新たな任務・怪しい荷物
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真北に位置する『子の国』、そして真南に位置する『午の国』。
その二カ国を結ぶ直線上にあるのは中央、干支連合に囲まれた『庇護本の国』だ。
そこは非力な純人類が統治する、守られた国。
いつか異世界への帰還を願い、その国名を『日の本』という異世界の国名に掛けたのだという。
この国への魔人類の入国には非常に厳しい審査が入り、それは干支連合同士の国を行き来する国境越えより遥かに難しいものであった。
その前提から、はなから中央を考えから外していたのだが、振り返ってみれば犯人は転生者なのである。
僕が中央の学校へ飛ばされたように、彼女も庇護本の国の地理に詳しくて当たり前だったではないか。
「つまり……犯行を行った二つ目の国というのは庇護本、本当に中央での盗品だったのか……!!」
「ご名答、流石はタコロウ君だ。 ところで、君の相棒君に何か言うことがあるんジャないかな?」
ようやく僕が答えを導き出すと、国主は頬を動かさずに目元だけを細め、僅かに声色を上げる。
感情が読み難い人だが、これはかなり分かり易い、僕をからかっているのだ。
「う、その……疑って悪かった、真多子。 お前の眼の良さは今後も頼りにするよ、よろしくな」
「え? えへへぇ、いーのいーの! なんたってアタシはコーちゃんの『相棒』なんだもんね! どんどん頼ちゃってよ~!」
先ほどまでムスっとヘソを曲げていた真多子が、謝罪の一言を聞いた途端にコロリと機嫌を良くする。
なんとも喜怒哀楽のハッキリとした分かりやすさだ。
国主様もこの半分でもいいから読みやすいと助かるのだが。
それに真多子の観察眼には、実際助けられることも多い。
肉体労働担当だが、今回だって彼女なりに現場の状況を把握し、僕の助けになろうとしていたのだろう。
その場の言葉だけではなく、本当に真多子のことをもう少し頼ってもいいかもしれない。
(僕は一人で格好をつけたがる悪い癖があるようだしな。 今回の件は、国主様にそれを気付かされたような気がする)
「うんうん、君達には今後、より一層の連携力を発揮してもらわなければワタシが困るからね。 切っ掛けが出来て良かったジャないか。 欲を言うなら、さっさと次世代を作ってくれるとワタシはもっと助かるんだけどね」
「えぇ~!? そ、それって、こ、子供ってこと!? やだも~!! コーちゃん気が早過ぎるよ~! えへへぇ」
「あだッ! ちょ、やめろ! 本気で叩くな! 折れるッ!!」
国主の余計な一言に反応し、真多子が茹蛸みたいに真っ赤に上気して茹る。
心ここに在らずという感じか、悲鳴を上げても構わずバシバシ背を叩くものだから、僕の背中まで真っ赤に染まっているに違いない。
そんな僕達のやり取りをニヤニヤとした目線で高みの見物している国主が恨めしい。
(クソッ、この人はやっぱり僕をからかって遊んでるだけだ! ちょっと尊敬して損したよ、まったく……)
国主はいつもこの執務室に篭り切りだからか、どうも僕をオモチャにしたがるきらいがある。
僕がさっさと報告を終わらせて帰りたいのも、この人に弄られたくないからだ。
(普段は一人で来るように言いつけるくせに、今回は珍しく二人で来いだなんて薄々変だとは思っていたんだ……絶対狙って付け加えただろ、あの最後の言葉……)
僕が叩かれすぎてヘロヘロになっていると、ようやく満足したのか国主が口を開く。
その声色はあまりにも白々しく、心配なんて口だけで止める気はないのが伺える。
「あぁマダコ君、大変だ。 そのままだとタコロウ君が本当に骨無し軟体の忍になってしまいそうジャないかい? まぁ、タコらしくなったタコロウ君も見てみたいけどね」
「ほえ?……ってひゃぁぁぁ!? どうしたのコーちゃん!! 誰にやられたの!? あ~ん、コーちゃんが死んじゃうよぉ~!!」
(誰にって、お前にだよ……)
