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第六十三話 タンペレの街へ

 アーシャと共にラルフ達の元に向かったが、既に処理は終わっていたようで誰も居なかった。もう宿に帰ってしまったと思われるが、真っすぐに帰る気にはなれず少し夜風を浴びたい気分になる。


「アーシャ、今から帰ればまだ充分眠れるぞ、俺はちょっと散歩してから帰るから」


「私も付き合うよ、あいつのせいで気分が良くないんだ」


 そのまま二人で何のあてもなく夜中の村の中をただ歩く。色んな事が頭をよぎったが、一つのいいアイディアが浮かんだので聞いてみた。


「ちょっといいかな、提案なんだけどアーシャが完全な獣化したときは手綱をつけてみるのはどうかな、そうする…………」


 まだ話の続きがあったのだが、アーシャは渾身の力で俺の頬を殴って来た。


「何それ、馬鹿にしてんの、私は何なの、馬扱いをしたい訳なの」


 アーシャは顔を赤くして睨んできた。凄くいい案だと思っていたが、かなりの地雷を踏んでしまったようだ。立ち去ろうとするアーシャの腕を掴み、ただひたすら謝り続け悪気はないのだという事を分かってもらうのにかなりの時間を費やしてしまい、もう朝日が昇って来ている。許して貰う条件に次のタンペレの街でアーシャにブーツを買う事で、何とか怒りは収まってくれた。宿に戻るともう出発の準備を進めているゴンザがいる。


「こんな朝早くから出発するのか」


「よぉお帰り、急がないとタンペレの城門が閉まる前に着かないからな、だからお前ら待ちだよ」


 慌ただしく俺達も荷物をまとめ、初日と同じ配置に付く。村の入口に差し掛かる頃に慌ただしく駆け抜けていく騎馬隊とすれ違った。全員が重装備をしていて重々しい雰囲気がある。


「もう既に終わっているのを知ったらどんな顔をするのでしょうな」


 従者のウンナがそっと呟きながら村を抜け街道へと進めていく。タンペレの街までの街道は全てレンガで舗装されているので振動は殆どなくかなり眠たくなってしまう。流石に仕事中なので眠る訳にはいかず、眠気覚ましに目線だけで瞬時に「ウォール」が出せるように左側に先程から出したり、解除したりを繰り返している。暫く続けていたところ左を警護しているラルフが寄って来た。


「仁さん、さっきから何をしているのですか、申し訳ないのですがせめてもう少し小さいのにして下さい。馬が気になって仕方がないらしくて操縦しずらいのですが」


 ラルフからの苦情でもう「ウォール」の練習は止める事にした。代わりに今度はウンナに話し掛けてみる。


「ウンナさんは獣人族の事に詳しいですか」


「そうですな、色んな場所にいっているので普通の人よりは接する機会はありますが、どうしました」


 そこで俺は夜中にアーシャを怒らせてしまった事を話すと、ウンナはため息交じりに答えた。


「そりゃ仁さんが悪いですよ、獣人族は獣化しても獣では無いのですから乗り物扱いしたら怒りますよ、それを女性に言うなんて信じられないですな、確かに手綱を付ければ乗りやすくなるでしょうが二度と言わない方がいいですよ」


「悪気は全くなかったんですけどね」


「それが余計に悪いのですよ」


 それからは延々とウンナの説教が始まり、その次には獣人族に対する心構えの講義が始まり、終わりを迎えるころにはタンペレの街が見えてきた。


 陽が沈む前にタンペレの街に辿り着き護衛の仕事は無事に終了となった。終了証明書とワイバーンの討伐の報酬をヨハンネスから貰って解散する。


 ヨハンネスからはこの先はヘクスター商会の専属にならないかと、熱心に誘われたがアトラスの言葉に従い断りを入れた。ギルドの報告と売買は明日ゴンザと行く事に決まり、俺達は宿屋を確保しに街の中を歩き始めた。


 このところゆっくりと浴槽に浸かっていないので、個室の浴槽がある宿をヨハンネスに紹介してもらい、その宿を訪ねる。その宿は昔ながらの日本旅館のような佇まいをしていて、見るからに高級な宿の雰囲気がある。


「ねぇ、本当にここに泊まるの、私達じゃ場違いじゃないかな」


「仁さん、流石にお金を使いすぎだと思いますよ」


 二人は宿の外観で判断し、反対のようだがここは押し切る事にした。


「今回は俺が奢るよ、アーシャはお詫びもしなくちゃいけないし、ラルフには俺達のパーティに入ってくれたお祝いだからな」


 半ば強引に宿を決め、二泊で二部屋を確保する。アーシャは一部屋で構わないと言ったが、たまにはいいだろう。宿の食事はやはり和食ではなかったが、かなり満足のする食事だった。もう食事も食べ終わった頃に店員に俺だけ呼び出された。何かと思っていたら宿の前にゴンザとウンナが待っている。


「どうしたんだ二人とも、何か問題でも起こったか」


「問題と言えば問題だな、ウンナに聞いたぞ、お前は獣人族の扱いがなっていない様だな、獣人族の女性を理解する場所があるからちょっと行こうぜ」


 この世界にも歓楽街は必ずあるとは思っていたが、ついにお目にかかる事が出来そうだ。


「分かったよ、勉強の為に行く事にするよ、ちょっとだけ待っていてくれるか」


「早くして下さいよ、いい教師がとられてしまいますよ」


 ウンナとゴンザはにやけながら、俺をせかすように背を押した。俺はその勢いのままアーシャ達の元に戻り神妙な顔をしながら話始めた。


「ゴンザ達が大事な話があるみたいだからちょっと出て来る。まぁ俺一人で大丈夫そうだからゆっくり休んでいてくれ」


 一緒に来そうになるところを断り急いでゴンザ達の元へ駆けつける。連れていかれた歓楽街はこの世界の夜とは思えない程眩しいばかりの灯りに溢れていて、かなりの数の店が並んでいる。ウンナとゴンザには既に店を決めているらしく、迷う素振りすら見せずに進んで行く。


「ここがこの街一番の店だ」


 ゴンザが立ち止まった店は、獣人族の女性が在籍している店だった。

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