第四十九話 VS魔人族悪魔種ドルムント
硬直状態のアーシャに声を掛けながら左手で揺さぶるが、その間もドルムントから目を離すことが出来ない。
「無理だよ、その娘は私には敵わないって心が諦めているんだ。可哀そうだけどね」
「だったら逃がしてくれるのか」
微かな期待を込めて聞いては見たがどうせ無理だろう。奴も苦笑いをしている。
「ごめんね、ムーコのエサになって貰うよ、一瞬で済むから痛くないと思うよ、ムーコーーーー」
凄まじい大声を出してムーコとやらを呼んでいる。少し経ってもムーコが現れる気配すらないのでさらに大声を張り上げる。
「ムーーーーーーーーコーーーーーーーー」
やはりあのケルベロスの事なのだろう。ここには何も現れない。ドルムントと戦闘になった場合に備え、今の内に必死になって頭をフル回転させる。
「こんなに呼んでも来ないなんて、あの子を倒せる人間がこんなダンジョンに潜っているとは思えないけどな…………全く、どうなっているんだ」
するとドルムントが立っている更に奥の通路から冒険者が現れ、此方の姿を見て声を掛けながら走って来る。
「おーい大丈夫か、この階は何だか滅茶苦茶になってしまっているよ、どうだい一緒に上に行くかい」
俺はかなり焦って冒険者が此方に来ないように手で合図を送りながら叫ぶ。
「駄目だ、こっちにこないで逃げてくれ」
ドルムントは全く動かず冒険者の方を見ている。異変を感じたのか彼らは立ち止まり、その中の一人が驚愕の声を叫んだ。
「魔人だーーーーーー」
ドルムントが彼らの方へ行こうと俺に背を向けたので、その背中に向け「ショット」を放つ。近距離の為かドルムントはそのまま前に倒れ込んだ。続けざまに何発も背中に向け放つが、確実に当たったのは最初の一発のみで、あとの弾は空中に止まったままだ。
「酷いな君は、痛いじゃないか、そんなものを後ろから撃つなんで正気なのかい。死んだらどうするんだよ」
ドルムントが話している間も「ショット」を撃つが、全ての弾は空中で止まってしまう。見えない壁がそこに存在するようだ。何か仕掛けがあるようだが。それを考える暇を与えてくれず殺気が突き刺さる。
堪らなく嫌な予感がし、未だ硬直状態のアーシャを左手で突き飛ばし、右手で「バレット」を撃とうとするが、その瞬間に今までアーシャがいた場所に向かって空中で止まっていた弾が返って来た。
今そこの場所にはアーシャの身体はなく、俺の左手だけがあり、俺の左手は自分の「ショット」の弾で弾け飛んで消えて行った。俺の肩口からは血しぶきが噴水のように舞う。
「自業自得だね、もっと苦しむといいよ」
捨て台詞を残しドルムントは冒険者に向かって飛んで行く。冒険者は逃げる事を止めたのか、奥の方で炎の渦や水の斬撃が飛び交っている。
「じーーーーん」
ドルムントが去った後、アーシャが急に目を覚ましたように駆け寄って来た。
「ごめん、仁、何も出来なくてごめん」
泣きながら肩にポーションを掛けようと探すが、既に使い切ってしまったのでもうない。仁はかなりの血が流れていってしまったせいか、立つ事が出来ずに片膝をついてしまう。
「アーシャいいから逃げろ、早く」
「無理だよ、置いていけないよ、それに何処へ行けばいいの」
アーシャは泣き声になりながら俺の肩口を紐で縛る。冒険者達の方は既に終わってしまっているようで、ドルムントが死体を足蹴にしている。もう全滅してしまったようだ。
俺は残っている魔力を振り絞り、様々な大きさの岩や石を出現させて通路を隙間なく埋め、簡単には此方にこれないようにする。
「仁、早く逃げよう」
アーシャが俺を抱えようとするがそれを遮る。
「違うんだ、ちょっと離れていてくれ」
直ぐに杖の魔石から魔力を補充し、目の前にアーシャの偃月刀にそっくりなものを刃先は向こうに向けて百本程出現させる。
「おーい、まだいるのかい。面倒な事させるなよ、どうせ逃げられないからね」
壁の向こうからドルムントの声が聞こえる。方法は分からないが壁を壊しているらしく、たえず破壊音が聞こえて来る。
俺はどんなに壊されてもいいように更に壁を厚くする。同時進行で浮かんでいる偃月刀をドリルの様に回転させ、偃月刀自体を硬くそして鋭くしていく。
回転が始まると最初は低音で鈍い音がしていたが、段々と高音になり甲高い音が鳴り響く、壁の向こうでは何やら叫んでいる声がしたが、今は回転音にかき消されて全く聞こえない。
それでもただひたすらに魔力を注ぐ、魔力がかなり少なくなってきたのを見計らって壁を解除する。ドルムントは頭に手を組んで余裕をかましていたみたいだが、いきなり開放された目の前の状況に驚きの表情を浮かべた。
「おやすみ、ドルムント」
そっと呟いた後で全ての偃月刀をドルムントに向けて飛ばす。ドルムントは手を前に出して見えない壁を出したように思えるが、回転力と魔力を極限まで注いだ偃月刀の前には何の意味もなかった。
一本一本がドルムントを貫いて行き、更に貫いた偃月刀はまた戻ってきてドルムントを貫く。ドルムントは予想外の攻撃に対処を間違えてしまい、もうやられるがままになっている。ドルムントが細切れになったと同時に偃月刀は役目を終え、消えて行った。
魔力を使い果たし更には限界を超える程の血を失ったしまったので目の前が暗くなる。薄れていく意識の中で、「偃月刀」ではなく「ブーメラン」のような形にしておけば魔力を抑えられたかも知れないと気づき、若干後悔しながら意識を手放し顔から地面に倒れ込んで行った。




