第七十一話 ドワーフの少年、パオロ
街道は段々と霧に包まれていき視界がかなり悪くなってきた。近くにいるはずのラルフの姿も薄っすらわかる程度になってしまったので、今ではロープをラルフに渡している。
「ラルフ、ループは馬に繋いだら駄目だからね、ちゃんと自分の手で持つんだよ」
「ちゃんと手で持っていますから大丈夫ですよ、それより仁さん、魔人と戦う力があるのに何で逃げる事を選んだのですか」
ラルフの表情は見えないが、英雄としてちゃんと俺が魔人と戦う事を選択して欲しかったのかも知れない。
「あの魔力を見て何も思わなかったのか、まともに戦って勝てる訳がない。それなのにわざわざ戦う事ないだろ、仮にコスティなら国を守るのが仕事だから発見したら必ず戦うと思う。けど俺は単なる冒険者だ。逃げられるなら逃げるさ、自分や仲間の命が一番大事だからな」
「そうなると、取り残された人達は殺されてしまうかもしれないんですよ」
「ゲレオンが悪だとしてもそれは無いだろ、兵士や村人に信頼されていたじゃないか、直ぐに何かが起きる事はないと俺は判断した。俺達があそこを離れてからその村の兵士に伝えるか、ヨアキムに手紙を書いてもらうかするつもりだったよ、だからあの村から出たんだ」
それでも何故かラルフは納得いっていないようだ。ラルフにしてはまだ突っかかってくる。
「兵士ならあの村に居ましたし。手紙ならあの村でも書けるではないですか、魔人に対抗できるのはあそこでは仁さんだけですよ、なのにあんなに急いで逃げなくても」
アーシャがいい加減にしろと言わんばかりに会話に入って来た。
「あんたね、人に頼るのは止めなよ、仁は勝てないって判断したの、そんなに戦いたかったらラルフがやりなさい。自分の命を犠牲にする正義の味方がやりたいのなら冒険者何かやめちゃいなよ」
「アーシャ言い過ぎだぞ、ただラルフに言っておくけど、俺はこれからも勝てないと分かっているのに人を助ける何て真似は決してやらない。ただそれが仲間の為だったら命を掛ける覚悟は持っている。それ以外なら安全が一番だ。ラルフもその考えだと死ぬぞ」
「けど、勝てそうだったじゃないですか、仁さんは自分を過少評価しているんじゃないですか」
「あのなぁ、ゲレオンに戦う気が無かったからだろ、あいつが使った魔法見てもお前は分からないのか」
「……………………すみません」
ラルフの表情が見えないので本当の言葉通りなのかは分からないが、多分俺に対して失望しているのかも知れない。俺はこの世界の人間より魔力は強いのは分かっているが、ただそれだけだ。次に相手の力量を見間違えれば次は腕だけでは済まなくなってしまうかも知れない。
そんな俺達の空気を天気すら感じているのか霧が晴れる気配はなく、そのままオルガアーチ村に辿り着いた。この村のギルドを訪ねたが、ここのギルドはまだ稼働は始まっていない様だった。
ギルドの入口が開いていたので覗いて見ると、老人が椅子を並べて横たわっている。ラルフは老人が生きているのか死んでいるのか確認する為に、そっと揺すった。
「すみません、ギルドの方ですか、大丈夫ですか」
その老人はただ眠っていただけの様で目を擦りながら不機嫌そうに身体を起こした。
「何だね君達は、ここならまだ稼働していないぞ、まぁいつ稼働するかは分からんがな」
本来ならとっくに稼働しているはずだったが、この村が思っていた以上に人が集まらず、トンネル工事でさえ後回しになってしまったので、ただ建物があるだけの状態になってしまっているそうだ。
「君達も仕事をしたいのであれば早くゴルドナに向かうといいぞ、あそこは溢れるほど仕事はあるし、何と言っても冒険者の街だからな、こんな所でうろちょろしている暇はないぞ」
その言葉通り、ここにいても何にもならないので明日の出発に備え早々の宿に入る事にする。宿を探しに行こうとしたときドワーフの少年に声を掛けられた。
「ねぇ兄ちゃん達は冒険者なの、もしそうなら仕事を依頼したいのだけど」
少年はパオロと名乗り依頼の内容を話し出した。内容はこの村の南の森からトメン草を採取して欲しいそうだ。
パオロの父親はトメン草が手に入らなくなってから身体が思うように動かず、ゴルドナに向けての出発がどんどん遅れてしまっている。少年だけで採取しに行こうと思ったらしいのだが、トメン草の周りにはミドナ猿が群れを成しているのでパオロでは対処できない。ギルドも出来ていないし、周りの住民もこの村を諦め、どんどんゴルドナに行ってしまうので悩んでいた所、冒険者らしい俺達を見つけ聞いてみたそうだ。
「それだったら、一緒にゴルドナに行くか、別にそれだったらついでだから只でいいぞ」
「えっ本当にいいの、父ちゃんに聞いてみるよ、兄ちゃん達も付いて来てくれるかい」
パオロに連れていかれた工房はかなり立派な建物だった。パオロはドアを開け大声を出した。
「父ちゃん、冒険者の兄ちゃんが一緒にゴルドナに行ってくれるってさ」
「パオロ、一体何を言っているんだ」
そこに現れたドワーフは筋骨隆々でとても病人には思えない位の健康的な男が姿を見せた。




