サーヴァント・佐場
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無駄に広い庭を素通りして官邸に辿り着くと、ずっと僕等を見ていたであろう国守の魔人類が出迎えた。
彼らは本来、国の外周で巨大な魔物達と戦い退ける屈強な戦士である。
多少鍛えたくらいの腕前では、稚児をあしらうくらいの力量差で押さえつけられてしまうだろう。
だからこそ、ただそこにいるだけで抑止力となり、訪れた者が下手な考えを起こさないようにしていた。
もっとも、本当にそんな気を起こす者は、わざわざ正面から訪れることはないだろうが。
昔であればいざ知らず、今は来客を手厚く歓迎している意思表示として待機させている。
つまり僕は国主から目を掛けてもらっているということになるわけだ。
「ようこそ我がロードの居城へ……おや隣は初顔だな? 私はサーヴァント・佐場、ここの衛兵長を任せられている」
いつも出迎えてくれる落ち着いた女性が、挨拶と共に頭を下げる。
邪魔にならないよう短く揃えた青髪が揺れ、その髪に混じった黒い縞模様が波のように流れていた。
風の噂で彼女は鯖の魔人類だと聞いている。
実際に闘っている所を見たことはないので、実際の力量は未知数だが。
(しかしいつ見ても綺麗な人だ。 堂々として男顔負けの凛々しさがある。 たしか街道の女性にはファンも多いとか)
黒と白のゴシックな紳士服はこの国では浮いているが、それが特別感を出していてより彼女の存在を際立たせている。
特に皺の無いパリっとしたズボンを穿いているというのに、胸はやや窮屈そうでシャツに皺を作っているというギャップも、つい目が奪われてしまう。
「痛てッ!?」
真多子が腕を組んでいた方の耳が突然引っ張られ、鋭い痛みが僕を襲って声が漏れた。
心臓が飛び出すような鼓動で脈打ち、恐る恐る横へと視線を動かすと、明らかに笑ってはいない笑顔が目に入る。
(や、やらかした!)
もはや男の性などと自己肯定している場合ではない。
なんと冷ややかで温かみの無い表情であろう。
初夏の暑さで火照っていたというのに、僕は一瞬で全身の血の気が引くのを感じ取った。
このまま目を合わせていたら凍り付いてしまいそうだと思ったほどだ。
だというのに、僕の頭からは汗が止まらず、クラクラと熱中症のような眩暈が頭を真っ白にしてしまう。
なんとか弁明しようと口をもごもご震わせていると、僕等の様子を見ていた佐場さんが助け舟を出してくれた。
彼女は心まで綺麗だというのか。
「しっかりと顔を覚えておきたいからコチラを見てくれると嬉しいな、お嬢さん。 よければお名前も頂きたい」
ニコリと堂に入った爽やかな笑顔で真多子へ声を掛ける。
ここまで対照的な笑顔はそうそうないだろう。
すると、ようやく僕へ向けていた真多子の氷点下の笑顔を引っ込め、いつもの眩しい顔に戻ってくれた。
「アタシは真多子だよ~! これからもコーちゃんと一緒に来ると思うからよろしくね~!」
グイと真多子が腕を引き寄せて、二人一組であることを強調する。
こころなしか、いつもよりも距離が近い気がした。
「真多子君だね。 私とそう歳も変わらないだろうし、そのまま気兼ねなく接してくれて構わないよ。 それでは我がロードの元へと案内しよう、着いてきてくれ」
「おっけ~! それじゃぁボ~っとしてないで、早く行こうよコーちゃん!」
「あ、あぁ……」
いやいやどう見ても僕等より10は歳が上だろう、サバを読み過ぎでは。
そうツッコミたい気持ちをグッと抑える。
さばさばした性格の佐場さんなら笑ってくれるだろう。
だが真多子は佐場さんのことを気に入ったようであるため、機嫌を損ねたくはなかった。
僕の男としての立場は、今とても危うい。
