第二十四話 イーランズ村の中で
木の陰に隠れて二人が立ち去るのを見送る。二人は少し何かを話した後で走り出し瞬く間に道を外れ見えなくなった。それでも俺は動かず暫く立ち去った方を見つめていた。
「ここからは一人だな」
その場で軽く呟くと振り返り走り出した。直ぐに馬車に追いつくと屋根の上に登り見張りを開始する。
「仁さん、僕も登っていい」
サントが下から声を掛けて来た。今迄はずっとアトラスさんから離れなかったが、ようやくゆとりが出てきたのだろう。
「いいよ、危ないから気を付けて」
サントは俺の隣に座り、魔法について色々質問をしてきた。魔術師にかなりの憧れがあるらしく、目の前で軽く見せてあげるとかなり喜んだので見せたこっちも嬉しくなる。
ミネルバ達と別れてから三時間程経った頃、早くも村が見えてきた。村は辺境だけあり、粗末な村で大体三十世帯ぐらいが住んでいて、ほぼ自給自足なのだが村に一軒だけある商店がアトラスの経営するミサン商会だそうだ。
村の入口に着いたのだが、門番も居なければ村人の姿も見えない。見える範囲の村はかなり荒んでいる。
「アトラスさん、何か変じゃないですか」
「どうしたのでしょうか、ゴブリン程度の魔物なら結界の魔道具があるので侵入出来ないはずなんですが」
一旦村の中に入り一番大きな集会場の中を調べたが、やはり誰も居ないどころか明らかに何かがあった形跡が発見された。アトラス達はこの状況に少し怖くなってしまっている。
「ミネルバさんやルークさんを追いかけて、クリフトの街まで護衛を頼んだ方がいいですかね」
「ミネルバ達はこの辺りの魔獣とか気にしないので、街道を使わずに帰るので馬車では追いつけないですね、俺だけなら全速力で走れば追いつくかも知れないですけど、ここにアトラスさん達だけを待たせる訳にはいかないですよ。皆で街へ街道で帰った方がいいと思います」
それに馬車の中には食料が多くある訳でもなく、補充も無しに無理に出発したら困窮してしまう。俺だけなら狩りをすればいいのだが、彼らからあまり離れる訳にはいかない。だったらこの村に物資があるか探してから街に向かった方が無難のように思える。
「そういえば、商店は」
アトラスがいきなり声を上げ走って行った。その先には立派な小屋がありその中に入って行く。木の板の床になっていて、その上に載っている散乱物をどかして一部を剥がすと地下に続く階段が出てきた。中に向かって大声を上げる。
「おい、アトラスだ。誰かいないか」
「旦那様ですか、ここにいます」
階段の下の貯蔵庫から若い夫婦が姿を見せた。男性の方は足に怪我をしているようで、女性に肩を借りている。俺は急いで階段を降りていきポーションを飲ませると、足の傷が良くなったのか女性の肩から手を放し奥の方へ歩いて行って、子供を二人連れて来た。
男性はアトラスの部下でアルケイダと言って、アトラスが経営しているイーランズ村支部を任されていた人物で、その他は妻と子である。
貯蔵庫から出て落ち着かせてから話を聞くと、いつの事か正確には分からないが、ある日村に在中している衛兵がゴブリンを何匹か見つけ、ただでは駆除せずに捕まえて結界に投げてはゴブリンが痛がるのを見ながら酒を飲んでいた。
その内に結界の魔道具を壊してしまい、衛兵達が直そうとしている最中に隙を見つけた一匹が逃げ出して、その三日後の夜中にかなりの数のゴブリンが結界の壊れた場所から侵入してきたので、村は大混乱に陥った。
アルメイダも家の前で戦っていたが、その最中に足を折ってしまったのでやむを得ず家族で貯蔵庫に隠れたそうだ。村の方は様々な声がしてその内に何も聞こえなくなったが、怖くて出て行けず今に至ったという事だ。
この村が潰れてしまったのは、馬鹿な衛兵が原因のようだ。それにしても大人が何十人もいてどうにか出来なかったのだろうか、アトラスも同じ考えをしているのか苦い顔を浮かべている。
アルメイダ達は最初助かったと思い喜んでいたが、アトラス達しかいないと話を聞いてかなり狼狽している。
「まぁ落ち着いて下さい、盗賊は頭の言葉を信じるならほぼ全滅していますし、ゴブリンもエルフの仲間と村を討伐してきましたので、そっちの方の心配はいらないです」
子供達に安心させるため優しく話し掛けた。
「仁さん達で討伐したのですか」
アトラスが驚いたように聞いて来る、てっきりルークが話していると思ったがそうではなかったようだ。それよりもまだ地下に食料が残っているというので馬車に積み込んんで貰う、その間に他にも生存者がいないか俺一人で探す事にした。
イーランズ村はそれほど広くないので何があっても直ぐに駆け付けられるし、アルメイダも怪我が良くなったのだから少しは戦力になって貰わなくては困る。
一軒一軒しらみつぶしに探すが、商店のような地下室はなく荒らされた後しか残っていない。家の中にはその場で何かあったであろう血の跡や体の一部を発見してしまう。
それ以外は何にも成果の無いまま戻ろうとすると、村の端の方で何かが動いた気がした。そっと近づき音の出元を確認すると、野ネズミが人間かゴブリンか分からないが、何かを群れを成して食べていた。
「ホールアンド圧縮」
群れを丸々飲み込み音を出さずに瞬殺する。これ以上アトラス達を怖がらせたくないので細心の注意を払った。
土曜日ぐらいまでは三話更新を狙っています。
来週からは毎日、一話か二話ぐらいは投稿したいです。




