第三十八話 VSアーシャ
ディルクと共に訓練所に入るとアーシャが既に準備運動をしている最中だった。
「遅いよ、待ちくたびれちゃったよ、早くやろうよ」
「おいっ無茶な事はするなよ」
ディルクが注意したのだが、アーシャはそれに舌を出して答えた。俺は余り怪我をさせないように何を使うか考えていると、アーシャは俺の考えを見透かしたように言ってきた。
「さっきの奴を撃ってきてよ、さぁディルクさん合図して」
アーシャが何を考えているのか分からないが、望み通りに撃ってみる事に決め、訓練場の端と端に別れて合図を待つ。
「よし、始め」
合図と同時に「バレット」をばら撒くように撃ちまくる。アーシャはもの凄い速さで弾を全てかわしながら近づいて来る。アーシャの目の前に「ウォール」で壁を出すが、簡単にぶち抜いて俺の顔ぎりぎりに拳を寸止めした。僅か数秒の完敗だった。
「一本目は私の勝ちだね、どうする、まだやる」
「勿論、頼むよ」
あんな風に簡単にかわされるとは思いもしなかったが、俺を痛め付けるのが目的じゃないらしいので少しだけ楽しくなってきた。アーシャが先程の位置に戻ってディルクに合図を促す。
「はいはい、始め」
今度は「ショット」を放つ、先程と同様にアーシャは避けながら向かって来ようとするが、弾は軌道を変えてアーシャのこめかみに命中する。威力は勿論おとしてあるがそれでも痛そうだ。
「ごめん、大丈夫か」
アーシャは首を振りながら立ち上がった。
「痛いけど大丈夫だよ、まさか追ってくるとは思ってもみなかったよ、次は本気を出すからね」
するとアーシャの顔が若干猫のようになり、身体中の毛が伸びてきた。毛並みはまだら模様のなので豹のように見える。身体の大きさも一回り程大きくなってきた。獣人族の獣型への変化を目の当たりにして感動すら覚える。
「おっいいぞ、それっ始め」
今度も直ぐに「ショット」を出すが軌道の変化も間に合わずかわされてしまう。「ニードル」の先が丸いのを前面に出し、アーシャの進行を止めようとするがスピードは落ちたものの、それでも「ニードル」を壊しながら中々の速さで迫って来る。「ランス」でアーシャを前後左右から刺すように出すが。ギリギリのところでジャンプしてかわされてしまう。
アーシャが着地するところに「ホール」で穴を開けるが、アーシャは空を蹴り後方へ着地する。アーシャの姿を確認する為に、「ニードル」と「ランス」を解除して代わりに「サンドストーム」を三つ出現させる。
小型の砂嵐とはいえかなりの威力をもっている。部屋の横幅一杯に広げたところでディルクが怒鳴り声をあげた。
「止めろ馬鹿野郎、手前ここを何処だと思っていやがる。外じゃねーぞ」
折角面白くなっていたのだが全て解除した。アーシャは天井の角に張り付いていたようで、人型に戻りながら降りてきて近づいて来る。
ディルクは床に伏せていたのか立ち上がり、埃を払いながら怒りの形相で近づいて来た。訓練場は床や壁が至る所ボロボロになってしまっているが、しょうがないと思う。
「仁、思った以上にやるね、凄いよ」
アーシャは喜んでいてくれるが、ただでさえ面積の少ない服なのに所々破れてしまっているので目のやり場に困ってしまう。下を向いていると後頭部にかなりの衝撃が走った。
「手前、よくも訓練所をボロボロにしてくれたな」
ディルクに思いっきり殴られてしまった。頭を摩りながら見渡すとたしかにボロボロになっている。
「これは俺には元には直せないですね、意外ともろい施設なんですね」
「手前、全部お前のせいだろうが」
盛大にわざとらしく溜息をついた後に、冷静になってくれたのかディルクが真顔になってさらに俺に言ってきた。
「どう見ても普通そうだが、こんなに魔法を使ってよく立っていられるな、それにほぼ無詠唱だろ、お前は何者だ」
「ニナさんからは言いましたが、俺には記憶が無いんですよ、少しは弁償しますので勘弁して下さい」
「何かずるいな、お前」
そう言いながら俺の財布代わりにしている布袋を取り上げ、その中から金貨を五枚も抜き取られた。便乗するかのようにアーシャも俺の財布から金貨を五枚抜き取った。
「いやいやいやいや、訓練場はともかくアーシャの服代だとしたらずるくないか、自分から仕掛けてきたんだろう」
「あのさ、女性にこの格好で過ごせって言うのかな、君は」
家かどこかに帰れば替えの服位あるだろうと思ったが、何を言っても駄目そうだ。アーシャの提案として少しの間パーティを組む事になった。そのおかげでC級の依頼が受けられるようになり、D級より稼げるそうだ。
それでも何だか騙されているような気がするが、もう精神的に疲れてしまったので流れに身を任せようと思う。
返してもらった財布の中には昨日までかなりあったはずの金貨はもう一枚しかない。




