第五十二話 何故、コスティは早く来れたのか
時間は遡り、ダンジョン支部のギルド職員ラディはただひたすらに走トカゲにまたがり街道を進んで行く。ギルドの受付で魔人の物と思われる魔石を見た時に、もうこの支部では対処出来る問題ではないので、この状況を伝える役目に自ら進言し志願した。
しかし本当の理由はただこのダンジョンの側から一刻も早く離れたかったからだ。冒険者達も同僚も魔石に驚いていたが、何でそこで思考を先に進ませないのか理解が出来ない。
仮にまだダンジョンに魔人がいて地上に上がってきたらと思うと、あんな所に居ていられる訳がない。まさか素直にその事を言える訳はなく、咄嗟にでた案が上手く作用してこの役目を貰うことが出来た。
この事で上の人間の目に留まり、素早い状況判断が出来る職員と思って貰えれば一石二鳥で是非とも出世に繋がって欲しい。かなり飛ばしてようやくクリフトの街に辿り着き、閉まっている城門を何度も何度も繰り返し叩く。
「おい、早く開けてくれ緊急事態だ。ダンジョンが大変な事になった」
門番は酔っ払いが騒いでいると思い迷惑そうな顔で出てきたので、ラディはそいつの鼻先に厳重に布でくるまれている魔石を見せる。門番は初めて見る異様な雰囲気の魔石をじっくりと観察し始めた。
「随分と立派な魔石だな、だがまた明日出直して来なさい。今日は街には入る事は規則でできないぞ」
その言葉にラディは切れた。ここで引き下がっては単なる職員で終わってしまう。出来るだけ早く中に入ってギルド長や在留部隊に伝える事が後々響いてくるのだ。
「ふざけろよ、単なる魔石じゃないんだ。ダンジョンに魔人が出たんだよ、早く対処しないとこの街も大変な事になるぞ」
かなりの大声を上げたので門番が口を押さえようとしたが、それを振り払いながら叫び続けた。
「どうかしましたか」
そこに現れたのは、コスティから罰として暫く門番をやる事になってしまった貴族の内の一人、マルックが現れた。
ラディはその少年のような貴族に微かな希望を感じて、魔石を見せながら見た事をまくしたてるように話した。そして魔人を倒した魔術師がかなり危険な状況だと話した所で少年に腕を掴まれた。
「先輩方、この方をまずは副長の元へ連れて行きます。後で説明しますので」
マルックはこの禍々しい魔石と魔術師とを結びつけ仁に思い当たった。何が起こっているのか正確には分からないが、急いだほうがいいと思いコスティが寝ている士官宿舎に馬を走らせる。
もう真夜中を過ぎているがコスティの部屋のドアを叩きまくり、大声を上げコスティを起こそうと試みたが、コスティよりも先に両隣の士官が目を覚まし怒鳴られてしまう。そんな中でようやく不機嫌なコスティが顔を出したのですかさず報告を始める。
「これを見て下さい。ダンジョンに魔人が現れて仁さんと思われる人物が撃退したようですが重傷だそうです」
コスティは魔石を見るなり只事では無いと直ぐに確信する。コスティは魔力が他の人間より何十倍も高いので、この魔石の異様さに一気に目が覚めてしまった。さらに仁が重傷だと聞き直ぐに行動に移した。
「マルックは小隊の隊員を全員起こして騎馬に騎乗させておけ、俺は隊長の元へこの職員と走る」
二手に別れて移動する。コスティはヨアキムの部屋に着くまでの間、嫌な予感がして、様々な思いが駆け巡る。
ダンジョンで一体何が起こっているのだろうか、魔族が何故ダンジョンにいたのか、仁君は大丈夫なのだろうか、また魔族との戦争が始まってしまうのだろうか。
ヨアキムの部屋はさほど離れていないので直ぐに部屋の扉を勢いよく叩く。
「隊長、直ぐ起きて下さい、じゃないと扉を吹き飛ばしますよ」
「止めろ馬鹿野郎、直ぐ起きるから待て」
完全に不機嫌なヨアキムが顔を出す。コスティは簡潔に状況を話すと直ぐにヨアキムは真剣な顔になった。
「ギルドの君は、今日の夜までには私達は戻って来るから、その頃に駐屯所に来るようにギルド長に伝えておいてくれるか」
役目の半分を終えることが出来たラディはギルド長の家に走って行く。一時はどうなってしまうかと思ったが意外と順調に事が進んで行くので魔人に対する恐怖が薄れていった。
一方ヨアキムはこの街に在中している他の小隊長に伝言を残し、急いで厩舎に向かっている。部隊の半分はコスティに直ぐに出発するように言ってあるが、それでも早くダンジョンに向かいたい。
仮に魔人族との戦争が再び始まってしまうようなら仁はかなりの戦力になるのだし、それにただ単に気に入っっているので死なせたくはない。
アーシャ達が見守る事しか出来ないで心配している中、実はこのようなことがあり、そのおかげで何とか仁の命は繋ぎ留められた。




