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第八十五話 待ちぼうけ

 仁とアーシャは即席の高台の上で周囲を警戒している。最初は壁の上にいたが幅がそれ程ある訳では無いので、新たに地面を競り上げてそこに拠点を移した。


「城壁さえなければ見渡す限りの穏やかな大自然だな、この場所で戦争があったなんて思えないよ」


「この辺りはまだ全然だよ、戦争があったの西の森を抜けてさらに先の平原で戦ったらしいね。監視の塔に登ればもしかしたら跡地が見えるかも知れないけど、私達じゃ登らせてもらえないよ」


 直ぐ側に大量の死骸があるのだが、そんな事は感じさせない位の穏やかな時間が流れていたのだが、残念ながら邪魔されてしまうようだ。


「お客さんがやって来たみたいだよ」


 西の森の中から肉食恐竜のようなトカゲが二匹走って来るのが見える。アーシャが図鑑と照らし合わせるとグラスバジリスクと判明した。毒を吐くタイプで下等竜種になる。


「牙と鱗は貴重品だよ。毒を吐くから仁に任せるね」


 俺は「ショット」で首を狙ったが硬い鱗によってはじかれてしまう。


「駄目だな、もう少し近づいてきたら首を切るよ、だめなら一旦逃げるしかないかな」


 杖の先に「ブーメラン」を出し魔力を込める。直ぐに一匹に向け飛ばすと手前にいた方のグラスバジリスクの首はなんなく跳ね飛ばしたが、そのまま二匹目に向かって行った「ブーメラン」は首に食い込んだだけで消えてしまった。怒りに狂ったグラスバジリスクはスピードを上げながら迫って来る。


「時間が足りなかったか、引き付けるから下がって」


 俺の前からグラスバジリスクに向け「ニードル」の道を作る。奴は全く気にせず「ニードル」を踏み倒しながら迫って来て、毒を吐くために胸を逸らせた。


 盾代わりに「ウォール」を出し、地面にトンネルを作りグラスバジリスクの背後に回ると、既にアーシャによって首をはねられた後だった。


「アーシャ、やったな」


「そこにいたんだ。気配が急に消えたから少し心配しちゃったよ」


 グラスバジリスクは毒を吐いていたらしく「ウォール」はドロドロに溶けていた。もしあのまま地下に潜らず、壁の後ろに隠れていたらどうなってしまったのだろうか。


「何だよこれは、もうこれは毒の威力を越えているじゃないか。トンネルを掘ってよかったよ」


「ねぇまだこんなのが出て来るのかな」


 匂いのせいで寄って来るのかも知れないので、グレイトホーンを囲んでいる壁には天井を付け、先程倒したグラスバジリスクにもドーム状に隠してみた。


「仁、これなら匂いが出て来ないから平気かも、南の方にかなり大きな気配がしたけどこっちにくる様子はないかな」


 また「中間の地」に平和が戻ったが、直ぐに先程の魔獣よりかなり小さい魔獣が壁の匂いを嗅いでいる。


「あれも狩っておいた方がいいのかな」


「別に狩らなくてもいいんじゃない。それより仁の魔力ってどれくらいあるの」


 最近は容量など気にしなくなってしまったが、実際はどうなのか思い出しながら考えてみる。


「そうだな、昨日のブーメランぐらいなら十回は余裕かな、限界まで魔力を注いだら三回ぐらいできつくなってきそうだよ」


「そうなんだ。だけど多いよね」


「多いとは思うけど、ゲレオンの時はギリギリだったかな、まぁ魔力補充の魔石があるから魔法は使えたけどね」


 アーシャは何も言わなくなり、周囲を警戒している。もしかしたら俺が「迷い人」である事を疑っているのだろうか。


「仁ならいつかA級になるんだろうね、私はB級になれればいいけど自信はないな。朝あった二人のB級を見ていたら自信を無くしてしまうよ」


「アーシャだってさっきは一刀両断したじゃないか、あれだけの強さがあれば十分だと思うけどな」


 俺は朝の二人にそこまでの強さを感じる事は無かったが、それは俺が強いからなのかそれとも鈍感だからなのだろうか。


「私は決めたよ。本気でB級を目指してみるよ。仁に先ばっかり勧めれても嫌だからね」


「別に俺は魔法があるだけでそんなでも無いと思うが、アーシャの事は応援するよ」


 それからはラルフが来るまでの間は何も魔獣は現れずのんびりと時間が過ぎていく。


「ラルフはまだかな、どうするお腹減ってこない」


「そうだな、もうお昼だもんな」


 荷台の中から弁当を取り出していると、遠くの方から大勢がやって来る音が聞こえて来る。


「仁、急いで、積み込みが始まったら食べるチャンスが無くなっちゃうよ」


 俺達はラルフの姿がはっきりと見える前に弁当を頬張った。



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