余計なことは何も言わず、流れに身を任せることにしたのだ。
「そういえば、さっきから言ってるロードって誰? アタシ、ロードって名前の人なんて知らないよ?」
このやたらと無駄に大きい官邸を登る最中、真多子がポツリと疑問を口にする。
それに答えてくれるためか、前を歩く佐場さんが歩を緩めて振り返った。
「もちろんこの居城の主であり、キミ達の国主・巳堂様のことだね。 ここに召使えるサーヴァントは皆、あのお方をロードと呼んでいるのさ」
「ほえ~なんか色んな名前があるんだね~。 アタシはなんて呼べばいいんだろう? ヘビの人って呼んじゃだめだよ~ってコーちゃんが言ってたし……」
ヘビの人という名前を聞いた途端、佐場さんはからからと軽快な笑い声を鳴らす。
予想だにもしなかった呼び名がよほどツボだったのだろう。
「アッハッハッハ! くす、いや、いいんじゃないかな。 ふふ、ただどうしてもというなら国主様とお呼びすればいい。 この国の中では一般的であるしそれで充分通じるさ」
「国主様か~……あんまり可愛い呼び方じゃないんだよね~」
「くく、可愛いって……フフッ」
あまりに常識知らずな真多子の反応の一語一語が新鮮らしい。
口とお腹を押さえて、笑い声をなんとか漏れ出さないよう堪えていた。
いつも会う時は凛とした佐場さんだが、こんなに砕けた表情を始めて見た気がする。
この人がここまで笑い上戸であったとは意外だった。
「お、おい真多子、間違っても国主様の前で可愛いなんて言うんじゃないぞ。 気にしてるんだから、あの人……」
なるべく空気に徹しようとしていたが、真多子の非常識も度を過ぎれば窘めなければならず、口を挟む。
佐場さんも注意してくれればいいのに、面白がって真多子で遊んでいる。
このままでは本当に言いかねない。
「そっか~、人の嫌な事は言っちゃダメだもんね。 何か他の呼び方考えてみる! えっと、国主のコーちゃんだとコーちゃんと被っちゃうし~……う~ん」
「いや、だから国主様でいいだろ!?」
「ブフッ、ク、き、キミ達、もう勘弁してくれ……!!」
ついには笑い過ぎて佐場さんが腹を抱えて蹲ってしまった。
両眼には笑い涙まで溜めている。
(なんというか、今まで築いていた格好良いイメージ像が崩れ落ちるの早いなこの人……)
職務に誠実で真面目な人だと思っていたが、一皮剥くと人間どうなるか分からないものである。
普段の事務的な挨拶や案内からは、想像もつかない変わりぶりに少々戸惑いすら感じた。
「ン゛ン゛!! ゴホン。 失礼、それではここが我がロードの執務室だ」
ひとしきり笑いきると、佐場さんはすぐに背筋を正し、見慣れたいつもの凛々しい態度に戻る。
彼女が手を指す方を見ると、あまり飾り気の無い質素な扉。
派手で大きなこの官邸には似付かわしくない見た目だろう。
本当にここかと、真多子も僕へチラと目配せをして確認しているほどだ。
「大丈夫、ここで合ってるよ真多子」
「はへぇ~、ここに住んでるなんて、どんな人なんだろうね」
「それは会えばすぐ分かるよ」
「それでは。 ロード、失礼します! 例の二人をお連れしました!」
鯖さんが扉越しに声を掛け、一拍置いてから扉を開けて僕達を通す。
扉の見た目通り、それほど広くはない部屋に入ると、後ろで扉の閉まる音がした。
佐場さんは部屋の外で待機し、帰りも案内として先導してくれるはずだ。
今この部屋にいるのは、僕と真多子、そして奥の机から顔を上げた国主の三人だけである。
「やぁ、思ったよりも早かったジャないか、タコロウ君」
この部屋の主は、僕をしっかりと見据えて口を開いた。
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