第二十二話 盗賊シド
最初はシド視点で話が進みます。
一体目の前で何が起こっているのか、かなりの数がいたはずなのにあいつらの声が聞こえてこない。
ふざけろよ、ここまで組織を大きくしたんだぜ、「緑の風」を追い越す盗賊団になるつもりだったのに、まだ名前すら決めていなかったのに、あいつら一体何なんだ。
一体俺らが何をしたって言うんだ。他の盗賊は殆どを殺したり、奴隷商人に売ったりするけど俺達はしない。抵抗したり逃げようとしたら殺すけど素直に出すもの出せば生かしとくのに、生かせばいつかまた襲う事が出来るから無駄に殺すなとちゃんと指導しているんだ。
かなり良心的じゃないか、ふざけろよ、俺達は普通には村や街に入れないんだぜ、もう犯罪者として手配書が回っているからな、そもそも犯罪奴隷隊って何だよ、危ない事ばかりやらせやがって、生きて刑期を終える奴なんか見た事ねぇよ、そりゃ逃げるに決まっているだろ。
だから商人から奪ってもいいだろうが、金も物資もあるんだから。それに昨日は苦労したんだぜ、一台が荷物を放り投げながら逃げやがったから拾い集めるのに時間が掛かってしょうがなかった。今日は残りの全てを集めて宴会するつもりだったのによ。血も涙もない化け物が現れやがって、足が地面とくっついて動かねぇよ、クソ野郎が。
盗賊頭のシドは向かって来る馬車を睨みつけながら思っていた。馬車がシドの手前で止まり、ルークが馬車を降りながら問い詰めた。
「お前、名前は」
「教えてやるからどうにかしろよ、シドだよ、早く解放しやがれ」
シドは観念しているどころか恫喝してきている。ミネルバは俺をシドの前まで連れて行き冷たい声でシドに話す。
「アジトは何処なの、他に仲間は、素直に言えば生かしてあげる」
「言うかよ、この馬鹿が」
鈍い音が響いた。ルークが凍っている片方の足を蹴り砕く。片足になったシドはそのまま倒れ無くなった部分を押さえながら叫ぶ。
「いてぇーー、何してんだお前は」
今度は押さえていた片手を肩から切り離す。
「言え、もっと無くしたいのか」
「分かったよ言うからもう止めてくれ、仲間は殆ど残っちゃいねぇよ、アジトは地図を書くからそれでいいだろ」
アトラスは地図を持ってきてルークに渡す、それをルークはシドにアジトの場所を指さすように告げた。アジトの場所はこの場所からほど近い山の麓にあるようだ。ルークはアトラスに村に入ったら警備兵に教えて後は任せようと告げた。
「じゃあ早くイーランズ村へ行きましょう」
「おい、待てよ、助けてくれるんじゃねーーのかよ」
「助けるなんて言っていない、じゃ」
ミネルバは冷たく言い放ち、皆を馬車に乗り込ませ出発する。動く事も出来ず、今もなお大量の血を流し続けているシドは、それから暫く助けを求め続けた後で命を失った。
馬車はルークが操作をして隣にはミネルバが座る。俺は後方を見張る事になった。
「ありがとうございます。これで暫くこの街道は安全に通行が出来そうです。いやでも凄かったですね」
アトラスが少し興奮気味に話してくる。アトラスがこの街道で盗賊に出会うのは初めてで、そもそも大した人数のいないイーランズ村へ行く商人など殆どいないから、盗賊もそれに伴っていなかったそうだ。
クリフト、ソトバ村の間はかなりの往来があるから盗賊の出現率は高いが、最近警備体制が強化されたのでこっちの方へ流れてきたのではないかとアトラスは言ってきた。
あんな風に簡単に人を殺した俺達に対してアトラス達は感謝こそすれ、一切怖がらない。この世界の住民にとって盗賊は魔物や魔獣と同じ存在なのかも知れない。
戦い方が気になったらしく、特に俺が飛ばされた事や囲んだ壁を聞きたがっていたが、適当に話した。申し訳ないがまだアトラスさんを完全に信じてはいないので、あまり情報を与えたくはない。
「それよりも、サントは何をやっているのですか」
「あぁ昨日からの事を日記に書いているのですよ」
まさかこの世界に紙とペンがあるとは思わなかった。俺は馬車の中で器用に書いているサントに近づき見せて貰うと、紙の質は藁半紙のようでペンはほぼ鉛筆に近い物だったので感心していると、アトラスは使いかけで良ければと中古の鉛筆と用紙を数枚よこしてくれた。
それからは何事もなく夜に近づき、イーランズ村へ向かう最後のキャンプを張る為に街道沿いの広場へ入って行き、昨晩と同じように壁を四方に出して食事が出来るまでの間、馬車の中でミネルバ宛ての手紙を書いている。
手紙の内容は今までの思い出が三分の一で残りは懺悔だ。ミネルバの事は好きだが俺には種族の壁は越えられそうもない。種族というより寿命の壁だ。書いているうちに涙が止まらなくなってくる。
この気持ちのまま生きていけるならば、別れるなんて選択は選ばない。確実に辛い運命が待っているから何も起こさず別れる事を選ぶ。この気持ちはミネルバも同じだろう。
俺は「ホール」で開けた穴に木箱に入れた手紙を落とし、そっと穴を優しく塞いだ。




