第二十三話 別れ
夜の見張りは最初に俺がすることになった。壁に登り星を眺めているとミネルバが現れた。
「隣いいかな、座っても」
「勿論だよ、今日は色々とすまなかった」
俺はミネルバに頭を下げた。
「私の方こそいきなり飛ばしちゃってごめんなさい」
月明かりに照らされたミネルバも誤ってきた。
「いいよ、フランが俺に教えられなかった事ってこれだったのだろ、俺は綺麗ごとばっかりだったんだな」
「何て言うか、似たような事が起きた場合に信頼できる仲間や助けてくれる人がいればいいけど、仁だけとか仁以外が弱かったら、躊躇している間に取り返しのつかない事が起きるかもしれない。そうなって欲しくないの」
ミネルバは俺の目を真っすぐ見て言ってくる。本当に心から心配してくれている。
「ありがとう、俺はちゃんと今日の事覚えておくよ、向かって来る悪意に対して遠慮はもう絶対にしない」
ミネルバと話しているうちに、胸につかえていた小さな罪悪感は消え去って心が軽くなった。余裕が生まれたせいか、忘れていたことを思い出してしまった。
「あのさ、壁を解除するのをすっかり忘れていたよ、あの串刺しの死体がそのままだ」
ミネルバもすっかり忘れていたらしく天を仰いだ。今更どうしようもないので、帰り道のついでに死体は燃やしておくから壁や針は元に戻して置くように念を押され、それからはまた昨日と同じようにルークは起こさず、二人で最後の夜を過ごした。
翌朝になり出発したらゆっくりと進んでも夕方には村に着くそうだ。そうしたら別れが来る。そんな事を思いながら支度をしているとアトラスが話し掛けてきた。
「失礼ですが、仁さんは記憶が無いのですってね、もし良かったら私達が村での用事が終わった後、一緒にクリフトの街へ行きませんか、うちの商会には従業員の寮があるので暫く暮らしたらいい。勿論、お金は要りません」
いつの間にかどうやらそのような設定をルークが話していたらしい。強引な設定ではあるが乗る事にした。ただ寮を無償で住ませてくれる事には有り難いが、申し訳ないので払わせて欲しいとお願いする。
細かい事は街に着いてから決める事になり、仕事も冒険者は危険なので良かったら商人として働かないかと言われたが、曖昧に答えておいた。
「さぁ出発するよ」
ミネルバは元気よく号令をかけた。街道は整備されていてとても走りやすく、爽やかな風が吹き森の香を運んでくれる。
ミネルバが馬車を操縦し俺が隣に座る。二人とも眠気は全く感じられず、穏やかにイーランズ村へ進んで行き、昼前にはイーランズ村へ続く橋のたもとに着いた。
「アトラスさん、一応ここが目的地になります。後は半日もしない内に着くのですが、ここで大丈夫ですか」
「助かりました。ここまでくれば大丈夫ですよ、貴方達には二回も命を救われたので少し多めに入っています」
アトラスは十二枚の金貨が入った袋を渡した。俺達は別れの挨拶をする為に馬車を先に行かせ三人だけになる。
「ほらっこれ全部持っていって」
ミネルバは金貨を全部投げてよこした。
「いやいや駄目だろ、ちゃんと分けようぜ」
「あのね、仁はそれしか持ってないんだよ、私達はそれの何十倍とあるから遠慮しないで」
ルークはミネルバの行動を知っていたのか笑っている。ここで善意を断ってもしょうがないので有難く貰うことにした。ただ一つだけ俺は提案を二人に告げた。
「俺は色々と周るつもりだから、その時「緑の風」の情報を掴んだら必ずそいつらを潰すよ、その依頼として貰っとくな」
「ありがとう、けど仁、無茶はしないで」
………………………………………………………………そして俺達はわざとあっさり別れた。
「なぁ姉ちゃん、実は前に仁が手紙の入った箱を埋めたのを見たんだ。涙を流していたから、多分姉ちゃん宛てだと思うから拾っとくか」
「馬鹿、止めなさい。大体分かるよ書いてあることなんて」
何も喋らずミネルバは里に向かって歩き始める。心の中でミネルバは思う。お互い二十年、三十年は幸せな未来が見えたけど、それ以上は……………………………………………………。




