第三十七話 ギルドカード
テーブルを挟んで俺の目の前には隻眼の男が座り、その隣にニナも座った。ニナが書類を並べている間は沈黙が続いたがようやく男が口を開く。
「私はこのギルドの長を勤めるディルクだ。先程のテストは済まなかった。しかしだな君にも多少原因はあるんだ。君がのしてしまった男の仲間がどうやら嫌がらせとして装置をいじくったようだ。勿論捕まえてあるので兵士が引き取りに来るし、あいつらの資格は剥奪した。それに暫くは出て来れないから安心していい」
ディルクがニナに目配せをするとニナが一枚の紙を俺に渡してきた。
「此方が床の修理費になります。揉めた二人には責任がありますので、あなたは半額をお支払いください」
「すみません、字が読めないのですが」
この世界では学校が無いためなのか字が読めないのは珍しくないらしく、ニナが代わりに読み上げ、金貨三枚を支払えとの事だった。
まだ修理業者が来ていないというので急いでニナを連れて下に行き、床を元に近い状態に戻してから部屋に戻る。ニナがディルクに耳打ちすると、いきなりディルクはその紙を破いてしまった。
「床の事はこれで終わりだ。ところで仁は本当にタイプは魔術師でいいのだな、いいのなら登録料を払ってカードの上に血を垂らせ」
そう言うと小ぶりなナイフを渡してきた。俺は大銀貨五枚を払ってから指先をほんの少しだけ傷をつけて、カードに擦り付けた。するとカードは一瞬だけ淡い光を放った後で元の何の変哲もないカードに戻った。
ただ意外とこのカードは優れものらしく、表面には名前とタイプと所属が書かれているだけらしいが、ギルドの受付や街の入口にある魔道具にかざすと任意で犯罪歴やギルド銀行の預金額などもわかるそうだ。
今分かった事だが、ギルドには冒険者専用の銀行がある。ギルドは国に管理されない独立した世界規模の組織らしいのでこれだけの為に、冒険者登録をする者もいるらしい。
カードを眺めていた俺からディルクは取り上げ、側に置いてあるの魔道具にかざす。
「悪いな記憶がないと聞いていたから犯罪歴を確認させてもらう。…………大丈夫だな」
いきなり調べられてあまり気分のいい物では無かったが、終わったようなので帰ろうとしたがニナに引き留められた。
「待ってください。明日から仕事を受けてもいいのですが、新人研修は受けますか」
新人研修とはギルドが一日だけ、無料で上位の冒険者に指導してもらう事が出来るシステムだそうだ。もっと期間の延長は出来るそうなのだが、勿論有料になる。どうせなら一日だけお願いしようと伝えるとドアが勢いよく開いた。
「はい、私がやるよ」
「アーシャ、手前まだいやがったか、大銀貨二枚の仕事だぞ、手前はそれで我慢できんのか」
「だって魔術師の冒険者なんてコスティ以来でしょ、面白そうじゃない。じゃあ仁は終わったら訓練所に来るんだよ、ちゃんとした実力を知りたいからね」
言うだけ言うとドアを閉めて立ち去ってしまった。ニナが気の毒そうな表情を浮かべながら言ってくる。
「教官は無用の時は選べないのでご了承下さい。もうアーシャに従って行動をお願いします」
「分かりました。それよりコスティって第三小隊の副長の事ですか」
その名前を出したらディルクが身を乗り出してきた。
「そうだが、知っているのか、あいつも昔は冒険者だったんだ」
ディルクの話によるとコスティは十五のときから十八までの間に魔術師としてこの街で冒険者になったが、あれ程の男でも評価されるまでには苦労したそうで、嫌気がさしたのかいつの日から軍に入隊してしまったそうだ。
「なぁ分かるだろ、あのコスティでも冒険者を諦めた。ちなみにだがこの国だけなんだ、魔術師の立場が低いのは、他の国なら魔術師としてやっている奴はいくらでもいる」
ディルクによると、何故だか分からないがずっとこの国にはろくな魔術師はいなかった。魔術師をパーティに入れたせいで何人もの犠牲者が出てしまっている。そのせいか価格は高くとも魔法を付与できる魔道具がこの国では流行しているそうだ。
ヨアキムがしきりと軍に入れたがっていたのは、心配してくれたからだと思う。ただ別に俺はこの国が全てとは考えていないので、嫌な思いまでしてまでここに留まるつもりはない。
「魔術師の立場が低いのがこの国だけだと聞いて、少しは安心しましたよ。それより嫌ですけど訓練所に呼び出しをされているので行ってきますね」
立ち上がって部屋を一人で出て行こうとしたが、アーシャが何をするか心配だと言って、ディルクも一緒に行く事になった。




