第八十二話 家の中で
かなり遅くなってしまった為に俺は走って帰る。この辺りは住宅街となっている為か、食堂から出る匂いとは違い家庭的な優しい匂いが漂っている。
家の前に着くと中に明かりが灯っているのが分かる。自分の家だという感覚はまだないが、その内に実感がわいてくるのだろうか。この街で生活の基盤が出来るのであればいいかも知れないと思ってしまう。
「仁、なんで家の前で立っているの、この家でいいんだよ」
気配を感じたのかアーシャが窓から顔を出してきた。
「そんな訳ないだろ、何となく見ていたんだよ」
「変なの、食事は用意してあるから食べるなら食べちゃえば」
中に入って行くとラルフは椅子に座って食べているのだが、その顔をいつも以上に嬉しそうだ。
「ラルフ、どうしたんだ。何かいい事があったのか」
ラルフはいつも以上の笑顔を見せて話してくる。
「仁さん聞いて下さいよ、あの魔石が修理出来るそうです。本当のこの街にきて良かったですよ」
ラルフがまだ話している最中にアーシャが料理を持って入って来たが顔は余り浮かない表情をしている。その事を今ここでは触れていけないような気がした。
「アーシャの方はいい魔道具は見つかったのか」
「あるにはあったけど、まだいいかな、それより揃ったんだから明日以降の予定を決めちゃおうよ」
明日は「中間の地」で狩りをするが、それ以降は暫く別行動になる事が決まった。やはり俺がチムールの講義を受ける事がネックになってしまい、俺に合わせるとなると近い場所のダンジョンで浅い階にしか潜れない。それだとあまり意味が無いように思う。二人はそれでも良いと言ってくれたが、そこは付き合わなくてもいいように思った。
「中間の地」で狩りを続ければいいとではと言う案も出たが、あそにでる獲物は魔石に変化する訳では無いので効率が悪いし、せっかくこの街にいるのだからやはりダンジョンだろう。
ただ二人だけで深い場所を潜るのは危険が伴うのでパーティを増やすか、どこかのパーティに合流するのかは二人に任せた。俺の方は昼間が暇になってしまうので講義を昼に変えて貰うか駄目なら戦闘訓練でも習うとしよう。
明日の狩りに備えて部屋で休んでいると、そっとアーシャが部屋の中に入って来た。予想もしなかった展開に胸が高まりアーシャをじっと見つめてしまう。
「あのさぁ勘違いしないでくれるかな、そんなんじゃなくてラルフの事だよ」
俺の想像を簡単にアーシャに見透かされてしまったのを恥ずかしく思うが、気が付かない振りをして冷静を装う。
「どうせ魔石のことだろ」
「そうだよ、何軒も回ってようやく修理してくれる店を見つけたんだけど、治すと言うか改良する事になって大金貨三枚だよ、それにたかがウォーターアローだってさ、ラルフなら自分で放てる可能性があるのにだよ意味が分からないよ、他の店は装飾品に変えた方がいいって勧められたのに頑なに嫌がるんだよね」
ラルフはアーシャにその魔石が形見である事を話していない様だ。ならば俺の口からは言えない。ただラルフもその魔石を魔道具にすることに拘り過ぎているよな気がするが。
俺はその事には明確には答えず、アーシャ達と別れてからの事を話した。義手が完成すれば今までとさほど変わりが無くなると聞いてアーシャは本当に喜んでくれた。決して口には出さないがアーシャは責任を感じていたのかも知れない。
義手が完成してようやくアーシャが重荷から解放されるのだとしたら、負担を持たせてしまったことを申し訳なく感じてしまうと同時にアーシャはパーティから離れてしまうのだろうか。アーシャはそんな事を考えているとは思っていない様で無邪気に聞いて来る。
「仁のその貰った服だけど、ライトグリーンって草原や森ではいいのかも知れないけど、街中では派手だね」
「やはりそう思うか、俺はあまり目立ちたくないんだけどな」
「たたでさえ冒険者見ている前であんな派手な事したのにこの格好でギルドに行ったら、目立ちたいって言っているようなんだけどね」
恐れていた事をはっきりと言ってくれたアーシャは自分の部屋に戻っていた。目立ちたくないと俺は言っているが行動が伴っていない様な気がしてしょうがない。
そういえばチムールに「迷い人」だってことを見透かされてしまったようだが、明日の講義までに誤魔化すか認めるか決めなくてはいけないと思う。
アーシャは部屋に戻りベッドに倒れ込むように寝転びながら、先程の事を思い返す。仁は何か思い違いしているように思う。私は負い目があるからここまで付いてきたわけじゃない。そんな風に思っているとしたら義手が完成したら仁は何を言い出すのだろうか。
溜息をついたアーシャはそっと目を閉じた。




