第二十九話 ヨアキム会談
ヨアキムと兵士が話している最中に、岩が通過して行って出来た道の左脇から光を纏った水柱が高く上がった。
「隊長、狼煙が一本上がりました」
「仁、大丈夫だ。やはりあの近くにいたらしいが無事を知らせる連絡がきたぞ」
ヨアキムが振り返り安堵した表情をして伝えてくれた。副長だけが出来る連絡方法で、一本なら無事で二本なら救援求むという風になっているそうだ。光と水の属性持ちの魔術師らしい。
「当たらなくて本当に良かったです。何だか疲れてしまいました」
もしかして殺してしまったのかと思い精神的にどっと疲れたのだが、ヨアキムはそうは思っていない様で魔力が切れつつあるせいで疲れたと思っている。
「あんな物を無詠唱で放ったらそりゃ疲れるだろう、今日はこれからここで野営するから君達も動かないでくれ、まだ聞きたい事もあるしな」
ヨアキムは部下に指示を出して円形に陣を組み、アトラスの馬車が入れるように一部を開けてそこに組み入れた。アトラスはハク達を集めてこれからの事を皆に告げる。
「今は部隊の一部が盗賊のアジトへ行っているが、何もないようならば第三小隊と一緒にクリフトの街へ帰る事になるのでかなり楽に街に帰れるぞ」
「村に行った兵士はどうするのですか」
アルメイダが聞いて来る。
「流石に待たないそうだ。あとはどうするか分からない。それよりも私達は三日後には街へ着くんだ。それまでは第三小隊の指示に従って動いてくれ」
その後も支部の事やこれからの事をアトラスさんとアルメイダが色々話をしている中、サントは二人の子供の面倒をみている。
誰が言い出したのか分からないが、一切俺が暴走した事に触れてこない。怖がらせてしまったのではないかと思ったが、誰もが普通にしてくれているのが本当に有難い。
すると先程の顔が真っ青だった兵士が食料を抱えて馬車にやって来た。
「すみません、大した料理じゃないけど此方を食べて下さい。街まで皆さんは必ず無事に連れて帰りますので道中も安心して下さい。まぁあんな事は出来ないですけど」
チラッと俺の方を見て苦笑いをしながら言う。
「真っ青君、何が言いたい」
「変な呼び方をしないで下さいよ、僕はコンラートって言います。一応この小隊の三番手です。仁さんは隊長のテントに来てください。話したい事があるそうです」
これから世話になるし、先程は迷惑をかけてしまったので急いでヨアキムのテントへコンラートの案内で向かった。
「隊長、お連れしました」
「分かった、後は休んでいろ見張りは三人ずつだ。指示しとけよ」
コンラートはテントの前で敬礼をしてから隊の連中のの方へ行った。
「失礼します」
俺は中に入るとそこには料理と酒が用意されている。
「まぁ食べてくれ、お詫びも兼ねてあるから遠慮はいらんぞ」
アトラスさん達の食事より豪華なので若干引け目は感じたが、遠慮なく食べる事にする。食事中の話題はやはりあれだった。
「仁は何処かの国の貴族かも知れないな、いきなり質問してしまうがあの詠唱無しの魔法は何だ、エルフ特有のものなのか」
「詠唱は聞こえない様に実はしていました。魔法に関してはエルフの秘術を何故か教えて貰えました。ところで何で貴族だと思ったのですか」
嘘をついているのは申し訳ないがしょうがない事だろう。
「秘術か、なら聞いたところで教える訳ないよな、流石はエルフだな、仁が羨ましいよ」
エルフの秘術とは中々上手い嘘を思いついたと思う。これからも何とかこれで乗り切れそうな気がしたので、思わず笑みがこぼれそうになった。
何故、ヨアキムが俺の事を貴族ではないかと思ったかは、魔術師が貴族以上の世界ではレアなステータスとして優遇される事にあるようだ。魔力の素養は親から子へ受け継がれることが多いそうなので、平民の魔術師は得てして貴族と婚姻を結ぶことが多いそうだ。
「それより、俺は罪に問われるのでしょうか」
黙って捕まるつもりはないが、やはり気になってしまうので聞いてみた。
「あの事は見なかった事にする。ただあいつらは部隊内ではけじめをつけさせるつもりだよ、かなりきつく言うつもりだが、この先あいつらの家から何か嫌がらせがあったら遠慮なく言いに来てくれ、これでも伯爵家だからな…………………………次男坊だけど」
言い終わると豪快に笑った。ヨアキムが貴族で、しかも伯爵家との事に驚いたが、それよりも二十八歳と俺と同い年だった事の方が衝撃的だった。てっきり四十代だと思っていたのに。




