第四十八話 予想外の登場
T字路はかなりえぐられたのだが、徐々にその姿をケルベロスの死体を飲み込みながら元に戻していく。
「アーシャ、おいしっかりしろ」
頭を揺する訳にはいかないので、抱きしめるような形になりながら何度も声を掛ける。何度目かの声を掛けた時にようやくアーシャが目を開けた。
「あの、五月蠅いんだけど、怪我人なんだから静かにして貰えるかな」
そう言いながらゆっくりと立ち上がろうとするが、直ぐにふらついてしまう。俺はアーシャを支えて倒れないように抱きしめた。
「平気なのか、歩けるか、それともここで少し休もうか」
「ここは落ち着きそうもないから嫌だよ、先に進みたいな」
アーシャに肩を貸してゆっくりと進み始める。T字路を右に進んで行くと光が漏れている通路が見えてきた。
アーシャはその光の原因は知らないらしく本来は行き止まりの通路のはずだったので、無視をするか調べるか悩んでいたが、ケルベロスのような殺気は感じられないので入って見る事にした。
少しだけその通路に入って行くと直ぐに曲がり角になり、本来はその先は単なる袋小路になっているはずだったのだが、様子が変わっているようでかなりの長い直線が続いていてその奥には光の元があるようだ。
「アーシャ、あれは何か知っているかい」
アーシャは首を横に振るので二人でそっと近づいてみる。光の元はかなりの大きさの円形になっていてそれを囲むように杭のようなものがいくつか立っている。
これが原因なのかと思い、試しに「バレット」を放つ。かなり頑丈であったが数発でまずは一本吹き飛んだ。すると光は収束し始め辺りは普通の明るさに戻っていった。それとほぼ同時に奥から何かが飛んでくる。
「おいおいおいおい、俺がちょっと寝ている間に何してくれてるんだよ、どうするんだ壊れているじゃないか」
顔は三十代の紳士の様だが、目が赤く耳が尖り背中には蝙蝠の様な羽が生えている。見た目以上に恐ろしいのはケルベロス以上の魔力をそいつからは感じる。アーシャはその姿を見るなり全身を震わせ大量の汗を流しながら呟いた。
「魔人族悪魔種じゃない、何でこんな所に……」
アーシャの震える呟きにその男は答えた。
「その言い方は嫌いだな、何か動物みたいじゃないか、例えばそこの男も人間族男種なんて呼ばれたら嫌だろ、そんなものさ」
さほどその魔人は怒っている様には見えないので、この状況を理解する為に震えて来る身体を押さえるようにしながら話す事にした。
「申し訳ないこの通りお詫びするよ、ただ少し質問をしていいかな」
その男は少し愉快そうに笑みを浮かべて頷いた。
「俺の名前は仁で彼女の名前はアーシャだ。貴方の名前は」
「ドルムントだよ」
「いつから此処にいるんですか」
何を聞いたらいいのか混乱しているが思いついたことを聞く事にする。隣のアーシャは魔人が心底恐ろしいのか、顔色は今まで以上に悪くなり身体は硬直しているようだ。
「最近だね、ただ色々あって疲れていたから休んでいたんだ。それなのに酷いよ君達は、意味も分からないくせに壊しちゃうんだから」
周辺の温度が急激に下がったような気がする。ドルムントは表情を無くし始めた。
「このダンジョンの異変がこれだと思ったんだ。貴方がこれを置いたのなら何の為なのか、それにこれが何なのか教えて貰えないだろうか」
「何だよ、これが何か分からないくせに壊したんだね、君は随分と滅茶苦茶な事をするな、けどね残念だけどこれについては答えられないな」
やはりドルムントにとってこの杭のような物は重要だったようだ。一体何なのか頭を巡らせるが、全く想像もつかない。
「分かった。それなら貴方はなんで人間の領土にあるダンジョンに入ったんだ」
「おーいい質問だね、まぁそうだなペットの散歩とでも言っておこうか、君達は運良く出会わなかったみたいだけど、仮に会ったら大変な事になっていたかもね」
もしかしたらケルベロスの事かも知れない。この魔族はあれを使ってどうしようとしていたのだろうか。それにまだいるだろうか。
「ペットは何匹いるんですか」
「君のせいでまだ一頭しか呼んでいないよ、まぁそれでもいいけど」
どうやら口を滑らせたようだ。あれは転送装置なんだろう。後は他に何を呼んだかだ。
「ゴブリンやデュラハンも君が呼んだんですか」
「何それ、そんな雑魚なんか知らないよ、それはこのダンジョンがおかしくなったんじゃないかな」
「そうかも知れないですね、そうだ貴方はどうやって此処に入ったんですか、魔族とは休戦状態なんじゃないですか」
その質問は失敗してしまったようだ。ドルムントは顎に手を当てて顔を傾ける。何か良からぬ事を考えている様だ。
「そうだよね、この国に俺がいるのがバレたら不味いよな、残念だけど君達には消えて貰うよ」
一気にドルムントの雰囲気が変わりケルベロス以上の殺気が溢れ出て来る。魔力も隠す気などないのかどんどん膨れ上がり、それに伴って身体も黒褐色に変化していく。
もう戦闘は避けようがないのか。




