第九十二話 たまには野次馬もいいかも知れない
アーシャ達の食事が終わった頃、タイミングを見計らった様に仁が家に戻って来た。
「お帰り、私達が居なくて寂しかったかな」
「あのなぁ、それよりどうだったんだダンジョンは」
この街が管轄するダンジョンの楽しさと問題点をじっくりと話して、全て話し終えるまでかなりの時間を有した。
「パーティは焦っていきなり増やさなくてもいいんじゃないかな、行くたびに臨時で募集しようよ。それで相性が良かったら入って貰っても構わないんじゃないかな。それより次はどういったダンジョンに行くつもりなんだ」
「仁のおかげでダンジョンに誘われたよ、ただ実力を見せないと駄目で今度テストを受けるんだ。それにしてもよくマイルスと短期間で友達になったんだね」
俺はマイルスと友達になった覚えは少しもないが、何故なんだろう。騙されたような変な気分になって来る。
「仁さんどうしたんですか、もしかしてマイルスさんとは友達では無くてやはり揉めたのですか」
「揉めてはいないよ、ただアーシャとの出会いとほぼ一緒だよ。会うなり戦いたいってしつこくて迷惑だった。何とか魔法を見せるだけで納得してもらったけどな」
少しだけ不用意な発言をしてしまったようだ。アーシャは見るからに不機嫌な皺を眉間に浮かべた。
「仁は私の事しつこくて迷惑だと思っていたんだ。悪かったね」
アーシャは俺に弁解の余地を与えてくれず部屋に行ってしまった。
「仁さん、もう少し言葉を選んで貰わないと、明日にでもちゃんとフォローしといて下さいね」
「悪かったよ、それよりマイルスはどういったメンバーでヒドラの巣に潜るつもりなんだ」
ラルフから聞いたメンバー構成は興味深い事だった。編成はA級のマイルス、B級が一人、C級が二人、D級が三人だった。募集はC級以上でD級の護衛が欲しいようだ。自分の身が守れないD級が何故パーティの中に入っているのかと言うと、彼らは食料や魔石を運んだりするサポート要員だそうだ。彼らの持つ荷物は大量の為、それを守る人間をマイルスは募集するらしい。
「それだと、せっかくダンジョンに潜るのにつまらなくないか」
「マイルスさんと同じパーティで、毎回護衛だけだとそれはつまらないですよ、それが分かっているからマイルスさんも自分のパーティにやらせないのではないですか。今回、僕とアーシャさんは今後の為に勉強しに行くつもりです。A級と一緒に行動できる機会なんてなかなかありませんからね」
マイルスの事を筋肉馬鹿のようにしか思っていなかったが、他の冒険者から見ればA級のマイルスは尊敬の対象になっているのかも知れない。
一日は穏やかに過ぎて行きアーシャ達のテスト当日となった。講義を受けている闘技場でマイルスのテストが行われるらしく一緒に向かって行く。
闘技場の中には既に数人のテストに参加するらしい冒険者が待っている。思ったほどいないのはマイルスが個々に声を掛けているせいなのかも知れない。するとマイルスがパーティメンバーと何故かチムールと共に姿を現した。
「仁もテストに参加したいのか、お前なら合格だけど護衛にしておくのは勿体ないな、誰かと入れ替えるか」
マイルスは振り返り、自分のパーティを見ながら考え込んでしまった。
「いやいや、マイルスさん俺は行かないですよ、チムールさんとの講義の場所がここなので来ているだけですから」
マイルスは少し白けたような表情を浮かべた。
「何だよつまらないな、お前が入れば最深部まで速く行けるのに、まぁ講義なら仕方がないか」
マイルスはテストを受ける為に待ち構えている参加者の方に向かい説明を始めた。
「俺から君達に声を掛けたのに申し訳ないが全員は連れて行かない。俺達が今回行くのは第二ダンジョンでヒドラの巣だからな、それとお前たちの役割は後方でサポート隊の護衛をしてもらう。彼らは全ての荷物を持つことになるから戦闘は出来ない。俺らがいるから倒し漏れは無いと思うが予想外の場所から現れた場合には命に代えてもサポート隊は守って欲しい。あそこのダンジョンにいる魔物はヒドラ以外にも強敵がいるから覚悟するように。それを踏まえて参加する奴は手を上げてくれ」
アーシャ達を含む八人は全員手を上げた。マイルスは適当にペアを組ませ彼らに模擬戦をやらせるようだ。ルールはテニスコート程の広さを使い両端に旗を立てて、それが奪われるかそれとも相手を倒し降参させるかで勝敗が決まる。勿論武器は模擬刀だ。
「仁君、面白そうだから見学しないかね」
「そう言ってくれて助かります。安全なところから戦いを見るのっていいですよね」
完全な部外者の俺とチムールは野次馬になる事を決めた。俺がここでキメイラと戦ったのを見物していた冒険者の気持ちがよく分かる。この後で講義が待っていなければ酒でも飲みたい気分になる。流石にチムールの手前なので我慢するしかないが。