使い古した雑巾のようにボロボロになった身体を真多子に抱き起されると、僕はせめてもの意思表示として国主を睨み付ける。
止めるならもっと早く止めてくれ。
もっとも、あの人が小僧の目線一つを気にするようなタマじゃないのは重々承知している。
相手は一国の主だ、動じない心の保ち方は逆立ちしたって敵わない。
それでも、いいようにされてばかりいる気にはなれなかったのだ。
だがこういう反骨心が、かえって喜ばせる原因なのかもしれない。
「さて、タコロウ君が元気になったことだし仕事の話に戻ろうジャないか。 君ならよく知ってると思うけど、庇護本はワタシ達の出入りを快く思っていない」
かの国には、転生者達の仮住まいと、外界とほとんど交流を持たない純人類の檻だけで構成されている。
彼らがここまで排他的なのは、魔物の血が混じった魔人類を本能的に恐れているからだろう。
彼らからすれば、鍛えてすらいない街人ですら化物のように力の差を感じるのだろうから仕方ない。
それが鍛えれば国守のように、さらに強く手の付けれられない力を持つのだ。
だからこそ国内の出入りを許すのは、より人間としての魂が近い転生者・新人類だけに限定している。
その転生者であっても、庇護本の統治に口出しは出来ない閉塞した場所なのだ。
「では、僕にお使いへ行ってこいと?……真多子、僕はもう大丈夫だから鼻水を引っ込めろ……」
「う゛ぅ、ズビ。 ゴーぢゃん゛、無事で良がっだ~!!」
僕は『右眼』に植え付けられた異世界の記憶のせいで、中央の学校へと通わされていた。
それに前髪や衣服で隠せば、純人類と言っても通じるくらい特性が少ないのだ。
あの転生者の窃盗犯のように、一時的に出入りするくらい容易いだろう。
中央の盗品の返却など魔人類しかいない干支連合には手に余ったので、僕に話が周って来たということか。
「タコロウ君は察しが良くて助かるね。 でも、それだけジャないんだな、はいコレ」
「はい? わ、おぉっとと」
国主は漆塗りの長机の引き出しを開けると、何かを取り出し僕の方へ放り投げる。
引き籠っているわりに、結構良い肩を持っているようだ。
投げつけられた物を眼で確認する前に、僕の手の内へと収まった。
丸みのある軽い感触、何かの包みのようだ。
ゆっくりと両手を花のように開くと、既視感のある巾着袋。
しかし、表面には何も印は描かれていなかった。
これでは何も話が見えてこない。
僕は恐る恐ると巾着の留め紐に手を掛ける。
「あぁ、また言い忘れていたね。 それは決して開けるんジャないよ。 見たら打ち首ね」
「ハァ!?……打ち首!?」
だったら、そんな大そうな物を放り投げるんじゃない。
なんというトラップを仕掛けているんだ、この人は。
仰天して手元から目を離すと、機嫌の良さそうな国主と目が合った。
この人のことだから、打ち首が冗談かどうか分かり難くて怖い。
「ぐす、あれ? これって魚丸さんのやつ? さっき返したの見たんだけどね~?」
「いや、印が無いだろ。 似てるだけで別物だよ」
ようやく泣き止んだ真多子が眼を擦り、僕の手に納まる巾着を覗き込んでいた。
真多子にも見せるため、解けないよう片手で結び目を握りぶら下げる。
重さも貨幣をたんまり詰め込んだような重量感は無く、中身がまるで予想も付かない。
「はぁ……もう中身は深く聞きませんが、それでこれをどうしろっていうんです?」
「色々考えたけれど、ワタシの手に負えるものジャないと判断したのでね。 向こうには話をつけてあるから、仲介人に渡して欲しいわけジャな」
「わぁ~! 忍者っぽい闇取引! やろうよコーちゃん!」
(やろうも何も、僕達は断れる立場じゃないんだが……)
「はぁ、わかりました。 それで仲介人の特徴や場所と時間は、どう取り決めてるんですか?」
話が付いているなら、さほど面倒はないだろう。
物は怪しいさ満載だが、事は単純そうで助かった。
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