第八十三話 中間の地へ
陽が昇り始めた空は雲一つない快晴となっていた。一部の人間しか立ち入る事が出来ない「中間の地」に行く事になるので、逸る気持ちを押さえながら出発の準備を進めていく。
「仁、ラルフ、早く行こうよ」
アーシャは既に我慢が出来ないらしく、俺達をせかしてギルドに向け馬を走らせた。ギルドの中はこの前よりも込んではいたがその横をすり抜けて奥の部屋に入ると、一つの六人組らしいパーティが受付をしている最中だった。俺達は空いているブースに入りベルを鳴らすと、男性が出てきたが俺達の顔を見たとたんに引っ込んで代わりにイリーナが出て来る。
「お早うございます。中間の地に入る為の書類と地図は準備していますので少しお待ちください。その間に中間の地の説明を致します」
イリーナの説明はとても長い話だったが、三つの事だけ守ればおとがめはなさそうだ。まず一つは魔人を見かけたら直ぐに狩りを止め戻る事。二つ目は必ず日が暮れる前に中間の地から出る事。最後は監視の塔より西には行かない事。
イリーナの長い説明が終わり、早速向かおうとしたが先程のパーティがまだいたので挨拶をするために近づいて行く。
「初めまして、俺は最近この街に来た仁です」
いきなりの挨拶に彼らは驚いたようだが、彼らのパーティのリーダーらしい獣人族狼種と思われる男が答えた。
「何だ、随分と丁寧な挨拶をするんだな、俺はここのリーダーのギルスだ。君が噂の仁だな、モーリッツの奴からも君の事は聞いているよ、随分と派手にワイバーンを倒したらしいな」
モーリッツの名前を聞いて、何となく嫌な気分になってしまった。やはり同族だけあって繋がりがあるのかも知れない。
「そんあ顔をするなよ、奴とはこの国では少ない同族だからな、コミュニティが一緒なんだよ。ただ俺は奴の事は嫌いだがね、俺はせこい奴が嫌いなんだ」
ギルスは笑いながら肩を叩いてきた。
「あいつはどんな噂を流しているんですか」
「いつものやっかみだから気にする必要はない。それよりこいつがうちの二番手のカーチレだ。無口な奴だが怒っている訳じゃない。俺達の二人がB級なんだ」
その他の四人は紹介をして来ないし、ギルスはアーシャの事も気にしていない様だ。B級以上では無いせいかもしれない。少し違和感を覚えたが愛想笑いで乗り切る事にした。ちなみにカーチレは俺よりも年下のようだが、けた違いの身体をしていて大振りなハルバートを抱えている。無言で手を差し伸べてきたので握手を交わしたが、顔が怖すぎる。
「俺達は中間の地に行きますが、ギルスさん達はこれから何処に行かれるのですか」
「気持ち悪い言葉は止めてくれよ、同じB級だろ普通にしようぜ、俺達はこれから六番のダンジョンに入るんだ。まぁ次に会えるとしたら十日後かな、その時まで生きていたらまた会おうぜ」
ギルス達と別れた後で「中間の地」に入る為の西門に向かって移動した。西にある城壁は東の城壁よりも遥かに高くそして頑丈そうだ。城門の上にはバリスタが配置されてあり、西の城壁にある残りの二つの城門の上にもあるそうだ。
「ここは初めて見るけど、何だか怖いね」
アーシャは城壁を見ながら呟いた。ラルフも同じように思っているらしく緊張している様だ」
「中間の地の先は魔人の領土になっていますからね、だから何とも言えない緊張感があるのでしょうね」
城門の前には門番をしている衛兵が凜とした姿勢で立っている。俺達が城門に近づいて行くと隣の建物から数人の衛兵が出てきた。
「この先は立ち入り禁止地区になっているが、君達は許可証を持っているのか」
銀鎧で身を包んだ衛兵が話し掛けてきたので、ギルドからでた許可証を見せるとその衛兵が何やら指示を出し始めた。
「君達の顔は初めて見るが、この先に足を踏み入れた事はあるか」
「今日が初めてになります」
「そうか、この地域は他の場所より魔獣の強さが上がっているからあまり無茶はするなよ」
その時に若い衛兵が走ってきて、その衛兵に耳打ちした。
「よしっ、それでは開門しろ」
その衛兵が大声を上げると目の前の大きすぎる城門が静かに、そしてゆっくりと開き始める。門のすき間からはとても心地よい緑の匂いが流れ込んできた。
「何だか緊張して震えて来るよ」
俺の言葉にアーシャもラルフも頷く事しか出来ず、目の前に起こっている情景をただ見ている。門が全開に開いた時に衛兵が俺達に向かい、声を張り上げて言ってくる。
「この先は限られた者しか足を踏み入れる事が許されない土地だ。もう一度言うが絶対に無理だけはするなよ、城門を開けて欲しい時は城門の脇にある連絡管で知らせてくれ」
いよいよ「中間の地」の中に入って行く。




