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第八十四話 VSグレイトホーン

城門をくぐると真っすぐに草木を切り開いた道が続いていてその先に監視の塔が見える。


「何だ、あそこまでしか行けないのか、随分と狭い範囲なんだな」


 おれの言葉を聞いてアーシャが呆れたように言う。


「仁はまた地図を見ていないでしょ、あれは監視の塔じゃなくて狼煙塔だよ、監視の塔はもっと先にあるの、今回は西に向かわないで南に向かって川を目指すからね」


「分かったよ、場所はアーシャに任せるよ」


 森を右手に見ながら果てしなく広い草原を進んで行く。どこかで見たような景色なのだが思い出す事は出来ない。多分実際に目にしていた訳ではなくてテレビか何かだろう。


「仁さん、あそこに何かの群れが見えますよ」


 遠くの方に群れは見えるのだが、余りの遠さに何の群れか分からないが、アーシャの目にははっきりと写っているらしくギルドで買った図鑑と見比べている。


「あれはグレイトホーンの群れだよ、いきなり群れを発見するなんてかなりついているね」


 水牛のようなグレイトホーンは雑食で見かけによらず動きが素早く、気配にも敏感に反応しまれに群れごと攻撃を仕掛けて来るらしい。その立派な角は高値で売買されその肉も高級品となっている「中間の地」だけに生息が確認されている魔獣だ。


「仁、百以上はいるけど討伐は難しいかもね」


「もう少し近づけば多分大丈夫だよ、ラルフは馬車で俺達から距離をとって付いて来てくれ、もし反撃にあうようだったら助けてくれよ」


 俺とアーシャは気配を消しながら慎重に進んで行く。此方が風下になっているので少しづつ獣臭が漂ってくる。言葉を話してしまうと気づかれてしまう可能性がある為、見様見真似のハンドサインで会話をしようと試すがお互い半分も理解出来ていない様だ。


 じりじりと陽が照り付ける中、一歩一歩近づいていくとグレイトホーンの姿が俺の目にもはっきりと分かる位の距離まで近づく事が出来た。


 俺は一度だけ深く深呼吸をした後で一気に「ウォール」で群れを囲むように壁を出す。殆どを壁の中に留めて置くことに成功したが何体かは壁から逃れ、此方に襲ってくると思われたがそれらは真っすぐに逃げて行ってしまった。


 安全を確認した後で、壁の中にいるグレイトホーンに対して「ニードル」でとどめを刺していく。あまり聞きたくはないがかなりの数の断末魔が響き渡り、程なくして何の音もしなくなった。アーシャは壁をよじ登り中の状況を確認する為に見て回っているが苦い顔をしている。


「この中は何だか凄い事になっているよ、まだ壁は解除しないでね」


 アーシャに助けて貰いながら壁の上に上がると、血の匂いが襲ってきてむせかえてしまうようだ。中には血に染まったグレートホーンが串刺しになって大量に死んでいる。


「こりゃあ俺達の馬車だけだと全然運べないな、ギルドに応援を頼むしかないか」


 ラルフも直ぐに到着し壁の中を見て貰うと、何とも言えない表情を浮かべている。ラルフにはギルドに戻って貰いありったけの馬車と人材を貸して貰うように頼み、俺達は血の匂いにつられてやって来るであろう魔獣から捕った獲物を守る事にする。


「悪いな、ラルフ飛ばしていってくれないか」


「任せて下さい。今日は宴会ですね」


 ラルフは馬車を切り離し、馬だけの状態になってから城門に向け走り出した。ラルフが辿り着くと余りにも早い帰還だったので事件でも起こったのかと心配されたが、「大量なんで」と一言だけ話てギルドに向かって行く。


 ギルドに辿り着くと思わずこの前と一緒に部屋に入ろうとしてしまったが、ラルフはC級である為に入る事は許されず、部屋の前にイリーナを呼び出して貰った。


「どうなさいました。何かございましたか」


「イリーナさん、荷馬車とグレイトホーンを運ぶ人を貸して欲しいんです」


「こんな早くにグレイトホーンを討伐したのですか、良くやりましたね、では一台と操縦者一人でよろしいでしょうか」


「それでは無理ですよ、軽く見積もっても百体は越えています」


 まるで時間が止まってしまったかのようにイリーナは動かなくなってしまった。ラルフが一生懸命に肩を揺らすとようやくイリーナは瞳に光を取り戻して急いで扉の中に消えて行った。


「おいっお前、何をやったらそんな数字が出て来るんだ」


 フェドセイが頭を掻きながら事務所から現れた。事務所の中は大騒ぎになっていて色んな音が聞こえて来る。


「お前もこっちから出ていいから、さっさと仁の所まで案内しろ」


 ギルドの裏では荷馬車が着々と準備され始めていて、職員だけではなく冒険者も集められているようだ。


「行くぞ、出発だ」


 三十台ほどの荷馬車が列をなして進んで行く。その光景に街の人達も興味本位の視線を浴びせて来る。


「なぁ、昨日のあれを見てしまったから信用して集めてしまったが、本当に大丈夫か、グレイトホーンなんて滅多に狩れないんだぞ」


「見た僕でさえあの光景は信じられないですよ」


 城門に辿り着くと、余りの荷馬車の数に衛兵隊長のジョサイアは驚きを隠す事が出来ない。


「フェドセイさん、それは本当の話なのですか、普通なら何日もかけて一体捕れればいい方ですよ、初めて入った彼らに一体を倒すことすら信じられませんよ」


「俺もあいつらの事はそんなには詳しくは無いが、嘘をついている様には思えないんだよ、仮に嘘だった場合はギルドが責任を持つから全ての荷馬車を通してくれ」


 半信半疑のままジョサイアは城門を開ける。フェドセイは神妙な顔していたが、生れて始めて「中間の地」に入る事が出来た冒険者や職員の中には涙さえ浮かべている者がいる。



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