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第五十七話 旅立ちの前

 「ゴンザ君、彼らにお願いしようじゃないか、彼は馬車からの警護なら問題は無いだろう。それから君らの流儀は分からないが、横入してきた彼らはもういらない。よろしいかな」


 個室にいた中で一番の年長者と思われる老人がゴンザに言ってきた。


「分かりました。彼らにはチームに入って貰います。ただそれだと人数が足りません。解雇は撤回してもらえないでしょうか」


「募集は締めきっておらんからまた来るだろう。それに私は無粋な奴は嫌いなのだよ」


 ゴンザの願いは届かず、穴に落ちている男達の解雇は簡単に決まってしまった。老人は此方に近づいて来て手を差し伸べてきたので握手を交わした。


「私はヨハンネスと申す、ただの商人じゃよ、出来れば君とは長い付き合いをしたいものじゃな、よろしく頼むよ仁君」


 その老人はカードを覗きに来てはいなかったのだが、何故、俺の名前をしっているのだろうか。


「俺の事を知っていたのですか」


 老人は愉快そうに笑い声を上げて言ってくる。


「商人は情報が大事だからな、まぁ噂通りの人物かどうかはようやく分かったよ」


 何だかよく分からないが、これで護衛に付く事が出来るのでよしとしておこう。まぁ別にムキになって依頼を受けなくても良かったと思うが、護衛の仕事もまたいい経験になるかも知れない。


 ヨハンネスと話している間に、穴に落ちている冒険者達の救出が進んでいる。彼らは落下の衝撃で四人とも足の骨が折れてしまっていて、これまでの依頼料でハイポーションで直すか、それとも時間をかけて自然治癒で直すかで選択を迫られている。


 ラルフなら治癒出来ると思うのだが、そんな彼らを無視しながら俺達はゴンザと今後の予定を話し合っている。すると宿の主人と思われる男が近寄って来た。


「すみませんが、あの穴はそのままにしておくつもりなのでしょうか、店の前ですのでどうにかして欲しいのですが」


 俺は慌てて謝り、直ぐに元通りに直した。もしそのまま帰ってしまっていたら随分と迷惑を掛けてしまうところだった。「穴を空けたら埋める」ちゃんと覚えておこう。


 護衛の依頼は明後日の早朝からなので、それまでの間は別行動が許されている。久し振りに病院の健康的な食事から解放されたので、屋台のジャンクな物を頬張りながら帰路へと向かう。


「アーシャとラルフはこれからどうする、何かやる事はあるのか」


「僕は部屋の解約と、知り合いに別れを告げてきます。合流は当日で大丈夫ですよね」


「それでいいんじゃないかな、私もそうするよ、仁もちゃんとするんだよ」


 アーシャは何故か俺を子供扱いしたが、俺もその位は分かる。まずはミサン商会に行かなくては。この街では半年ほどいたが、結局寮には数日しか住んでいない。


 辿り着いたミサン商会の店はかなり繁盛しているようで、誰もが忙しそうにしていた。俺は彼達を横目に見ながら、アトラスがいる事務所を訪ねた。


 ノックしながら中に入って行くと、直ぐにアトラスは俺に気が付き、駆け寄ってきた。


「仁さん、ようやく退院できたのですか、ずっと心配していましたよ」


 俺の退院を喜んでくれているのか、笑顔で肩を叩いて来ようとしたのだが、その手は手前で止まり笑顔も消えた。


「心配をお掛けしました。左手はこのように失ってしまいましたがそれ以外は完全に元通りです」


 どうやら隻腕になった事は知らなかったらしく、かなり動揺している。


「噂では聞いていましたが、身体がそんな事になっているとは知りませんでした。もし冒険者を辞めるつもりでしたらここで働きませんか」


「有難うございます。俺はまだ引退するつもりはありません。ただこの街ですとちょっとやりにくそうなので、ゴルドナに行く事に決めました」


 更に明後日には出発する事を告げると、アトラスはかなり驚いたが、その場でミサン商会のゴルドナ支部の支部長宛てに手紙をしたためてくれた。さらにアトラスは旅費の工面を申し出てくれたが、B級昇格の件と魔石がかなりの金額に変わったというと、アトラスは驚きっぱなしで口を大きく開けている。


 その日の夜はアトラスの家でアルメイダ達と共に夕食を共にした。サントはゴルドナ行きを寂しく思ってくれたので、せめてものプレゼントとしてこの世界に来てから愛用していた小刀を渡した。

 

 翌日はヨアキム達を尋ねに行ったのだが、急遽王都に召集が掛かったようで会う事が出来そうにないので、対応してくれた隊員に伝言を残した。


 帰り道の途中でマルックが馬で追いかけてきて、俺を呼び止めた。


「仁さん、隊長と副長から伝言です。まず隊長は今のパーティのままなら王都には近づくな、それと元気でな、です。副長は、またすぐに会えそうな気がするよ、だそうです。仁さん本当にありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしています」


 最初の印象とは違い更にいい青年になったように思える。爵位の降格が決定してから何かが彼の中で変わったように見える。


 旅立ちの朝、誰も起きて来ない内にそっと寮を出て行こうとしたが、アトラスが門の前で待っていた。


「仁さん、言うべきか迷ったのですが、ヨハンネスさんに気に入られる事はかなりのメリットになりますが、その分、デメリットがありますのでよくお考え下さい」


「ご忠告有難うございます。俺は専属にはなるつもりはありませんので安心して下さい。アトラスさん、また会いましょう」


 アトラスと別れ集合場所に向かって行く。その途中でディルクやニナに別れの挨拶を一切していない事を思い出したので、心の中で謝った。

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