第二十一話 盗賊との戦い
嫌になるくらい広い草原が続きようやく前方に見えている丘陵を越えれば街道に出るとなった時に、ルークは丘陵の手前で荷馬車の残骸を見つけた。
「アトラスさん、ちょっと出てきて前を見てみて」
「どうしました、……あっ」
言うやいなや直ぐに馬車から飛び降りて荷馬車を見に行く、本来なら中には村に届ける商品がかなり多く積んであったはずだが、その半分程を奪われていた。
その周りには護衛をしてくれていた冒険者や、従者が息をすることなく倒れている。アトラスは膝をついて声を出さずに静かに泣き出した。ハクは惨状が見えないようにサントの目を隠すようにして抱きしめている。それでもサントは昨日の事を思い出したのか顔は真っ青になって全身が強張っている。
「アトラスさん直ぐ戻って、姉ちゃん、仁、やって来るぞ」
ルークが叫び俺とミネルバが飛び出す。微かに丘陵の向こうから集団がやって来る音が聞こえる。
「仁、もし盗賊なら遠慮しないで殺すんだ。じゃないと彼らが死ぬことになる」
ルークは俺とアトラスを見ながら言ってきた。昨日ルークが教えてくれた常識の中に盗賊の事もあった。この世界では盗賊は重罪で、その場で処刑しても罪に問われない。下手に護送してそこで盗賊が暴れだしたら護送した方も罪になってしまう。盗賊に人権なんてものは無い。
ざわめきがさらに大きくなり、丘陵の上に現れたのは、残りの商品や死体の身ぐるみを剥ぎにきた盗賊の集団だった。いかにも盗賊と言う恰好で、どいつもこいつも悪人面をしている。俺は弓を肩にかけている一人に狙いを定めた。
「ショット」
弾が一人の盗賊の肩を撃ち抜き血しぶきがあがり、そいつは肩を押さえながら後ろ向きに倒れる。どよめきが丘陵の上で起こったが、一人が此方を指さし耳が裂けるような大声をあげた。
「あいつらだ、こーーろーーせーー」
盗賊達が群れを成して駆け下りて来る。盗賊が叫ぶより前にミネルバは俺の頬を平手で叩き、ルークに指示を出す。
「投げて」
ルークがいきなり俺の胸倉を掴んで槍投げでもするかのように俺を投げる。そこにミネルバの風魔法が加わり、俺は駆け下りて来る盗賊達の前に飛ばされた。血走った眼を俺に向けながら直ぐ側まで迫って来る。何で投げられたのか意味が分からないが、逃げる事も出来ない俺は意を決して叫んだ。
「バレット、バレット…………」
近づいて来られないように弾を周囲にばら撒く、先頭集団は傷付き倒れていくが、後ろから来る者に無理やり起こされ盾にされながらも怒りの声を上げながら迫って来る。狂気を目の当たりにして俺の中の何かが壊れた。
何だよこいつらは、そんなに死にたいのなら殺してやるよ
「ウォール」
俺は駆け下りて来る盗賊を壁で包み込むように円を描いて閉じ込める。中からは盗賊達の怒号や怨嗟の声が聞こえてくるが、それを聞こえないようにして更なる大声で叫ぶ。
「ニードル」
壁の中にほぼ隙間なく針を出す。瞬く間に怒号が止み、微かなうめき声だけが聞こえる。何も音がしなくなった後は辺り一面にむせ返るくらいに血の匂いが漂ってきた。
たったこれだけの事で一体何人殺してしまったのだろうか、ゴブリンは人型とはいえ血の色は緑で言葉も話さない、だが盗賊は俺と同じ血の色は赤く、汚い言葉であったがちゃんと話す事が出来る。俺は考える事を放棄し膝から崩れるように落ちた。
一方ミネルバはほんの少し前、丘陵の上から弓を構えている三人の盗賊にむけて氷の矢を放ち、一本も反撃を貰わずに仕留める。先程号令をかけていた盗賊にはあえて殺さず、下半身を凍らせてくぎ付けにした。
ルークは仁の後方に待機して、運良く壁から逃れられた盗賊を一人また一人と斬っていき、とうとう生きている盗賊は丘陵の上にいる一人のみとなった。
「仁、しっかりして」
またもやミネルバが平手打ちを繰り返してくる。何発かもらい段々と気を取り戻していく。俺はミネルバの手を掴んだ。
「あぁ、もう大丈夫だ。ただ俺は人殺しになっちゃった。簡単に殺しちゃったよ」
泣きそうな顔でミネルバに訴えたが、ミネルバはそんな俺の前に腕を組んで立っている。
「仁、これが本当のこの世界だよ、自分の欲の為に簡単に殺す奴もいるの、そいつらには言葉は通じないし、もし話し合いで解決したいのなら一人の時にやりなさい。仁、振り返って見て」
俺は振り返りアトラス達を見てから膝の土を払って、よろよろと立ち上がる。正直に言って俺は人殺しはもうやりたくない。だが誰かを守る為ならば殺らないといけないのだろう。頭では理解したがまだ実感が無い。
「そうそう、まだ壁を解除したら駄目だからね、それよりも一人が生きているから尋問するよ」
俺達は馬車に戻り、アトラス達を荷台に乗せて丘陵を登り生き残りに近づいた。




