第七十二話 ドワーフの男、ラニエロ
ドワーフの男は出て来るなりパオロに聞き、大体の状況を把握し始めた。
「君達には悪いが俺はまだ行けないんだ。それよりお金さえ払えばトメン草を採ってきてくれるのか、あれがを酒に入れると上手いんだよ。切らしてしまってからどうも仕事がはかどらなくてな」
「何なの、単なる美味い酒が飲みたかっただけなの」
アーシャが呆れたように言ったが、その男にとっては酒は大事らしく早くここでの作業を終えてからゴルドナで仕事をしたいらしいのだが、どうもやる気がでないらしい。
「パオロ、お父さんは病気とは病気ではないから心配しなくて大丈夫だよ。そんな訳だから俺達は帰るよ」
俺がパオロに声を掛けていると、パオロの父親はアーシャの偃月刀に手を伸ばした。
「姉ちゃん珍しい槍を使っているな、ただこれは酷いぞ、全然手入れができていないじゃないか、この槍が哀れだよ」
「槍じゃ無くて偃月刀なの、それにそこまで言う程酷くないでしょ、ちゃんと毎日手入れはしているんだから」
「あほか、ちゃんとした手入れとはこういう事だ」
そう言いながら側に置いてあった剣を投げて寄越した。その剣を鞘から抜くと如何にも切れそうな刃が付いている。
「これと一緒にしないでよ、私が買った時もここまでの輝きはなかったよ」
父親は頭を掻きながら盛大に溜息をつき呆れたように言う。
「お前さんは一体どんな店で買ったんだよ、見た目はいいが中身が伴っていないよその偃月刀は、何なら俺がもっとまともにしてやろうか」
「えっ本当にいいの、出来ればやって欲しいな」
「その代わりトメン草をたんまり採ってきてくれないか、そうすりゃ相殺できるだろ」
アーシャは渡された剣の輝きが愛用の偃月刀に纏うかも知れないと聞いて、是非ともやってもらいたいようだ。
「仁、ちょっと寄り道してもいいかな、切れ味が良くなればゴルドナにいったら活躍できると思うんだよね」
アーシャはかなり乗り気になっている。若い女性が刃物にここまで興奮するのもどうかと思うが、ここはお願いしてもいかもしれない。
「あの、僕の剣も見て貰えませんか」
ラルフがそう言いながら渡すと、真剣な顔で全体を見ている。
「若造にしては随分と高価な剣じゃないか、手入れも良く出来ているぞ、ただこの俺、ラニエロに任せて貰えばもっといい剣にしてやるよ、ただ酒のつまみになる魔獣を一体ってところかな」
ラルフも触発されたのかやって欲しくて仕方がないようで、物欲しそうな顔を見せる。ぎこちなくなってしまった関係を少し戻したい俺にとっては願っても無い案件だ。
「いいだろう、是非ともその条件でやらしてくれ、それでトメン草はどこに生えているんだ」
ラニエロが地図を持ってきて大体の場所を教えてくれた。そこなら一日もしない内に往復できる距離にあった。トメン草はラルフが知っているので案外簡単に済みそうだ。ただアーシャもラルフも武器を預けなくてはいけないので、そこが問題だったがラニエロが剣を貸してくれた。
パオロが練習用に作った剣だそうだが、細工は地味だけれども剣自体はいい物のように見える。魔石が付いていない為、剣技のみの戦いになってしまう恐れがあるが、ミドナ猿ぐらいならアーシャやラルフにとっては問題ないそうだ。
明日の夜には持ってくることを約束して、俺達は公衆浴場に行く事にした。もしかしたらやっていない可能性を心配したが、その心配は無用だったようだ。
「仁さん、今朝はすみませんでした」
「もういいよ、考え方に違いがあるのはしょうがない事だからな」
俺は冒険者をやっているのだからいつかまた逃げられない事もあると思う。その時は腹をくくるしかないが、それ以外は慎重に行きたい。勿論ラルフもそうあって欲しいと思う。ラルフの正義感は決して悪い訳ではないが危うさを感じてしまう。仮にゲレオンが敵であの村の中で戦う事を選択したとして、仮に巻き添えで誰かが死んでしまったらラルフは何を思うのだろうか。
公衆浴場の中には誰も居なく寂しさを感じてしまう。この村にしても出来た当初は賑わっていたが年々さびれて行ったそうだ。トンネル工事が進んでいない事とゴルドナが近くにある事が原因なのだろう。ラニエロも昔は繁盛していたが、今は全然だと言っていた。ゴルドナのとある工房から誘いが来ているらしいので早くいけば向こうでうまい酒が飲めるのではないかと思ってしまう。
「早くゴルドナに行きたいね、こんな寂しい村とはおさらばしたいよ」
帰り道アーシャが誰も通らない道を見ながら言った。
「そうだな、そしてゴルドナに飽きたら次は魔国にでも行こうか」
軽い冗談のつもりだったが、二人に完全に否定されてしまった。
「絶対に嫌だよ、ゲレオンは何もして来なかったけど、他の魔族がそうとは限らないでしょ、行くなら一人で行ってよね」
「仁さん、通貨が違うから厳しいと思いますよ」
「単なる冗談だから忘れてくれ」




