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第五十四話 隻腕の魔術師

 約半年もかかってしまったが、ようやく病院から解放してもらえた。ただ途中からはリハビリと称してコスティに連れ出され、駐屯地の地下にある訓練施設で新たな魔法を二人で訓練していた。


 最初コスティは無詠唱のオリジナル魔法が難しいらしく中々思うようにいかなかったが、ある日突然いとも簡単にコツを掴んで無詠唱が出来るようになった。


 懐かしく思いながら病院を離れ真っすぐギルドに向かう。この前のダンジョンの事は全てディルクが対応してくれていたので、せっかくなのでお礼をいいに会いに行く事にした。勿論アーシャには何度か伝言を伝えて貰っていて、アーシャにも用事が済み次第会いに行こうと思う。


 朝一で病院から出てきたせいか、ギルドにはかなり活気があって様々な冒険者が出入りをしている。入口の扉を開けて中に入って行くと、喧騒が激しくなった後に水を打ったような静寂が訪れた。


「仁、三階まで上って来い」


 静けさを破るようにディルクの声が上から聞こえてきたので階段に向かって行くが、誰も彼もが俺を見ていて視線が痛いほど突き刺さる。すると熊のような獣人の男が話し掛けてきた。


「あんたは覚えていないと思うが、俺はあの時あそこにいたんだ。あんたがあれを倒してくれなかったら俺は死んでいた。本当にありがとう」


 俺の右手を彼は両手でしっかりと握り絞めて目に涙すら浮かべていた。俺は通路の奥に生き残りがいたなんて思わずに壁を出してしまった。その事を彼に謝ると、彼はただ俺を黙って抱きしめた。


 彼と別れて三階に上がり最初に来た時と同じ部屋に入って行くと、中には嬉しそうな顔をしたディルクとニナが立っていた。


「ここじゃないとゆっくり話せないからな、けど本当に生きていて良かったよ」


「お帰りなさい、仁さんはもう完全復活ですね」


 そう言ったニナは直ぐに慌てて謝って来た。隻腕になってしまった事を失念していたようだ。


「別にニナさんが謝る事は無いですよ、これは俺のミスなので気にしないで下さい」


「そうだな、仁の言う通りだ。冒険者にとっては別に珍しい事じゃない。このギルドではたまたま少なかっただけだ」


 ニナのフォローを終えてからディルクは王都で決まった事を話し始めた。まずクリフトの街が管理するダンジョンは暫くの間立ち入り禁止になり、王都の魔導部が主導となって徹底的に調べられる事になる。その間は国から補償金が入って来るので普段より儲けが出ると言ってディルクは笑った。


 俺に関係があるのは魔石で、魔人の物とは断定できないが魔石の質が国宝級のため国が買い取る事に決まった。ギルドの手数料を引いても大金貨百枚が既に振り込まれているそうだ。


 魔人が魔石を出す事は文献を調べると大変珍しいらしく、いい研究材料になってくれればいいと思う。ただ一目でいいから自分の目で見たかった。


 更に驚いたことがB級に一気に昇格した事だ。たった数回依頼を受けただけでミネルバ達に並ぶB級になってしまった。ただこれには裏があり、ダンジョン内での事は決して口外しない事と、魔石の売買に対してこれ以上請求してこない事が条件だ。


 魔人の事は広がってしまえば良くない事が起こってしまうかも知れないし、魔石の価格についてはまだまだ国との交渉に時間がかかり、さらにギルド本部の上層部も交渉に乗り出す為にB級という極上のエサを俺に用意したのだろう。


「以上だな、若干強制になってしまうが悪いけどそれでいいか」


「全く文句を言うつもりはないですよ、かなり金持ちになったようなので使い道を考えないとですね」


 俺の言葉にディルクは反応して身を乗り出してきた。


「それなら義手を買ったらどうだ。この街にはそんな店はないけれど、この国のギルド本部がある冒険者の街ゴルドナにならあるぞ」


 冒険者の街ゴルドナとはアルゴ王国の西の端にあり、山脈と山脈の間を繋いでいるこの国で一番大きな要塞都市だ。山脈には数多くのダンジョンが存在していて、地下二階までしかないダンジョンから地下百階を越えるダンジョンまで存在する。その為にこの国のギルド本部がこの街にあるので冒険者の街と呼ばれている。


 何故、要塞都市なのかは理由がちゃんとあり、ゴルドナの西門を越えるとアルゴ王国が二つ入っても有り余るほどの広さがある中立の平原が存在する。


 中立の言葉通りにその先は魔人族の領土だ。そのせいで駐留部隊の人数も多く配置はされてはいるが、休戦となってからは魔人族との交戦は一度も無い。


「そうですね、此処にいると針のむしろなので、ゆっくり旅をしながらゴルドナに行ってもいいですね、それでどうやって行くのですか」


「ちょっと仁さん落ち着いて下さい。そんなに簡単に決めてしまっていいのですか、アーシャさんにもまだ会っていないのですよね、彼女はずっと心配していますよ」


 ニナは俺が暴走していると思って止めに来たのだが、別に俺は至って冷静だ。ただフランの影響が強く残っているので直感に従っているだけだ。


 ニナによると、アーシャは現在隣町に行っているが、今日の昼頃には戻って来るそうなので、一階の食堂で待つことに決める。


 下に降りて行くとまたしても、座っているだけの俺に注目が集まっているようだ。箝口令が出ているはずなのだが、その前に流れてしまった情報はどうしようも無いのだろう。


 先程から「魔人殺し」や「隻腕の魔術師」などの声が微かに聞こえて来る。もうこの街は俺にとっていい居場所ではないようだ。



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