第四十六話 迫りくるデュラハン
皮の鎧をしっかり着込んだ男が息を荒げながら走って来た。中々息が整わないのでアーシャは水を渡して落ち着かせる。大きく深呼吸した後でようやくその男は話し出した。
「どうやらここはかなり不味いことになっている。地下四階に俺達はいたのだが、行き止まりのはずの道から今までいなかったデュラハンやゴブリンが一緒に現れやがった。数が多いから逃げてきたが俺達に向かって来る奴らと別の方向に向かって行った奴らもいる」
釣り竿を持った男が尋ねた。
「君の仲間はどうした」
男は声を震わせながら答えた。
「全員殺された」
何となく分かっていた事ではあるが、この場にいた誰もが息を飲んだ。皮の鎧の男は言い終わった後で直ぐに出口へと向かい走っていく。釣り竿のパーティはどうしたらいいのか話し合っている。すると遠くから微かな声が聞こえてきた。
「くそっ……この……」
その言葉を聞いたとたんに俺は走り出していた。その横を獣化したアーシャがいとも簡単に抜き去っていく。向こうの方には二人の冒険者が逃げながら弓を放っていた。その二人をアーシャは飛び越え偃月刀を振り回した。金属を切り裂く音が聞こえそこにいたデュラハンは崩れ去っていった。
「ギャァー、助け……」
俺が後ろを振り返ると今度は釣りのパーティが、かなりの数のリーフクロコダイルに囲まれ襲われている。直ぐに「ショット」を放ったが、数の暴力には敵わず意味をなさない。さらに川の水位が上昇してきてリーフクロコダイルや冒険者を巻き込みながらこっちに迫って来る。
「仁、早く走って、下に降りるよ」
ただひたすら走る事だけを考えて足を動かす。すると目の前に下に向かう階段が見えてきたのだが、残念ながら水の流れに巻き込まれバランスを崩して倒れてしまった。その時俺の身体の下から手が伸びてきて階段に引きずり降ろされた。
目の前の景色はありえないほど不思議で、頭上には水が勢いよく流れているが一切、階段には入って来ない。見えないバリヤーが張ってあるようだ。
「仁、大丈夫、怪我してない」
「ありがとう助かったよ、こんな事よく起こるのか」
かなりの速さで走ったせいか心臓が今にも飛び出しそうだ。
「ある訳ないでしょ、こんな事は見た事も聞いたこともないよ」
「そうだ、あの二人組はどこにいるんだ」
どうやら彼らは階段を駆け下りてそのまま何処かへ消えてしまったそうだ。アーシャが助けたというのに薄情な奴らだ。
頭の上では激しく水が流れていて治まる気配が全くしない。何故階段には水が流れ込んでこないのか不思議で、まだ見ていたいがその考えをアーシャが振り払う。
「この先どうしようか、普段だったら魔物は階を越えてこないからここは安全地帯だけど、あのデュラハンは明らかに下から来たから、もういつもの知っているダンジョンじゃないよ」
アーシャはかなり困惑しているようだ。俺より経験が長いとはいえまだ若い女性だ。ここは俺がしっかりするしかない。
「下に降りてみよう。下にはまだパーティがいるはずだから合流した方がいいと思う」
意を決して下に降りていく、下の階からは異様な気配が漂ってきているので慎重にゆっくりと降りていく。地下三階に着くとアーシャが驚きの声を上げた。
「何なの、森が無くなっているじゃない。どうなっているの」
そこは枯れ木だらけのだだっ広い空間があって、デュラハンが至る所に彷徨っている。
「バレット」
前方に向けて弾をばら撒く様に撃ちまくる。何とかデュラハンの鎧には通用して胸に当たったデュラハンは倒れると動かなくなる。
「全然、魔石に変わらないじゃない、何なの」
十体程倒したのだが全て動かなくなっただけで、全然ダンジョンに吸収される気配すらない。初めてみる光景なのでアーシャは驚愕の表情を浮かべている。
「アーシャ今は気にするな、とりあえず下に降りる事に集中しろ、さぁどっちに進めばいいんだ」
アーシャが指を刺した方向に向かい、五つの「サンドストーム」を進ませ、俺達はそれの後を追うようにして付いて行く。
「仁、そんな数を出して魔力は持つの、無理なら早めに言って、私が先陣をきるから」
「気にしなくていいから道案内を頼む、俺の魔力は今のところ二割も減っていないよ、それよりファイヤーボールの方を温存しておいてくれ」
「サンドストーム」がデュラハンを弾き飛ばしながら進んでいるが、それでも横からデュラハンが迫って来る。右に左にと「バレット」を撃ちまくり見える範囲で動く者が全て消えた頃、ようやく下へ降りる階段が見えてきたので俺達は駆け下りた。




