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第六十八話 見つけたくなかった

 トンネルの前は大騒ぎになっていた。兵士がトンネルを囲んでいて中からは犯罪奴隷が両手を高く上げ出て来る。その様子を遠巻きにして俺達のような野次馬が見ている。


「仁さん、崩落事故でもあったのですかね」


「どうだろう、ここからだとよく分からないな」


 ラルフと話していると隣にいた獣人族の男が会話に入って来た。


「あの鐘の音は事故じゃない暴動だ。奴らが成功してしまうと俺達も危ないからな、だから抑え込む為に集まっているけど今回は俺達の出番は無いようだぞ、ほらあそこを見て見な」


 するとフードを深く被った男がトンネルから出てきて、兵士に指示を出している男に近づくと直ぐに兵士達は一斉にトンネルの中に入って行った。


「あのフードの男は闇属性の魔法を使う処刑人だ。てっきりもう王都に呼び出されていると思ったがまだここにいたんだな、いないと思って暴動を起こしたと思うがどうやら目論見が外れたな」


「あのフードの男だけで鎮圧したのか」


「鎮圧というか、単なる処刑だよ、彼が動いて生きている奴は一人もいないだろう、流石だよ」


 何人が暴動に参加していたのか分からないが、全員を処刑したらしい。この世界には盗賊に人権がないのは知っていたが、どうやら犯罪奴隷にもそれは当てはまる様だ。


「何故、他の兵士は一緒に戦わないんだ」


「おいらも詳しい事は分からないが、彼の魔法は広範囲に広がってしまうから自分以外の者は邪魔になってしまうらしいぞ」


 俺はフードの男から目を離す事が何故か出来ないでいる。暫くじっと見ているとその男はフードを外し、その中の顔は年齢も性別も不詳のような無機質な顔だった。彼は疲れた様子は一切見せずにただトンネルの方を見ている。


 トンネルからは多分死んでいるであろう犯罪奴隷が次々と運ばれてくる。彼らには布が掛けられている為、どのような死に方をしているのかは分からない。


 帰る事もせず、他の野次馬と共に事の成り行きを見守っているとフードの男は此方の方を一瞬だけ見た。俺は彼と目が合った瞬間に身体中に氷を張り付けたかのように悪寒が全身を包み込んで震えが襲ってくる。とてもではないが正気を保ってこの場にはいられない。


「ラルフ、急いで宿に戻るぞ」


 まだラルフはこの場に留まりたいようだったが、そんな事はお構いなしにラルフの腕をしっかりと掴んで逃げるように走って行く。すばやく宿に戻るとアーシャの部屋のドアを気が狂ったかのように叩き始めた。


「ちょっといい加減にしてよ、まだ夜中だよ五月蠅いんだけど。あんた達もしかして酔っぱらっているんじゃないでしょうね」


 不機嫌な顔をしながらアーシャが毛布で体を隠しながら出てきた。かなり色っぽい恰好だが今は全くそれどころではない。


「そんな訳ないだろ、とにかくこの村から出なくては行けなくなったから早く支度をしてくれ、後で訳は話すから、いいな直ぐに支度をするんだぞ」


 俺の顔色がかなり悪くなっていて、更には凄く真剣な顔をしている為か二人は直ぐに出発の準備を始めた。支度が終わった後で直ぐに馬に跨り村の出入口に向かう。


 夜中である為、門番に止められてしまうのではないかと思われたが、この村には門限が無いようでギルドカードを見せるだけで通行を許可してくれた。


 夜の街道には勿論街灯などあるはずもなく、月明かりだけが頼りだった。街道全体は青みを帯びていて、始めてみる景色では無いのだが今日の俺にとっては不気味な雰囲気に感じてしまう。


 誰も口を開く事は無く、ただ馬の走る音だけがこの街道中に響き渡っていたが、流石にこの状況に我慢が出来なかったのか、とうとうアーシャが口を開いた。


「仁、もうそろそろ話してくれてもいいんじゃないかな」


「わぁ……………………」


 俺の口の中は完全に水分がなくなっていて舌が張り付き言葉にならなかったが、それに気が付いたアーシャは器用に後ろにしがみ付いている俺に水を飲ませてくれた。


「ありがとう、ラルフにもちゃんと話をしたいからその辺りで馬を止めてくれないか」


 街道の脇にるちょっとしたスペースに馬を止めてそのまま地面に腰を下ろした。アーシャもラルフも黙っていて、俺が話すのを待っている。


「あのな、まずアーシャは寝ていたから知らないだろうが、さっきトンネルで暴動が起こったんだ。それを鎮圧したのが処刑人と呼ばれたフードの男だったんだ。ここまではラルフも知っているよな」

 

 ラルフは黙って頷くが、アーシャはそんな面白い事があったのに何故起こしてくれなかったのかと文句を言ってくるが、その先を聞きたいラルフによって黙らされた。


「そのフードの男が問題なんだけど、そいつはあのダンジョンにいた魔人と同じだよ、それにドルムントよりも遥かに強いと思う」


「……………………」


「へー、君達はドルムントの事知っているんだ。それなのに何で君達は生きているのかな」


 俺達の頭上にあのフードの男が背中に翼を羽ばたきながら浮かんでいた。



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