第九話 初めての狩り
こちらの世界に来てから半年が過ぎ、かなり異世界の生活に慣れてきた。魔法も大分使えるようになってきて、今は狩りに役立つ魔法は六個。
「ニードル」
直径二㎜程の針で一度にかなりの数を出せる。長さは五mまで。
「ブレード」
直径十cm程の二m以上の日本刀。但し刃の部分は切れ味はなく切っ先が鋭利になっている。そのうち槍に変更しようと考えている。
「パイロン」
ほぼ鋭利な三角コーンで、一番頑丈だが長くなれば成程、底辺がかなり大きくなるので使い方がかなり制限されそうだ。
「ホール」
深さ二m程の落とし穴、最高で直径十五m深さ四十m程まで出来るがかなり時間が掛かってしまう。
「圧殺」
落とし穴を瞬時に埋める。圧殺とは名前負けしていて少し動けなくなる程度、そのうち圧力と硬度を高めて名前負けしないようにしたい。
「ウォール」
これは唯一動作のみでも発動する。掌を上に向け手を下から上に上げるだけで発動する。瞬時に横二m縦五十cm高さ二m程度なら出せる。
どの魔法にも言えるがどんなに早く発動させても石より少し硬い位の硬度はある。それでももっと硬度を高める事が課題だ。そしていよいよ明日、フランと共に狩りに行く。一泊二日の予定。
翌朝、なかなか興奮して寝付けなかったが、それなのに太陽が昇る少し前には目が覚めてしまったので早速フランの家に向かう。今日は雲一つない晴天で絶好のデビューになりそうだ。今回狩りの狙いはビッグボアという猪のような魔獣。一度食べさせて貰ったがかなりの絶品だった。その事を思い出しながら歩いて行くと直ぐにフランの家に到着する。
フランが先頭で歩き、暫くすると何もないところでフランが手をかざす。すると目の前の風景がいきなり変わり森が姿を現した。
一気に緊張感が増してくるが、まずは最初の目的地のサンガの丘へ向かう。道は悪路でもの凄く歩きにくいがフランは音を一切させずに進んで行く。同じように歩きたいのだが中々上手くいかずにかえって転んでしまったりする始末だ。
「周りをよく見て注意しながら歩け、今は足音を出してもいいからな」
フランの言葉に従って一歩一歩地面を踏みしめて歩いて行く、転ぶ事は無くなってきて少しだけスピードが出せるようになった時、不意に後ろから肩を叩かれた。
「仁、見っけ」
「うわぁー」
心底驚いてしまい思わず叫んでしまった。振り返ると小刻みに笑うミネルバが立っている。それを見たフランは眉間に皺を寄せながら言う。
「誰が追っかけてきているかと思ったらお前だったのか、このまま一緒に行く気なのか」
「すみませんお願いします。どうしても仁がどんな狩りをするのかきになってしまって」
決して手を出さない事と、出来る限りアドバイスをしない事を条件にミネルバも一緒に行く事になった。太陽が昇りきった頃にようやく目的地のサンガの丘に着きこの場所をベースとして狩りを行なう。
フランが周りの様子を確認している間に俺は地下に部屋を作る。夜は安心して眠りたいので換気もちゃんと出来るしっかりとした部屋を三部屋作り終わった頃にフランが戻ってきた。
「早速行くぞ。この先に一角兎の群れがいる。なるべくそっと近づいて行って俺が石を投げるからその後で攻撃をしろ、勿論ミネルバは見ているだけだ」
なにかフランは変な事を言っている。どういう事だろうか。
「何で石を投げるのですか、逃げてしまうではないですか」
「わざと逃がすに決まっているだろ、あまり動いていないなら練習にならないだろうが、奴らが逃げる方向やスピードをよく見てタイミングよく放てよ」
最初なのにかなり難しい事を求めてくるなと思いながらも、黙って頷き気合を入れなおす。僅かな距離を進んで行くと、何とか目で見える距離まで近づいてきた。
兎と言っても体長は二m弱あって立派な魔獣だ。緊張感が増し心臓の鼓動が早くなってきた時、フランが俺を見て合図をする。いよいよ初の狩りが始まる。
「どさっ」
群れの中央に石が落ちて、一角兎
がパニックになり一斉に
逃げ出す。運よく右前方に二匹が飛び跳ねながら逃げてきた。はやる鼓動を押さえて集中し魔法を唱える。
「パイロン」
少しだけタイミングがずれ頂点の尖っている部分ではなく斜面にぶつかって一羽が俺達の頭上を越え頭から落ちて死んでいった。成功と言えるかも知れない。
「よしっ」
「よしっじゃねーよ」
フランに頭を叩かれ、ミネルバはお腹を抱えて笑っている。
「お前は何で⦅パイロン⦆を出すんだよ、狩りに不向きだろうが、ったく次を探すぞ」
呆れた顔をしたフランは次を探す為に移動を始める。ミネルバは笑いながらも一角兎の解体を始め、俺に言ってきた。
「次はしっかりと考えてやろうね」