第四十二話 ダンジョンへ向けて
今朝も相変わらず人気の無いディルクの所で受付をする。
「おぅ、今日は何の仕事をするんだ」
「ギルドが管理しているダンジョンに行きたいのですが」
ディルクが馬鹿にしたように両手の掌を上に向け首を横に振る。
「まだ無理だな、うちのダンジョンはC級以上じゃないと入れない決まりになっているんだ」
「私が付いているから、その決まりは適用されないよね」
走トカゲの受付を済ませたアーシャが後ろから声を掛けて来た。
「何だ、本当にお前らパーティを組むのか、だったらちゃんと届けを出したら受け付けてやるよ、ほらここに書け」
ディルクは何故か俺に用紙を渡してきたが、字が読めないのに書ける訳が無い。迷っていると横からアーシャが手を伸ばしてきて記入し始めた。
「解散も簡単に出来るからとっとと書くよ、パーティ名も決めちゃうからね」
記入が済むと、アーシャは俺に見せる訳でもなくさっさとディルクに渡してしまった。ディルクも直ぐに処理を始め、ギルドからの確認表をアーシャに手渡した。何となくだがいつか必ず字を覚えてやろうと心に誓った。
「いいか、この街が管理しているダンジョンはさほど大きくはないが、それでも魔物は地上よりも確実に強いからあまり舐めてかかるなよ。毎年何十人も帰ってこないんだ。お前もその一人にならないようにな、アーシャは仁よりかなり年下だけど冒険者歴は長いのだからちゃんとリードするんだぞ」
「えっアーシャっていくつなんだ」
「女性に年齢を聞いちゃ駄目でしょ」
そう言うとさっさと下に降りていく、ディルクがそっと指で教えてくれる。左手が二本、右手が一本立っている。本当に若かったが、それよりも二十そこそこでC級という事実に驚いた。
「遅いよ、早く来なよ」
アーシャが階段の手前で大声をあげて呼んでいる。俺がアーシャの方へ向かって行くと「お荷物のくせに独り占めかよ」や「くそっ何であんな奴といるんだ」などと陰口が聞こえてくる。
本来ならばそいつらに文句の一つでも言って立ち向かうのもいいのかも知れないが、実際に手を出された訳ではないし、若干だが怖いので無視する事に決めアーシャに近づいて行く。
「ねぇ、言われっぱなしでいいの、言い返さないと舐められるよ」
やはり耳のいいアーシャにはその陰口は聞こえていたようだ。何も行動を起こさない俺に不満らしく、指で階段の縁をトントンと叩いている。
「あれぐらいなら、多少はムカつくけどほっとくよ、いちいち喧嘩を買ってもしょうがない。それよりアーシャは人気があるんだな」
俺の言葉には答えず黙って階段を降りて行った。ギルドの下には一匹だけ走トカゲが繋いであり、アーシャは飛び乗った。
「ほらっ後ろに乗って、なるべく早くダンジョンに行って準備したいから飛ばすよ」
昨日と同じようにアーシャの腰に掴まるが、スピードが昨日よりも速くやはりしがみ付く様になってしまう。
「なぁ、速すぎないか」
「ムカついているからしょうがないでしょ、さっき仁に言ってきた奴らはいつもやらしい目で見て来るから嫌いなんだよね、それなのにパーティを組もうってしつこいし」
まずはその挑発的な恰好を直した方がいいと思うのだが、その言葉は飲み込んだ。
「そういえば今までパーティは組んでいなかったのか」
「そんな訳ないでしょ、ずっと同じパーティじゃないけど良く組むよ。ただこの前の時は夜に襲われそうになったから返り討ちにして、兵士に突き出したけど」
それからは無言で街道を進んで行く、気まずくなった訳ではなく、アーシャがさらにスピードを上げたので話していると舌を噛んでしまいそうになるからだ。
街道の途中の分かれ道には大きな休憩所が建っていた。ソトバ村にはこのまま直線でダンジョンには北西に進む道を行く。ここは元の世界ではサービスエリアのようなものかも知れない。
ここでは数組がある程度の距離を開け食事休憩をしている。俺達も端の方に腰を下ろして食事をしていると、剣士らしき男が一人近づいてきた。
「ようアーシャじゃないか、この前のパーティはろくな奴じゃなかったようだな、だから言ったじゃないか、よその所属の奴を直ぐ信用するなって」
「そうだねファイサル、あんた達が王都に護衛に行かなければ抜けなかったのにな」
ファイサルと言った男は前にアーシャと組んでいたらしく、かなり仲が良さそうだった。何故だか元カレと話しているのを横で聞いているような錯覚にとらわれる。
「それよりも二人だけなのか、それに彼は魔術師なのか、おいおい大丈夫かよ、何なら二人とも面倒をみてやるぞ」
「いいって、また機会があったら入れてね、今回はちょっとダンジョンを案内するだけだからさ」
ファイサルは腕を組んで真顔になり、アーシャに話す。
「いいか、絶対にあまり深く潜るなよ、今は戻って来ないパーティが出てしまっていて少しだけ騒ぎになっている。俺達は煩わしいから街に戻る事にしたんだ」
「ありがとう。こっちは二人しかいないから無理はしないよ」
「そうかならいいんだ。今度街であったら飲もうな、勿論そっちの君も一緒にな」
そう言うとファイサルは仲間の元に戻って行った。




