第六十話 VSワイバーン
若干の揉め事から程なくして配置場所に辿り着いた。バリスタはレンガを積み重ねた塔の屋上にあり、既に三人の兵士がワイバーンを待ち構えている。
ここの場所の隣には牛舎があり、他の場所のバリスタの周りにも家畜小屋がある。ワイバーンは家畜を狙って来るので考えられた配置なのだろう。バリスタの操作は兵士に一任しているので、地上には俺達だけしかいないが、俺の考えを話す。
「まず、バリスタと俺でワイバーンを叩き落とす。それからは三人で斬りかかってくれ、俺はワイバーンを地上に釘付けにするようにするから上手くいけば直ぐに終わるさ」
作戦らしい作戦では無いが、個々の動きを重要視する冒険者ならこれで十分だろう。その場で四人で座って夕焼け空を眺めながらワイバーンを警戒する。俺は座りながらバリスタの弓矢よりも長く太くした弓矢を頭上高く上空に五本浮かばせておいた。コスティと考えた速さと突貫力を追求した、対魔族対策の「アロー」だ。
「仁さん、まだワイバーンの姿形さえ見えないのに出してしまっていいのですか」
ラルフは「アロー」を見上げながら言ってきたので説明をする。
「実はあれは見た目には完成しているように見えるかも知れないが、まだワイバーンを貫けるほどの強度はないんだ。だから時間をかけて魔力を注いでいるんだよ」
「いつ来るかも分からないのに魔力は持つのですか」
ラルフは俺の魔力量に興味を持っているようだが、誤魔化す為に話題を変えた。
「ラルフは水属性なのだろ、回復魔法以外に何か出来ないのか」
するとラルフは詠唱を始め、掌の上にボーリングの玉位の大きさの「ウォーターボール」を出した。
「残念ながらここまでです。詠唱が下手なせいで飛ばす事が出来ないんですよ」
それならば無詠唱の練習をした方がいいと告げ、コツを丁寧に教えたあとで。水をボールにするのではなく、指先から強く細く出して貫通力を目指すか、薄く刃物のように切れ味を出すかにした方がいいのではと教えた。ラルフは直ぐに試してみたが、最初の頃のコスティと同じように何も現れなかった。
「こればかりはじっくり練習するしかないな、魔術書から詠唱を覚えるのも大事かもしれないけど、魔道具に対抗するには無詠唱の方がいいぞ」
「はい、頑張ってみます。無詠唱なんて選ばれた一部の魔術師しか出来ないと思って試しもしませんでしたが、やってみようと思います」
話している内に辺りは段々と暗くなってきた。するとアーシャが立ち上がり北西を指さした。
「あっちから一体向かって来るよ」
アーシャの声に全員が立ち上がり、俺は大声で兵士に指示を出す。
「見えますか、北西から来ているそうです。射程に入ったら当たらなくてもいいので頭上を狙って下さい。奴の高度を下げる様にお願いします」
「まだ見えないが了解した」
兵士の声が上から降り注ぐ。まだ俺の目には見えないがこの場の空気が張り詰めている。
「見えたぞ、奴はさほどスピードを出していない。もっと近づいてきたら撃つからな」
「タイミングは任せます」
兵士の言葉に杖を握り絞め直しながら答える。アーシャ達も武器を構え戦闘態勢に入った。ワイバーンが約二百mの距離まで近づいてきたので、一射目が放たれた。軌道がずれてしまったのか胴体の方へ向かっているようですんなり躱されスピードを上げ此方に向かって来る。
急いで兵士は二射目を装填し放つ。今度はワイバーンの顔目掛けて飛んで行き、ワイバーンは狙い通りに高度を下げて加速してくる。
「アロー」
上空に待機していた「アロー」が音も起てずにワイバーン目掛けて降下してくる。四本がワイバーンに突き刺さり、そのまま昆虫採集のように地面に貼り付ける事に成功した。地面を削りながらも進んできてようやく俺達の僅か三十mの所でワイバーンは止まった。
「ランス」
身体全体を満遍なく貫けるように出したのだが、硬い皮膚を貫けなかったようでワイバーンの身体が浮かび、そのせいで「アロー」がさらに食い込んでしまい抜けそうになってしまうが、既に獣化したアーシャがワイバーンの首に向かって偃月刀をふるった。
首をかなりえぐりアーシャはその場から直ぐに離脱する。次はゴンザが雷の光を纏ったバトルアックスで同じ場所に叩きつける。更にアーシャがもう一度渾身の力で斬りかかり、三度目の攻撃でワイバーンの首は斬り落とされる。ランスがワイバーンに攻撃を掛ける前に全てが終わってしまっていた。
東の方では火柱が空高く上がっているのでそちらでもワイバーンが現れたのであろう。かなり奥から上がっているのでモーリッツの担当の場所かも知れない。
兵士達が塔から降りてきたのでどうしたらいいのか聞こうとしたところ、誰も配置していない東から瓦礫が巻き上がっている。もしかしたら三体目が東から低空飛行で接近してきたようだ。




