第九十三話 マイルスのテスト その一
俺とチムールはマイルスから少し離れた場所で座って見る事にした。参加者が準備をしている最中にチムールはマイルスのパーティメンバーを使って酒とつまみを用意させていたらしく、中々の量が俺とチムールの前に並べられた。
流石のマイルスもチムールには何も言えないのかただ苦々しく此方を見ている。申し訳ない気持ちになったので俺はマイルスに近づいて言った。
「すみません、なるべく邪魔しないように見ますので」
「そうしてくれ、こっちは遊びじゃないんだからな。あのじいさんを俺は止められないから我慢するしかないが、酔っぱらて騒ぎ出すのだけは止めてくれよ」
「分かりました。なるべく静かに見ます」
やはりあまり気分が良くない様なマイルスを後にしてチムールの隣に腰を下ろした。
「何かマイルスさんが怒っている様なのですが、ここで飲んでしまって大丈夫なのでしょうか」
「気にするなここはどこの持ち物だと思っている。私はそこの人間だ嫌なら他に行けば良い。いいから君も飲みなさい。多少酔っていた方がこの後の講義で上手くいくかも知れんぞ」
もう言われるがままに酒を口にしながら始まるのを待っている。
「もう準備はいいか、始めるぞ。最初はアルバンとニコスだ」
マイルスの言葉を聞き、チムールが選手紹介を俺だけにしてくれる。
「アルバンはC級に上がったばかりで本来はロングソードを使う。ニコスはC級の中堅で獣人族猿種だ。いつもはショトソードを使うが今日は槍の模擬刀を使うようだな、まともに戦えばアルバンが有利かな」
「怪我しても治療師がいるから遠慮なく戦え、ただしとどめを刺すような真似だけはするなよ、では始め」
お互い旗の所に立っていたが、掛け声と共に相手に向かって走って行く。アルバンは模擬刀を横向きに構えている。二人の距離が近づくとニコスはいきなり槍をアルバンの顔目掛けて投げた。アルバンは模擬刀で槍を叩き落として構え直したが、目の前にはニコスはいなく、ニコスは投げたと同時にアルバンの横を駆け抜け旗を手にした。
ニコスはその旗をマイルスに見せつけるように高く上げる。その様子を拍子抜けしたようにアルバンはただ見ていた。あっけなくも戦いは終わってしまった。マイルスは頭を掻きながら言う。
「あのなぁ、確かにルールではお前の勝ちだがお前はダンジョンで大事な武器を投げるのか、それにこれは護衛のテストだぞ、旗はおまけ程度に考えろよ。お前は今回はダンジョンには連れて行かない。それとアルバンも槍に気をとられて対処出来ないようではまだまだ使い物にならないから失格だ」
マイルスはかなりイラついているように見える。言われてしまった二人はあからさまに肩を落として闘技場から出て行ってしまった。
「何だか可哀そうですね」
「マイルスが決める事だからしょうがない事だ。ちなみに君ならどう戦う」
「俺なら合図と同時に旗を撃ち落としますね、それしか出来ないですから」
チムールは俺の答えが可笑しかったのか声を上げて笑い始めた。その様子をマイルスは見ていたが。気持ちを切り替えた様で再び参加者に向かって言う。
「次始めるぞ、ラルフとウメリアだ。位置に着け」
「ウメリアは見ての通り獣人族猫種だがよく分からん。特に目立った活動はしていないようだからな」
開始の合図と共にウメリアは獣化を始め身体が一回り大きくなる。アーシャと似ているようだが種が違う為に若干雰囲気が違っている。お互い片手剣の模擬刀を持ってゆっくりと近づいて行く。
「ラルフ、スピードタイプのようだから油断するなよ」
思わず声に出してしまったので、そっとマイルスの方を見るとやはり睨まれてしまった。その声に反応したのかウメリアはいきなり速度を上げそのまま模擬刀を振り下ろしてきた。ラルフはほんの少しだけ下がり顔目掛けて突きを放つが躱されてしまう。
次にウメリアは素早い動きでラルフの周囲を回りながら攻撃してくる。防戦一方のラルフではあるが、すべてぎりぎりの所で直撃を防いでいる。しかし反撃できる隙はないようだ。
ラルフは体勢を立て直す為に大きく後ろにジャンプするが、それに合わせたようにウメリアも付いて行き模擬刀を打ち下ろそうとするが、踏み込んだ先にはぬかるみがありバランスを崩してしまった。ようやく出来た隙を逃さずにラルフは首に模擬刀を寸止めさせた。マイルスが試合をとめラルフは無事に合格を果たした。
「君の影響なのかな、あの状態で無詠唱で相手の足元にぬかるみを作るなど、彼は中々やるな」
「俺もあんな事が出来るなんて知りませんでしたよ」
ラルフはてっきり無詠唱の練習などしていないものだと思っていたが、実は陰でずっとやっていたようだ。俺は精一杯拍手をしてラルフに声を掛けた。
「おめでとう、良くやったな」
「有難うございます。まだこれぐらいしか出来ませんが上手い事はまってくれました」
マイルスは次の試合を始める為に声を上げようとしたが、ぬかるんでしまった地面を見てラルフに元に戻すように言ってきた。
「仁さん、水は消せますがガタガタになった地面はどうしようもないのですがどうしましょう」
その場で地面に手を付き、地中深くにある土と汚れている表面の土と入れ替え綺麗に整地をした。
「マイルスさん、これで大丈夫ですか」
「お前は想像を上回るやり方をするな、やはりこれが終わったら戦おうぜ」
「いいえ、結構です」




