漢、鮫島の一生の不覚
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「通りまーす!! っとと、すみません!! うわ、ちょっと急いでて!!」
繁華街の大通りで行き交う人の波を掻き分け、寂れた地区へと脚を進める。
道中何度も通行人とぶつかりそうになったが、なんとか大事には至らず抜けることが出来た。
僕や真多子の住んでいる方向とは違うが、密集した家が見当たらなくなる寂れ具合は同じだろう。
遮るものなく視界も通り、目的の広場が見えて来た。
「待ってよコーちゃんってば!! あれ、ここって……」
「兄貴!! ちょっと頼みたいことが……」
僕は広場に飛び込むなり、ガラクタの山に囲まれたオンボロあばら家の戸を勢い良く開け放つ。
しかし、その先に出迎えていたのは、僕の期待していた人物ではなく白く生暖かい蒸気であった。
白い霧に何か影のようなものが浮かび上がったかと思うと、急速に大きくなっていく。
それがコチラに向かって走っている人影であると気付いた頃にはもう遅かった。
「ウォォォォ!!! 逃げろ、タコロォォォォ!!! ドフォ!!??」
「はい?…………ウボォア!?」
オンボロあばら家が、大爆発で吹き飛んだのだ。
「コーォォォォちゃぁぁぁぁぁん!!!!」
僕の視界が暗転し、世界が一瞬認識出来なくなる。
耳もおかしい、キンキンと聞こえないのに聞こえる音が反響する。
まるで空でも飛んでいるみたいな浮遊感が続いており、夢でもみているのだろうか。
しかし僕の視界が元に戻ると、それがただの自由落下であるという、非情な現実を目の前に突き付けられる。
「うわぁぁぁ、ま、真多子ぉぉ!!!」
もはやこれまでか、地面に激突し僕の全身の骨が砕け散るのも時間の問題だ。
藁にも縋る思いで真多子の名前を呼ぶ。
考えてみれば、ここへ来ることに頭がいっぱいで、彼女が後ろを着いてきていたか記憶が曖昧だ。
もう手遅れなのかもしれない。
「ひぃぃぃぃグヘッ!!」
死を覚悟したその時、急に体が上へと引っ張られて息が詰まる。
肺が自重に押し付けられて、中の空気を一気に放出したのだろう。
「ゲホッ……ハァ、ハァ、あれ、生きて、る?」
「コーちゃん無事? 良かった~!! も~アタシがいなかったら大変だったかもしれないんだからね! 置いてっちゃダメでしょ、もう!」
「あ、ありがとう真多子。 本当に死ぬかと思った……あれ、兄貴は?」
そうだ、ここに来た目的はあの人に会うことである。
突然のハプニングで頭から離れていたが、僕と一緒に飛ばされているはずなのだ。
無事だといいのだが、いくら魔人類の身体とは言え心配だ。
「フカくん? それならあそこに刺さってるよ」
真多子の指差す方向に沿って視線を流すと、ガラクタの山の一角に人間に下半身らしきものが逆向きに直立していた。
見間違いかと思い眼を擦る。
再び見直すと、見覚えのある作業ズボンに、ほつれた穴からこれまた見覚えのある臀部が顔を出している。
あんなにキッパリと割れた筋肉質な男児の尻は一人しかいない。
エクボのような窪みがその証拠だ。
「あ、兄貴ィィィ!?」
僕は自分の足がおぼつかないのも気にせず駆け寄り、冬の大根のように反り立つ両脚を掴んで引きずり出す。
ガラクタがガラガラと音を立てて崩れていくと、次第に身体が掘り起こされ、ようやく頭が見えて来た。
兄貴は僕よりもずっと長身なものだから、引っ張り出すのも一苦労だ。
「ブハァッ!? い、生きてる!? むさ苦しい男の顔が目に映るってことぁ、まだあの世じゃねぇな! つまりオレはまだ生きてるんだな! ウォォやったぜチクショウ!!」
まだ逆さまに吊られたままの兄貴は、開口一番元気に叫ぶ。
まるでマンドラゴラだなと思いながらも、彼を起こすと身体の埃を叩き落とし始めた。
この様子だと、身体に異常もなさそうだ。
「良かった……兄貴も無事そうだね。 でも今度は何をしでかしたのさ兄貴?」
「あっ、フカくん変な頭になってるよ! マリモみた~い!」
「ンナニィ、マリモだとぉ!? なんじゃコリャァァ!!!」
