第八十七話 授業の前に
チムールと一緒に何も置かれていない部屋に移り、いよいよ最初の講義が始まる。
「君は魔法を使う時は魔力の流れは意識しているのか」
「流れは苦手ですが、残量は何となく分かりますよ」
チムールは俺の答えを聞くと暫く考えこんだ。
「今から暫く目を瞑って楽な姿勢で自分の身体に流れる魔力を感じて欲しい」
これが何の意味があるか分からないが立ったまま目を瞑る。今迄は意識していなかったが身体の中に魔力を感じている。
「慣れてきたら自分の体の中にある魔力の核を身体中に循環させるんだ」
指示道理に魔力を移動させようとするが、そもそも核などでは無く身体全体に魔力があるので全く上手くいかない。そのまま二時間程やらされ、何の手ごたえも感じないままその日は終了となった。
不完全燃焼を感じたまま家路に辿り着くと食堂には誰も居ないのだが食事が要されていた。電子レンジが無いのが残念だがそれでも気持ちだけは暖かくなり食事が終わった後で直ぐに眠りについた。翌朝は雨が降っているようで窓から聞こえる雨音で起こされてしまう。
「仁、起きているかな」
部屋のドアをいつものようにノックもせずにアーシャが入って来た。
「お早う、今日はあいにくな天気だな」
「昨日じゃなくて良かったよね、それよりラルフと今からダンジョンに行ってくるね」
昨日の事でやる気が出たのか早速ラルフを連れてダンジョンに入るらしい。二人を見送った後で俺は午前中はゆっくり過ごし、昼になってから雨の中をギルドに向かう。ギルドの中は閑散としていて直ぐにイリーナに会うことが出来た。
「昨日の清算をお願い出来るかな」
「全額を仁さんに入れてしまっていいですか、それとも額を言って頂ければこちらで振り込んでおきますが」
「だったら三等分で頼むよ」
金額は俺の想像を超えいて、一人頭にすると大金貨八枚と金貨三枚にもなった。
「そんなに入るのか、まさかの金額だよ」
「人工分と手数料もちゃんと引いてありますよ、ただグレイトホーンを狩っても同じような金額は出ません。昨日の大量入荷で価格は暴落しましたから」
昨日、運良く群れに出会えたことを誰かに感謝したくなった。これで暫くは遊んで暮らせそうだ。ほくそ笑んでいると奥の扉が開きチムールが出てきた。
「今日はもう暇なのか、だったら今日の分を今からやろうか」
「いいのですか、是非お願いします」
ただ昨日と同じ訓練だと思うと、この雨と同じように気分が沈んでしまうがこればかりはどうにも出来ない。昨日と同じように学校に連れていかれると、昨日とは学校の雰囲気が違っていて子供の生徒がかなりいた。誰も彼もが俺の事を新しい先生だと勘違いしているようで丁寧に挨拶をしてくる。何だか優越感に浸れるいい気分だ。
「そんな間抜けな顔をしていないでさっさと歩いてくれないか」
優越感に浸っていたところなのにチムールから辛辣な言葉を浴びせられてしまった。意外とはっきりと物を言う人物なのかも知れない。昨日と同じ部屋に入るとチムールは直ぐに講義を始めるようだ。
「昨日あれから考えたのだが、やはり君は普通のやり方は向いていない様だ。最初に教わったエルフのやり方が君には合っているようなのでそれを生かせるように進めるよ」
昨日の訓練は全く手ごたえが無かったので、今日からは上手くいって欲しいものだ。
「早速だが魔力感知を試してみよう。どうしても目に見える事では無いので君の得意なイメージを働かせてくれ」
「大丈夫です。フランに教わった時もそんな感じでしたから」
ついフランの名前を出してしまったが、その名前にチムールはかなり興味が沸いたようだ。
「君はあのフランに教わったのか、まさかと思うが二百年以上前に勇者の隣に立っていたエルフなのか」
「初代勇者の友達って言っていましたよ。エルフだから見た目は中年ぐらいにしか見えませんが」
チムールはかなり衝撃を受けてしまったようで、椅子に腰を下ろしながら話した。
「いやいや、君はあまり分かっていない様だが、伝説の男に魔法を習ったのだな、そんな彼の教え子に私が教えていいものか分からなくなってきたよ」
「気にしなくていいですよ、フランは狩りに役立つ魔法は相談に乗ってくれましたけど、魔力感知みたいなものはエルフは自然と身に付くようなので、どう教えていいか分からないと言っていました」
チムールはまた考え込んだ後で、俺には魔力感知と魔法障壁をこれから教えると伝えてきた。
すみません、まさか話がここまで進まないとは、書いていて驚きました。




