第三十六話 ギルドの実地テスト
決して俺が悪い訳ではないはずだが、気まずくなったのでそそくさと部屋を出て地下に向かう。一階に着いた時に何げなくあの冒険者を落とした場所を見てみると、救出の最中らしく人だかりが出来ている。
人込みのすき間から猿轡をしている姿が見えたので、余程五月蠅かったのだろう。人の事をとやかく言う前に自分の根性を鍛え直せばいいのに。
地下に降りると、イメージしていた地下とは違いかなり天井が高く明るさもかなりある。ただ訓練施設があるせいか若干空気が淀んでいるような気がする。
別に控室には用はないので訓練室で座って待っている。訓練室の中はテニスコートぐらいのゲージがあり、何やら異質のような感じに見える。暫く見ていると先程の獣人の女性が現れた。
「やっぱり君か、自分はただの魔術師じゃないって言いたいんだね、止めた方がいいと思うよ、怪我ですめばいいけど」
俺の魔法を見ていたはずなのにそれでも止めるとは、もしかして失敗だったかと少しだけ不安になってきた。
「もしかして魔法は禁止なのかな」
「勿論大丈夫だよ、そうじゃなくてこのテストは実は二体の魔獣と戦うことになるんだよ、奴らのスピードと大きさだと確実に接近戦になるよ」
俺がテストの内容を知らないと思っての事だったのか、彼女は意外と優しい子なのかもしれない。確かにあの冒険者を落とした穴の大きさや深さだったら、そりゃ注意したくなるのか。
「あれが全てじゃないから気にしないでくれ」
言い終わるとほぼ同時に職員と思われる者達が続々と入って来た。
「じゃあ準備はいいか、即死さえしなければ助けてやるから安心しろ、まぁ治療代は高いけどな、心をきめたらゲージの中に入れ、テストを始める」
受付にいた男がしゃがれた声で言ってきた。俺はゲージの扉を開け中に入りストレッチを始める。他の職員はゲージの周りに配置し、その中には先程の獣人の女性もいて独特の緊張感が漂っている。
「そのまま聞け、テストの内容はニナが魔獣の種類まで漏らしてしまったようだから変更する。今から出て来るのはビックボアと六本熊だ。二体とも倒したらD級になるが駄目でも戦い方によってはE級になる可能性もある。余程の事が無い限り手助けはしないが万が一の為に、C級のアーシャにも職員と一緒に立ち会ってもらうから、多分死ぬことは無いだろう、よしっ始め」
かなり魔獣との距離が近いと思われるので本音を言えば逃げ出したい。普段なら何ともないが流石にこのゲージは狭すぎだろうと思う。脚がかなり震えてくるがどうしようもなく深呼吸をゆっくりとする」
「そんなに震えて大丈夫なの、無理だって言ったら直ぐに助けに入るからしっかりして」
震えているのがバレてしまったので、今は怖さよりも恥ずかしさが勝っている。このままでは辛いのでとっとと始まって欲しい。
てっきり連れて来るものだと思っていたが想像と違い、まず目の前の地面がぽっかりと空洞があいて、六本熊とビックボアが勢いよく競り上がってきた。二体と言っていたようだったのだが何故か四体出てきた。
「おい、なんで四体いるんだ、駄目だ中止にしろ、早く助けてやれ」
隻眼の男が何かを叫んでいる気がしたが、気にしている場合では無いので杖をしっかり握って構える。
「バレット」
向かってくるよりも前に四体の魔獣の頭を一斉に吹っ飛ばした。久し振りにもの凄く緊張したが、意外とあっけないものだった。
「よっしゃー、これでD級だね」
両手を高々と上げ周りを見渡す。てっきり拍手でもしてくれるのかと思っていたが、誰も微動だにしない。
「えっまさか違うのですか」
隻眼の男に向かって尋ねた。
「いや、お前は今何をしたんだ」
かなり驚いているのか目を丸くしている。
「魔術師なんで、そりゃぁ魔法ですよ」
隻眼の男は盛大に溜息をついてから、先程の部屋で待っているようにと言ってくる。いよいよギルドカードが貰えるようだ。
階段を上っている最中に獣人の女性が走ってきて俺を呼び止めた。
「ねぇねぇ君凄いね、私はアーシャよろしくね、ギルドカード貰ったらさ、もっと魔法を見せてよ」
何をこの子は言っているんだろうか、何者かも知らない奴に見せる訳無いだろうに、意味が分からず気持ち悪いので無視して進む。
「ねぇちょっと無視しないでくれるかな、私は先輩なんだけどな」
「見せません。別に理由がないので」
相手にしたくないので階段を登ろうとすると、ローブの端を掴んで離してくれない。ただひたすら「見せて」しか言わない。すると隻眼の男とニナが現れた。
「五月蠅い、いい加減にしないか、とっとと帰りやがれ」
隻眼の男の剣幕は凄く、アーシャはぶつくさ言いながら退散して行く。
「騒がしい奴だな、仁はさっさと部屋に入れ」
アーシャを一瞥したあと、三人で個室に入っていった。




