第五十八話 オカノの村へ
まだ朝が早いので西門の周りは誰も居ないと思っていたが、数人の冒険者が既に門が開くのを待ち構えていた。俺は少し離れた木に背を預け待つことにする。
暫くすると太陽が顔を出し始め、西門が開放されたので順に冒険者は街から出て行く。この辺りにも大分人が集まって来た。護衛対象の馬車が姿を見せたので近寄って行くと、ゴンザの方から話し掛けてきた。
「よう、今日から宜しく頼むな、出発前に最終確認をするから揃ったら俺に知らせてくれ」
ほどなくしてアーシャとラルフが来たので護衛団だけで最終の打ち合わせが始まる。護衛は新たに二人増えて合計で八人が五台の馬車を守っていく。左右に四人、後方に一人、先頭にゴンザで俺はヨハンネスの馬車の操縦する従者の隣に座ることになる。
「君がこの馬車に乗ってくれたら安心じゃな」
ヨハンネスが話し掛けてきた。彼は実はアトラスの師匠とも言える人物で、アトラスが幼少の頃、修行先としてヘクスター商会にいたのだった。昨日アトラスが最後に開いてくれた食事会に現れた時は驚いたが、それよりもアトラスがヨハンネスに対して警戒していることが気になってしまう。昨日の二人の様子を見る限りそんな様子は感じられなかったのだが。簡単に挨拶するとヨハンネスは馬車の中に入って行った。
準備が整い、いよいよクリフトの街から出ることになる。軽い緊張感が流れる中で馬車は進んで行く。先頭の馬車の上に旗が掲げられると前方にいる馬車は順番を譲ってくれ、門を通過するときにも門番からは何のチェックもされずに通過を許された。どうやらヘクスター商会はただの商会とは違うらしい。
本日の目的地であるオカノの村までの街道は比較的になだらかになっていて、人の往来もかなりある。それでもたまに盗賊や魔獣が出てしまうのでどうしても護衛が必要になってしまうのだが、馬車に乗り込んでいる商人達は下手な冒険者よりよっぽど強そうに見える位の体格をしている。
心地いい風が吹いている中で馬車は順調に進んで行く。ときどき鳥の集団が北の方から飛んでくるが、その他は平和そのものだ。ただ隣で操縦しているウンナは何か異変を感じているようで、空の様子が気になって仕方が無いようだ。
「どうしましたウンナさん、先程から空が気になっているそうですが、あれは魔獣では無いですよね」
「勿論違いますよ、あれは単なる渡り鳥なのですが、この時期は北に向かって飛ぶのが当たり前なのですが、何故か南に向かっているのが気になります」
ウンナの心配をよそに、夕方になり前に早くもオカノの村へ辿り着く事が出来た。オカノの村は村と名前は付いているが、高い城壁に囲まれていないだけの中々の大きさを持つ村だった。ただ城壁の代わりに堀があり、堀によって村全体を囲んでいる。
村の中に入ると、馬車はどんどん中央に向かって行って、一軒の立派な宿に辿り着いた。ゴンザは護衛達を集合させ指示を出し始める。
「今日の仕事はもう終わりだ。俺達は二手に別れて隣の宿に泊まる。また早朝に出発するからよろしくな」
すると商人の一人が血相を変えてゴンザの元にやって来た。ゴンザもその商人の話を聞いているうちにどんどん顔が険しくなってくる。どうやら何か問題が発生したようだ。
「残念ながら今日の仕事はまだ終わりではなくなってしまった。今日の道中で渡り鳥の不可思議な行動に気が付いた者もいるだろうが、原因はワイバーンのせいだそうだ」
商人の情報によると現在隣町に救援の要請に行っているらしいが、到着はどう考えても明日の早朝になってしまう。この村にいる部の半数以上が現在王都に行ってしまったらしいので、救援がくるまでの間だけこの村にいる冒険者に手伝った欲しいのだそうだ。
「ワイバーンか、かなり面倒なのが近くにいるね、こっちにこなければいいのに」
アーシャがそっと呟いた。ワイバーンは地上で戦えればCランクの魔獣だが、空に上がるとBランクに格上げされる。地上でのCランクですら兵士が五、六人位は必要なので、空に上がってしまうとかなりやっかいな魔獣だ。
ヨハンネスの元に護衛団が集められ、この件についてのヘクスター商会の見解が告げられた。
「揃ったようじゃな、ワイバーンの件じゃが、軍の要請に従うもまたその逆も各々の自由にしてよろしいが、仮に要請に従う者は一人につき大金貨を一枚進呈しよう。そして討伐に成功したら更に一枚払おう。只必ず、ヘクスター商会の所属として参加して宣伝をしてくれ」
ゴンザがヨハンネスに尋ねる。
「討伐した場合なのですが、働きによっては部位がもらえると思いますが、その場合はどうしたらよろしいのですか」
ヨハンネスは少し考えた後で答えを出した。
「部位はその者の物じゃ、ただギルドまで運べないじゃろうからその場合は私達の馬車を利用してもらって構わない。ただし運び賃として売値の三割は貰うとするかな」
ゴンザは頷き参加を表明したが、参加するのは、ゴンザと俺達の四人だけだった。




