第四十三話 ダンジョンに入る前日
休憩所を後にしてダンジョンへ向かって行く。先程からダンジョンの事が気にかかり走トカゲの上では無言のままだ。
「さっきから黙っているけど、どうしたの、もしかして焼きもち焼いているとか」
アーシャが満面の笑みを浮かべながら振り向いてきた。
「あのなぁそうじゃなくて、行方不明がいるらしいじゃないか、流石に気になるだろう」
「別に、それ程珍しい事じゃないからね、ちゃんと私のいう事を聞いてくれれば怖がらなくて大丈夫だよ、我儘言ってどんどん進んで行ったら安全の保障は出来ないけどね」
アーシャは少し勘違いをしている。別に俺は怖い訳ではなくて、行方不明の原因がダンジョンでたまに生まれるという大物の仕業であるのならば見てみたい。
地上ならばそんな大それた事は考えないが、ダンジョンである限り土属性の俺ならばかなり有利じゃないかと思う。何があっても逃げ切れる自信がある。
太陽が傾き始めた頃にダンジョンに到着する事が出来た。ダンジョンの周りには宿屋こそないが、道具屋や食べ物の屋台などで賑わっている。ギルドの建物だけは立派でちゃんと石造りになっていた。俺達は屋台を見に行く事にする。
「アーシャは何が買いたいんだ」
一応、昨日の夜に灯りの魔道具や食料などは買ってあるので大丈夫だとは思うのだが、アーシャは何かを探している。
「ポーションかハイポーションだよ、魔力切れしたらハイポーションじゃないと回復しないでしょ、まさか持ってないとは思わなかったよ」
俺は杖の先に付いている魔石を見せて説明をした。アーシャはまじまじとその魔石を眺め溜息をついた。
「何よ早くいってよ、しかしまた随分と高級な魔道具を付けているね、だから仁は魔法をバンバン使うんだ」
勿論そうでは無いのだが、そう思って貰う事にした。杖に付いている魔石は今では元の色に戻っていて透明感のある青色になっている。
「ポーションの液体じゃないけど丸薬なら持っているよ、傷が塞がる程度の効力しかないけど」
「じゃあ一本あるしそれでいいか、朝一から潜れるようにギルドに行って受付をしようか」
アーシャは偃月刀を肩にかけて歩いて行く。
「アーシャはもしかしてそれでダンジョンに入るのか」
俺はアーシャが肩に担いでいる偃月刀を指さしながら言った。その偃月刀は二m以上はある。とても地下向けの武器とは思えない。
「当たり前だよ、場所によっては振り回せないけど、このダンジョンには何十回と潜っているから気にしないで」
アーシャの言葉を信じてギルドの門をくぐる。中はかなり広いのだがそこには冒険者達で溢れていた。
「何でこんなにいるんだ」
俺の思わず出てしまった独り言に中年の冒険者が答えてくれた。
「二時間ほど前に⦅バウマウの指⦆というパーティの連中の血だらけの荷物を持ち帰った奴らがいるんだよ、そいつらが他のパーティの連中に知らせながら上がって来たから半分程のパーティが潜る事を中止して上がって来たからこの有様さ」
「バウマウの指」はC級に上がったばかりの他の支部所属のパーティで、このダンジョンには初挑戦になるそうだが深部の方まで潜った可能性があるらしい。
ここにいる連中はどうしていいのか分からずに、ただ最新の情報が集まってくる事を信じてここにいるのだろう。
「アーシャはこの状況をどう見る」
俺の質問に対し、周りには絶対に聞こえないように耳打ちしてきた。
「初心者がただミスしただけかな、まだダンジョンにいる連中はそう思っているだろうし、逆にここにいる連中は騒ぎすぎ」
「そうか、それなら受付を済まそうか」
受付の前にはボードが置いてあって、それには「最新情報が入り次第知らせるので、それまでは職員に尋ねるのは控えて下さい」と書いてあるそうだ。誰かがダンジョンから情報を持ち帰って来ない限り、ギルド側も分からないのは一緒だ。俺達は人込みをかき分け新規質そうな若い男の受付に行った。
「ボードに書いてある通り、ここでは分かりません」
見るや否や拒絶するように言い放った。何度も聞かれて辟易しているのだろう。アーシャは呆れたように首を横に振りながら言う。
「そうじゃなくて明日から二日間はいるからね、これがギルドからの証明書だよ」
その男は驚いた顔をしながら言ってきた。
「あの分かっていますか、それでもいいんですか」
「何なの、あなたは新人なのかな、別に立ち入り禁止になっていないでしょ、いいから早くしなよ」
タイプ的に合わないのかアーシャは横柄な態度を見せている。受付の男は何やらブツブツ言いながら記入を始めた。かなり時間が掛かったがようやく入場証を渡してくる。
何とか受付は終了したので、いよいよ明日の朝にダンジョンに潜る。




