第七十五話 ゴルドナに向けて
翌日はひたすら工房の引っ越しの手伝いをしている。俺があまり戦力にならない為にかなり時間がかかってしまうろ思われたが、それ以上にパオロが良く動く。流石ドワーフの少年だ。
「パオロ、どうして急にゴルドナに行く事になったんだ」
「昨日父ちゃんの師匠から手紙が届いて、オリハルコンが大量に出回っているから早く来いって書いてあったんだってさ、もっと早く行けば良かったんだけどね」
だったら俺の杖なんかやらないで支度した方がいいだろうと思うが、ラニエロの心意気に感謝して、俺は更にペースを上げどんどん荷物を馬車に積み込んで行く。
「おいっ、出来たから試してみろ」
昼を少しばかり過ぎたころに仕込み杖を手にしたラニエロが現れた。昨日は単なる茶色をしていたが、今は黒褐色の仕込み杖に仕上がっている。上部についてある魔石が今まで以上に輝いている様だ。持ち手には護拳がつけられていて落としにくくなっている。
「昨日見た時より、随分と良くなっていますね」
「いいから、早く握り絞めて見ろよ」
ラニエロにせかされて握り絞めると、短い針が出て来るのではなく、細見のサーベルのようになった。
「どうだ凄いだろ、突くだけでは無くて、斬る事も出来るぞ」
目の前にあったテーブルの脚にそっと当ててみると簡単に切れてしまった。
「おいっ何処を切っているんだよ、お前これも持っていく予定だったんだからな、弁償しろよ」
「仁、何やってんのよ」
アーシャに後ろからこずかれ、勝手に腰袋の中から大金貨一枚を抜き取られラニエロに渡されてしまった。
「こんなにくれるのか、悪いなだったらそれは好きにしていいぞ」
ラニエロは喜びながら工房の中に入って行った。アーシャは振り返り杖を見ながら俺に言ってくる。
「早くそれを使いこなせるようにならないとね」
こぼれるような笑顔を浮かべながらまた準備に取り掛かりに行ってしまった。ラニエロも加わり五人で馬車に荷物を積み込んだので夜を迎える頃には準備が整った。てっきり明日の朝に出発するものとばかり思っていたが、夕食を済ませたらすぐにでもゴルドナに向かう事が決まった。
「さっさと食事を済ませたら出発するぞ、ゆっくり進んでも明日の朝にはゴルドナに着くだろうな」
食事の準備をしている中、一人ラルフは皆と離れ馬車の側で懐から出した魔石をじっと見ている。気になった俺はラルフに近づいて行った。
「どうした、その魔石には何かあるのか」
「何となくは分かってはいました。だから最近は使わずにいたのですけど、ああやってはっきりと言われてしまうと付け替えるしかないですよね、僕は魔法剣士を名乗っていますが魔力が多い方ではないんです。だからこの魔石に頼っていたんですけどね。それにこの魔石は姉の形見なのでどうも踏ん切りがつかないのですよ」
ラルフはそう言いながら、じっと魔石を見つめてる。
「だったらどうなるかは俺には分からないが、ゴルドナで相談してみろよ、まだ諦める必要はないと思うぞ」
「そうですよね、ゴルドナで直せるかどうかを調べてもらいます」
ほんの少しだけ希望を持ち、ラルフは食事の準備の手伝いに行った。慌ただしい食事が終わった後で、ラニエロは立ち上がり号令をかける。
「よし出発だ、ゴルドナに向かうぞ」
一日中引っ越しの手伝いで眠たくて仕方が無いのだが、諦めてラニエロに従う。ラニエロは馬車を操縦し、アーシャと、ラルフは馬で並走する。パオロだけは後ろでもう寝てしまった。俺は馬車の一番後ろで後方を警戒しながら魔法を試している。
「仁、今は何をやっているの」
アーシャが後ろに下がって来て俺のやっている事を不思議そうに見ている。
「ゲレオンに言われた奴だよ、さっきからやっているんだけど、集中力が途切れてしまうと魔力を込めた分だけ暴発してしまいそうになるんだ」
杖の上に浮かんでいる「ブーメラン」は時折、我慢できないと言わんばかりに大きくなろうとしているが、必死に押さえこみ掌サイズのまま高速回転を続けている。
「それを飛ばすとどんな感じになるの」
「どうだろうな、ちょっと試してみるか」
杖を軽く森の方へ向けると、掌サイズだったものが馬車以上に大きくなり、森の木々を切り裂きながら一瞬の内に見えない所にまで行ってしまったが、直ぐに轟音を響かせながら戻って来る。このままだと馬車もろとも大変な事になってしまうので急いで解除した。
「どうした、後ろで何かあったのか」
「仁さん何が来たのですか」
ラニエロは馬車を急停止させ、ラルフも剣を抜きながら下がってきて、側に居たパオロはかなり動揺している。かなり不味い状況のように思えてきたのでそっとアーシャを見るが目線を逸らされてしまう。
「すみません、魔法の改良をしていました」
「お前な、いきなりやるなよ、驚くだろうが」
ラルフは一人でそっと下がり、「ブーメラン」が通過した後をじっと見る。
「何だよこの魔法は、それなのに何であの人は猿なんかにやられたんだ。意味が分からない」
ラルフは誰にも聞こえない声でそっと呟いた。




