第四十五話 ダンジョン内にて
ゾンビの魔石は先程よりも小さかったが、しっかりと四つ転がっていた。地下一階にあたる部分は平たんな道になっていて別れ道もさほどないので、アーシャは迷うそぶりを見せずに進んで行く。
「そろそろ火ネズミが出て来るから注意して」
火ネズミは一匹一匹の大きさは小さくて大したことは無いが、集団で攻撃してくるため一度攻撃の手を止めてしまうと、身体中にまとわりついてきて噛みつきながら火を吐いて来る面倒な奴だ。
「サンドストーム」
通路一杯に広がるようにつむじ風を出す。その中にはカッターナイフのように薄く尖った石を沢山混ぜてある。それをゆっくり進行させ火ネズミを全て切り刻んでいく。「サンドストーム」からはこれまた小さな魔石がポップコーンのように弾けて出て来る。
魔石の色は赤かったので見えやすかったが、あまりの量が飛んでくるので回収にかなりの時間を費やしてしまった。
「ちょっと、さっきから魔法を使い過ぎじゃないの、まだ始まったばかりなんだから無理しなくていいんだよ」
「分かったよ、じゃあアーシャは今までどうやって倒していたんだ」
「ちょっと離れて見ていてよ」
アーシャが偃月刀を振り上げると、刃の周りに炎が纏った。一振りする度に炎が飛んで行く」
「こんな感じかな、あまり使いたくはないけど火ネズミは小さいから焼き殺すのが一番だよ、あいつらは自分で火を放つくせにこの魔道具の火力には敵わないんだよね」
綺麗な戦い方だと思った。アーシャは偃月刀にはファイヤーボールの付与をブーツにはエアークッションを付与しているそうだ。
「だからアーシャはこの前、空を蹴る事が出来たんだ」
「今頃気が付いたの、別に珍しい魔道具じゃないよ、まぁ使いこなせるにはかなりの訓練がいるけどね」
ファイヤーボールの魔道具はこの前に新調したらしく、まだまだ撃てるので次に火ネズミが現れたら使うと言ってくれたが、勿体ないので止めてもらうつもりだ。魔道具には金がかかるが俺の魔力は無料だからな。
地下一階はあまり広くなくあっかなく地下二階に降りていく、地下二階はまた風景が一変し洞窟の中にギリギリ飛び越えられる程の川が流れていて、岸の部分はかなり広くただひたすら真っすぐの道が続く。
「ここはあまり川には近づかないでね、泥蛙が沢山いるから舌で足を掴まれたら引き込まれちゃうよ。それに川の中で倒しても魔石は中に落ちちゃうから拾えないんだ」
「面倒なエリアなんだな、だったらもっと離れた草むらを歩けばいいんじゃないか」
「リーフクロコダイルが隠れているからね、見つけにくいし素早いから川と草むらの間が一番安全だよ」
リーフクロコダイルの背中は草むらの様に擬態していて、身体の半分を地面に埋めている五m程の水棲の魔獣になる。身体は装甲の様に硬く普通の剣では傷をつける事すら出来ない。
暫く進んでいると呑気に釣りをしているパーティを発見した。ダンジョンの雰囲気とはかけ離れているのでアーシャに尋ねる。
「なぁ何でこんな所で釣りをしているんだ」
「鎧魚とかリバーコブラを狙っているんだよ、こいつらは釣り上げてしまえば楽に倒せるからね、まぁあまり集中しすぎると後ろからリーフクロコダイルにやられちゃうけど」
アーシャの言葉通りに冒険者の背後の草むらが揺れながら迫っている。注意を促したいが声が届きそうにない。
「バレット」
三発全て命中しているはずだが全く動きが止まらない。弾が鎧のような皮膚に弾かれてしまっている。
「ショット」
鈍い音とともに嫌なうめき声を上げながら動きが止まった。その音でようやく冒険者が異変に気が付き後ろを振り向くと、丁度リーフクロコダイルが魔石に変わるところだった。事態を知った冒険者が遠く離れた俺達に大声出して話してきた。
「君達がやってくれたのか助かったよ、あまりの入れ食いで夢中になりすぎてしまったようだ。お礼として少し持って行ってくれ」
そう言いながら走って近づいてきた。何をくれるのかと思ったら小さな小瓶のポーションを寄越してくれた。
「なぁ君達は何処まで潜るつもりなんだ」
リーダーらしき男が釣り竿を持ったまま聞いてきたので、アーシャがそれに答える。
「一応地下四階で泊まってから帰る予定にしているけど」
それを聞いた男は苦い表情を浮かべながら言葉を繋ぐ。
「行方不明のパーティがいるだろ、どうやらそいつらは地下四階で消えたらしいんだ。どうせなら素通りして地下五階に行くか地下三階に留まるかにした方がいいと思うぞ」
「地下五階より下にいるパーティはどうなっているの」
「半日ほど前に救出にどこかのパーティが向かって行ったな、よくわからんけど」
このダンジョンは地下六階で構成されていて、アーシャはてっきり最深部で事件が起こっていたと思っていたが、中間の地下四階と聞いて不思議がっている。すると遠くの方から俺達にむけ大声で呼んでいる。
「デュラハンが群れを作ってやって来るぞ。逃げるか戦えるなら倒してくれ」




