第三十四話 冒険者ギルド
寮に住んでいる従業員は朝が早いらしく、夜明けと共に動き出しているようで慌ただしい様子が伺える。俺はかなり疲れが溜まっていたせいか中々ベッドから起きられずボーっとしていると、部屋のドアが勢いよく開けられた。
「仁様起きていますか、朝食は召し上がられますよね、ギルドに行くなら早く起きて食べて下さい」
ロイネが大声で呼びながら入って来る。外はいつの間にかすっかり明るくなっているのでかなりの時間まどろんでいたようだ。急いでベッドから飛び降りてロイネと一緒に食堂へ向かった。
「ところで、様をつけるのは止めるようにしてもらえないかな、何か痒くなってしまうんだ」
「分かりました。仁さんでいいですか、他の人にも後で伝えておきますので座って待っていて下さい」
ロイネは爽やかな笑顔を見せて厨房へ向かうと、直ぐに料理を携えて帰って来た。朝の食事とは思えない程の豪勢で、ステーキにパンとスープにジュースが添えてある。
ギルドの場所は聞いていたのだが、生活用品がまるでないので売っている場所をロイネに尋ねると、こだわりが無ければ一通り買って来てくれると言うので、ロイネに甘える事にして金貨を一枚手渡した。
「仁さん、流石にこんなにかからないですよ、服とちょっとした生活用品ですよね、大銀貨二枚もあればそれでも十分なんだけどな」
金貨しかないというと裏に入って行き、大銀貨十枚に両替してきてくれ、その中から二枚だけ取っておつりは返しますと言ってきた。
食事と身支度を出来るだけ早く済ませてからいよいよギルドへ向かうとする。ギルドという響きに胸が躍る思いがしてくる。
ギルドの場所は東門の側にあるらしく、中世のヨーロッパのような街並みを歩きながら進んで行くとその内にひと際大きな建物が見えてきた。屋根の上には剣と盾と杖と槍が重なったマークが見える。興奮が高まりギルドに向かって思わず走り出した。
ギルドの建物はかなり重厚感のある造りになっていて、レンガのような石で造られている。入口の前に案内板立ってあるので見てみると、そこで初めて驚愕の事実に気が付いた。
全く何が書いてあるのか読めなかったからだ。言葉が理解出来ているのは不思議だったが特に気にしていなかったのだけれども、てっきり普通に字も読めるものだと信じ切っていた。
そこはもう諦め、案内図の絵で判断するしかない。一階は酒場と馬車の絵が描いてあり、二階には多分受付だと信じたい。三階は何かの部屋、四階と五階は文字らしきものしか書いてない。更に地下にも何かがあるようだ。
冒険者の朝は早いらしくて入口の周りにはまばらにしか人がいないが、そこで初めて獣人を見たので思わず声に出してしまいそうだった。何とか声に出さずに済んだので本当に良かった。いきなり絡まれでもしたら厄介だ。
ギルドの入口のドアは開け離れていて中に入って行くと中も全てが石造りになっている。壁側にはテーブルが並べてあり、朝から飲んでいる連中がいる。
鉄の鎧を着ている人を期待していたが、誰も着ていなくてせいぜい皮の鎧か皮のジャケットなど軽めの服装が多かった。ただ剣や槍などが立てかけてあって如何にもこの世界らしい雰囲気に思わず見入ってしまう。
俺のようなローブを着ている人は誰もいないし、勿論杖も誰も持っていない。そのせいか飲んでいる人が俺の方を見て何やらこそこそ話しているような気がする。
視線が若干気になるが、二階に向かう階段があったので登ると案の定酔っ払いに絡まれた。
「おい兄ちゃん、ここに来るのは初めてだろ、今時、魔術師なんて珍しいな、それとも魔法剣士か何かなのか」
毛皮のジャケットを着た盗賊みたいな輩が酒瓶を片手に近づいて来た。そいつは丸太みたいな腕をして、その腕で殴られたら怪我をしない自信は全くない。なるべくならお近づきになりたくない人物だ。
「いえ、違います。ただ冒険者の登録をしようと思って来ました。受付は二階ですよね」
関わりあいたくないので、さっさと階段に向かうがそんな事はお構いなしに聞いて来る。
「兄ちゃんは回復魔法か補助魔法は使えるのか」
「いえ全く」
そのように答えるとあからさまに馬鹿にしたような顔をしてきたが、文句も言えないので助けてくれる人がいないか周りに視線を送るが、楽しそうに見ているばかりで誰も止めてくれない。
丁度この場所は吹き抜けになっていて、上の階からも視線を感じるがそれだけだ。職員らしき人物すら止める気配すらない。
「身体強化は使っているか」
「いえ全く」
どうやらこいつはその魔法を知っていたらしい。そこまでの馬鹿じゃ無いようだが、俺の答えが気に食わなかったようだ。酒瓶を床に叩きつけながら怒鳴って来た。
「お前な、どっか他の街に行ってなればいいだろ、手前みたいのがここの所属になったら俺達が馬鹿にされるんだ」
怖い顔で胸倉を掴もうとしてくるので思いきり後ろに下がる。「逃げるなよ」などとヤジがかなり飛んでくるが気にしない。
そいつは近くに置いてあった椅子を振り上げて迫ってくるので、面倒くさいが杖を下に向け「ホール」で穴を開け、そいつを太ももの辺りまで落とす。直ぐに余り魔力を込めないように「圧縮」を掛けるが、かなり痛がっているようなので上手くいかなかったようだ。
「痛てえ、痛てぇ」
余りにも大声で叫ぶので杖で奴の顔に標準を合わせ、「エアーボール」を気絶させるまでぶつける。威力がないので余り使い物にならないと思ったが、目では見る事が出来ないのでここでは有効だったようだ。ただこいつを気絶させるのに三十発は撃ってしまったが。
意外な展開だったのか、見物していた人は全く動く気配がなかったので直ぐに階段を上がり二階へと向かった。




