第八十一話 ドワーフの職人キンケイド
ハビーブに馬車に乗せられて北西の地区に向かって行く。北西の地区は中心街とは違い割とのどかな雰囲気が漂っている。同じ街の中なのにこうも違う景色が見られるとはこれまでの街に比べ規模の違いが分かる。
「着きました。ちょっと癖のある人物ですが腕は一流なので安心して下さい」
「安心されなくても別にこっちはどうでもいいがな」
いきなり馬車の隣から声がしたので急いで降りてみると、馬車の隣に身体の小さなドワーフが立っていた。
「キンケイドさん、そんな意地悪を言わないで下さいよ、それだからドワーフは愛嬌が無いって言われるのですよ」
「お前が変わっているのだろ、ドワーフの商人なんてお前さんぐらいしか知らん。ふんっ、どうせお前が直に来るって事は面倒な仕事なのだろ、聞いてやるから付いて来い」
ハビーブは肩をすくめてキンケイドの俺達は後ろを黙ってついて行く。敷地の中には建物が二棟立っていて、大きな建物の方へ向かって行くので家に案内されるものだと思っていたが、そこが工房でその中にはいくつもの炉があり、その周りにはかなりの数のドワーフが集まっていて何かを作っている。その姿を横目にしながら端にある一つの部屋に案内された。
「キンケイドさん、此方の仁殿に最高の義手を作って欲しいのですがお願い出来ますか」
「俺の所で作るのはいつでも最高のものだ。まぁいい、、お前はどういった義手が欲しいんだ」
ハビーブは嫌味を言われても全く気にする様子もなく俺の方を見たので、俺は考えていた希望を伝えてみる。
「ダンジョンに潜ったりする予定ですので、手入れが簡単なものがいいです」
「そうなると鎧型がいいのだが、木型に比べると魔石の消費が倍以上掛かってしまうが、そこはどう考えるんだ」
「どういう事なんでしょうか」
「はぁっ」
キンケイドは怒号交じりの声を出したが、それでも義手の事を説明してくれた。この世界の義手は魔石の魔力によって動かす仕組みになっているらしく、当然動かす度に魔力を消費するので鎧型の方が魔力の消費が高いので頻繁に交換する必要がある。ただ鎧型は頑丈に出来ていて手入れも木型に比べればかなり簡単に済む。木型の方は軽ければ軽いほど魔石の消費は押さえられるが、ちゃんとしたメンテナンスが必要になるそうだ。
大体の冒険者は固めの素材を使った木型の物を使用するそうだが、俺にとっては魔石に頼る必要は無いのかも知れない。
「自分の魔力で義手を動かすのは難しいのですか」
「そう言えばお前は魔術師か、ちょっと待っていろ、置いてある奴を持ってくるから」
キンケイドは部屋を飛び出して行き、鎧型の義手を数本持って部屋に戻って来た。最初に一番細い義手を俺に取り付ける。
「いいか、その義手に魔力を流してみろ、そうしたらもう義手だとは思わずに普通に腕を動かしてみな」
いまいち意味が分からないが、言われた通りに行うと指が本来の自分の物のように動いてくれる。
「凄いですね、滑らかに動きますよ」
「さすが仁殿ですな、アトラス様が目を掛けるだけあります」
褒められるのは照れ臭いが、それよりも左手が返って来たみたいで嬉しくなって来る。
「物を掴むと分かるがその手には感覚が無い。それには慣れていくしかないからな」
言われて直ぐに隣に置いてある椅子を持ち上げようとするが、物を持っている感覚が無いため上手く持ち上げる事が出来ない。
「確かに練習が必要ですね」
「お前さんなら直ぐに出来るようになるんじゃないのか、それよりもその義手に魔道具を組み込んでみないか、儂としては二種類ぐらいを試してみたいのだが」
キンケイドは義手を動かす以外の魔石を組み込んだ事は今までに作った事が無いので、がぜん興味が沸いてきたようだ。それから義手についての話合いはかなり長引き、ようやく全てが決まった時はすっかり陽も落ちていた。
「一週間後にまたここに来い。それまでに完璧に仕上げておいてやるからな」
ハビーブは文句ひとつ言わず、ずっと付き合ってくれたがのだが支部長として大丈夫なのだろうか。
「すみません、こんなに長く付き合わせてしまって」
「いいんですよ、それよりあんなに楽しそうなキンケイドさんを見る事が出来たのは久し振りです。かなり本腰を入れて作る為か酒の注文が大量に入りましたからね、ちゃんと時間分の元以上は取りましたよ」
いつの間にか話をつけていたようで、このハビーブという支部長は中々抜け目のない人物だ。時間も時間なので食事に誘われたが、アーシャ達に何も言っていない事を思い出したので急いで家に帰る事にした。




