を張っているのかと思う程やかましく叫ぶと、ガラクタの山の陰から小さい星美達がぞろぞろと足並み揃えてやって来る。
まるで一人劇団だ。
「オイうるせぇぞ! 真面目に働いてるのはオレだけかよ……って、ウォォなんじゃコリャァァ!?」
僕の後ろから兄貴の腰を抜かす声が轟く。
同じ顔が視界一面にズラリと並んでいるのを初めて見れば、ああなるのも仕方ないだろう。
正直、僕もこの光景を目にして、まだ少したじろぐ。
「じゃじゃ~ん! これがミーちゃんの海星忍法『自己増殖の術』だよ~! 驚いたでしょ!」
「フッフッフ~ん!! 驚いたデショー!!」
「お、おお、スゲェマブいじゃねぇか! なんだよタコローちゃぁん、伝手に心当たりがあるなら早く言えってぇの」
腰がまだおぼつかないのか、兄貴は僕の首に腕を回して寄りかかる。
これで大幅に作業が進むので上機嫌なのか、ちょっと気色悪い猫なで声で僕のこめかみをグリグリと拳で擦って来た。
「痛てて、ちょっと、痛いって兄貴!」
僕よりも背の高い身体に体重を掛けられては逃げるに逃げられず、兄貴にされるがままになっている。
抵抗虚しく脱出の手段がないと悟ると、仕方なくこのまま話を進めることにした。
「でも手伝うって、まだ学校の時間だろ? そっちはどうするんだよ」
結局無理やり連れだしたって、この子の教育に良くはないだろう。
連れて来た真多子には悪いが戻してやるべきだ。
「ノープロブレム!! ミーは午後からもうサマーヴァケーション、夏休みデース!! 子供はみんな親の仕事の手伝いをしなさいってティーチャーも言ってマシタ!!」
(知らなかった……こっちの夏休みってこんなに早く始まるのか。 でもよく考えたら、大人でさえ観光シーズンに備えて手が足りないんだから、子供を使うところが多くて当たり前か)
僕は中央の転生者が集う学校でしか学生生活をしらない。
巳の国のこういう習慣には疎かったため、目から鱗であった。
「そういうこと! 今朝早くからウチを出てたのも、終業式の準備があったんだって。 これでコーちゃんも文句ないよね? さぁアタシの新しい出店作りに取り掛かろ~!」
「あ、うん。 そういうことならよろしく頼むよ。 呼んできてくれて本当にありがとうな真多子」
「えへへぇ、いいっていいって! コーちゃんのためだもん!」
「ストーッッッッッップ!! お礼はミーに言うべきじゃないデース!? なんて薄情なタコロウデース!!」
そういえばそうである。
バツが悪いが、誤魔化すように笑いながら星美へお礼を言うと、兄貴がようやく僕を離してくれた。
そのまま兄貴は大きく手を鳴らすと、皆の注目を一斉に集める。
「おっし! そうと決まれば仕事割り振るぞ! ヒトデの嬢ちゃんは部品を探せ、とにかくここが一番面倒臭ぇ!」
「イェッサー!! お任せされたデース!! 行くのデスよ、リトルミーズ!!」
兄貴に指示を飛ばされた星美と分身体は、バタバタと土煙を上げながら散開する。
本当に分かっているのだろうか。
目的も無く散ったようにしか見えず、不安しかないのだが。
「タコローは部品の種類くらい分かるだろ、嬢ちゃん達に指示を出しとけ、喧嘩すんなよ!」
やはりそうなるのか。
僕は無秩序に散らばった星美達をまた集め直すところから始めることになった。
「マダコはオレの手として助手に周れ、工具沢山持てるしな!」
「おっけ~! コーちゃんそっちは任せたからね~! ミーちゃんと仲良くするんだよ~!」
頼みの綱である真多子と離れてしまった。
星美は真多子の言うことだけは素直に聞いてくれるのに、僕だけで大丈夫だろうか。
「オレ様は組み立てだけやる、ここが一番楽しい! 以上、解散!」
兄貴がテキパキと各員へ指示を出して作業に取り掛かる。
(流石が兄貴だ。 軟体魔忍の頭目を名乗るなら、僕もああいうリーダーシップを発揮できるようになりたいな)
僕の中で益々兄貴への尊敬の念が増すのを感じながら、星美達への指示出しに奔走する作業が始まった。
初めての作品のため、色々と間違っている所があると思いますので、ご指摘・アドバイスなどをいただけると助かります!
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