真多子の一言を耳にした途端、兄貴は自身の髪がチリチリのアフロヘア―になっていることへ驚愕する。
するとすぐに自らの口の中へと右手を突っ込み、トラバサミのように連なった歯を取り出した。
それを櫛のように操りヘアスタイルを整えると、ようやくいつものリーゼントヘアへと見事にまとめ上げた。
サメの鼻っ面のように突き出すこのリーゼントは、兄貴のアイデンティティとも言える。
「フゥ~……漢、鮫島深角、一生の不覚ッ!! ちぃと圧力を上げ過ぎて暴走させちまったとはよ」
「兄貴……アレってちょっと暴走したとかいう規模じゃなかったと思うけど……」
「また小屋が吹き飛んじゃったもんね~。 フカくんの一生って何回あるんだろうね?」
「うるせぇ! ニャンコロにさえ9つも魂があるんだ、オレ様にだって10や100の人生があったって構わねぇだろうがよぉ!」
鮫島深角、長身で青髪リーゼントのこの男は僕の兄貴分だ。
血の繋がりは無いが、僕の最も尊敬する、心の兄貴なのである。
(まぁ、たまにこういう事故に巻き込まれたりもするけど……それでも凄い人だと思ってる)
鮫の特性を持つ魔人類であり歯の再生能力が高いため、よくああやって自慢の髪を整えている。
それだけではなく、魔人類でありながら発明家でもあるのだ。
この世界において新技術を作るのは、いつも前世の記憶を持つ転生者達だ。
そんな常識を打ち破る破天荒な漢、それが深角の兄貴なのである。
(兄貴といると不可能なんて無いと思わせてくれる。 僕の右眼を直す方法だってきっとあるはずだって……)
「おっと、そういやどうしたタコロー。 オレに何か用でもあったんじゃねぇのか?」
「アッ! そうだよ兄貴! 兄貴が研究してる蒸気機関で馬車を作れないかな?」
「馬車か……前に進めばいいんだろ、まぁ出来なくもねぇな。 それも異世界にあるやつか?」
兄貴は顎に手を当て、何やら目算している。
おそらく、いつものコダワリというやつが気にかかるのだろう。
僕と兄貴が出逢ったのは、僕のことを転生者だと思って近付いてきたのが始まりだった。
何かを思いついても、大抵のことは既に転生者達が産みだしており気にくわなかったそうだ。
だが、僕が持っているのは半端な知識だけで転生者ではないと分かるや態度を変え、僕のことを可愛がってくれるようになったのだ。
そうして、今回のように異世界にある知識かどうかの確認だけされている。
男なら、自分しか考えつかないようなデッカイ夢を造り出したいのだそうだ。
ちなみに蒸気機関の研究をしているのは、転生者達が電気関係の方にばかり目を向けているから、コチラの分野を独占的に研究し尽くしてやるのだと言っていた。
兄貴なりの転生者達への反逆だ。
「えっと、たぶん。 そういう車はあったらしい?」
そうはいっても僕の右眼から得られる記憶は虫食いだ。
知っているものと知らないものの差が大きい。
知らない他人の記憶だから文句は言えないが、それでももっと専門的な知識が入っていれば役に立てたのに。
「かぁ~、それじゃぁツマらねぇ! もっと、こう……もう一捻り加えなきゃぁオレ様の色が出ねぇってもんだろ!」
「えぇ……そんなこと言わずに頼むよ兄貴」
「あっ! じゃぁ、じゃぁ、アタシ屋台が欲しいな~! 動く屋台! いちいち出店の準備するのって大変なんだよね~」
「おいおい真多子、車も屋台もほとんど変わらないだろ」
車と屋台なんて、荷物を載せられるか、荷物が載っているかの違いくらいしかない。
そんな小手先の提案で、兄貴の小難しいコダワリを満足させるわけがないのだ。
「おっ屋台か。 それならいいぜ! まともなエンジンは探せばまだあんだろ、ちょっと待ってな組み立ててやっからよ」
「やった~! フカくんもたまには役に立つよね~!」
「あ……そういうのでいいんだ……」
どうも僕より真多子の方が兄貴と通じ合ってるようで負けた気分である。
しかし、これで移動手段はどうにかなりそうで、一先ず助かった。
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