第七十八話 疑いの中で
大柄の中年はフェドセイと言ってこの本部のギルド長で痩せぎすの老人はチムールでギルドの魔法部長官だそうだ。簡単な自己紹介を受けた後で二人の後を付いて行く。
その他にもイリーナや手の空いているギルド職員も付いてきた。そんな行列を成して歩いていくものだから、暇な冒険者もその列に訳も分からず並んできたので、いまでは百人程が集まってしまっている。
「ねぇ仁、何だか凄い事になっている様だからヘマしないでよ」
「仁さん、これは仮に失敗でもしたらこの街に僕たちはいられなくなりますね」
「あのさぁ、二人とも頼むから脅すのは止めてくれないか、俺も実は緊張してきて震えが止まらないんだよ」
ついさっきまで余裕だったのだが、人が増えるにつれて何故だか手が震え、今では顎に力を入れないと歯が音を立ててなってしまう。
ギルドの裏手には球場のような施設があり、二人に連れられて入って行くと球場みたいな優しい施設ではなくてどうやら闘技場らしく、地面には所々それらしき形跡が残っている。
「おいっ野次馬は出ていけとは言わないが、せめて邪魔になるから客席の方に回ってくれ」
冒険者達はフェドセイの指示に従い大人しく客席に散らばって座るが。彼らの手の中にはいつの間にか用意した酒やらつまみが見える。完全に楽しむ気でいるようだ。
フェドセイは部下達に何か指示を出し始め、その部下たちは何処かへ消え去って行く。どうせD級試験のような事が行なわれるのだろう。
「今から熊をベースとしたキメイラが二体と馬がベースとなったキメイラを三体だす。魔人を倒したのならこれぐらいは大丈夫だよな」
その言葉にアーシャがすかさず反応する。
「キメイラなんて見た事もない魔獣がどうしてここにいるのですか」
「どこかの馬鹿な商人が造らせたらしいのを軍が取り押さえたのだが、処分される前にギルドで引き取ったんだ。だが余りにも狂暴なので試験に使う事が出来ず、困っていたんだよ」
フェドセイの説明にチムールが補足を入れてくれる。
「知性の欠片もない単なる魔獣の組み合わせだが、見た目以上に危険な存在だぞ、もし君が偽物であるならば止めた方がいい。キメイラを処分する為に職員が控えているが君を助ける為じゃないからな」
「大丈夫です。ただ一つだけお願いがあります。キメイラの檻の先には観客がいないようにして下さい。間違って魔法がぶつかっても責任はとりたくありません」
震えている事に気が付かれないようにゆっくりと話すが、その様子が可笑しかったのか笑いながらチムールが答えた。
「そんなに震えて本当に大丈夫なのか、それに客席の前には魔法障壁を張ってあるからそんな心配なんかしなくてよろしい。ところで君は本当にやるのか」
俺が震えながら頷くと、二人は哀れみの表情を浮かべながら俺の横を通り過ぎていく。彼らは完全に俺の事を偽物だと思っているのだろう。
「仁ってどうしてそんなに震えるのかな、もっと落ち着きなよ」
「仁さん、こんなに広いのですから大丈夫ですよ」
二人はそのセリフを残しフェドセイが居る方へ走って行った。ラルフが言った「広い」に俺は反応し、周りを見回しているうちに少しだけ落ち着いて来た。
「じゃあ始めるぞ、魔法の準備があるならもうやっておけ」
その言葉に客席の冒険者が歓声にも似た叫び声を上げる。すると闘技場の真ん中からキメイラの入った檻が競り上がって来た。
俺は杖の上に掌サイズの「ブーメラン」を出して高速回転させ、ひたすら魔力を込める。他にも出したかったが油断すると「ブーメラン」が暴れだしてしまいそうになるので出来ずにいる。
「おいおい、あいつは何をやっているんだ、構えてもいないぞ」
「怖くて怖気づいてしまったのかも知れませんな、やはり止めた方がいいでしょう」
フェドセイ達が話している間に檻が完全に上がり、扉が開き勢いよくキメイラが飛び出してくる。それなのに何も動こうとしない仁を見てフェドセイは中止を宣言したが、観客の興奮した声にかき消され部下に伝わらない。
「くそがっ」
フェドセイが一人で仁を助けようとして走り出そうとしたが、アーシャがその肩をしっかりと掴む。
「何やってんの、邪魔しないでよ」
フェドセイがその手を振り払おうとしたときには全てが終わりつつあった。檻が開いた時になると仁の震えは完全に止まっていた。仁は杖をキメイラの方へ傾けると、今まで我慢していたものが爆発したかのように一気に「ブーメラン」が大きくなりながら弧を描く様に飛んで行く。
キメイラ達を一体一体と分断していき更に次は縦回転を始め、僅かに動いている部分にとどめを刺していく。余りにも力が違い過ぎたので勢いは止まらずに魔法障壁を障子でも破るかのように突き抜け、そのまま客席に向かって行きそうになったので解除した。
俺がフェドセイ達の方に振り返ったが誰も何も言ってくれないので、しょうがなく身長程の岩の弾を出し「バズーカ」として放った。キメイラの死体を巻き込みながら冒険者が座っていない客席に向かって飛んで行き、かなりの大きさの風穴を開けながら空高く飛んで行く。
まだ終了の声が掛からないので、なるべく派手に見せる為に「アロー」を目の前に二百本ほど出して、それぞれを回転させながら発射準備に入る。適当に放とうと思っていた時に後頭部をアーシャに叩かれた。
「やりすぎ、それは何処に向かって撃つもりなのよ」
ラルフも駆け寄りながら言ってきた。
「やはり仁さんは凄いな」




