第十八話 最初の別れ
フランはゴブリンの死体の山を避け、村の端に皆を集めて報告を聞く。村の中に隠れる場所はなく、逃げるゴブリンも全て駆除出来たので討伐に関しては成功だったのだが、残念ながら捕らえられた者で生存者はいなかった。俺は空しくなりながらもある事を提案する。
「この村、片付けていいですよね」
俺はそれ以上何も言わずただ地面に膝をつき村に向かい土下座をするような姿勢になる。徐々に村全体の地面がにぶい光を放ち、地中から獣が唸る様な音がすると地面が激しく波打ち全てを飲み込んで行く。
次第に地面の波が治まってくるにしたがい、綺麗な白い玉砂利がむらのあった場所を覆いつくした。更に村であった場所の中央に小さな白い塔を出現させる。次に洞窟の入口に立ち掌を洞窟に向け唱える。
「圧縮」
一度だけ、ズンと山全体から音がした後で洞窟は完全に土で埋まり、山と一体化になった。全てが終わった後、意識を手放しその場に倒れ込んだ。
………………何かが焼けるいい匂いがして段々と意識が戻って来る。
「おぅ目ぇ覚めたか、もう少しで肉が焼けるぞ」
フランがいち早く気が付き声を掛けて来る。やはり魔力切れしてしまったと思いながら、目の前には膝枕をしてくれていて心配そうな顔をしているミネルバと目が合った。
「あっごめん」
直ぐに起き上がると、また頭がくらくらしてしまい元の姿勢に戻ってしまう。
「無理しなくていいから、まだ休んでいて」
ミネルバが俺の頭をそっと撫でる。
「あのさぁ、何でそんなになってまで一人でやったんだ。死体処理なら俺もやるのに」
アサドが心配そうに尋ねてきた。俺は寝たままアサドだけでは無く、皆にも聞こえるようにゆっくりと話す。
「俺は別に死体処理だけをしたかった訳じゃないんだ。何て言ったらいいのか上手く説明出来ないけど、ここの悲劇のあった場所を綺麗にしたかったんだ」
「あの中央に建てた物は何だ」
「供養塔のつもりだよ」
「そっか、人間は不思議な事を考えるんだな」
アサドは俺が作った供養塔を眺めながら不思議そうに言った。
「さぁもういいか、まだ完全に終わりじゃないんだ。明日からの事を言うから聞いてくれ」
フランの話だと、村には西と東にゴブリンが切り開いた道らしいものがあるので、もしかしたらまだ外に出ているゴブリンがいる可能性が考えられる。だから俺達は二手に別れて道沿いに遠回りをして駆除しながら里に帰る事にする。
東周りはフラン、アサド、イマーム。西周りで俺、ミネルバ、ルークでチームを組む。話がまとまるとフランが俺を輪の中から連れ出し二人だけで話をする。
「仁、西へ進んで行くと草原に出る。そのまま行くと街道に出るから人間の街や村へ行けるぞ、お前はそろそろ行った方がいいんじゃないか」
「どうしたんですか、突然」
いきなりの事で動揺を隠せないが、少し心が揺れる」
「ずっと里にいたいのなら別に構わないがそうじゃないのだろ、だったらいいタイミングじゃないか、シャペル様とかには俺から良く言っておくから、グタグタ考えないで今すぐ決まてしまえ」
沈黙が流れ俺は考えを巡らす。確かにいつかは出るつもりだった。いつかは全く考えていなかったが、このまま戻ったら今までと同じように過ごして手遅れになってしまうかもしれない。もう潮時なのだろう。
「分かりました。長い間ありがとうございました。俺、行ってきます」
「まぁ俺にとっては短い間だったがいい判断だ。気楽に行って来い。いつでも里に戻ってきて構わないからな」
初めて俺とフランはハグをしてから固い握手をした。この世界に来てしまった俺は運が無いのだろうけど、ミネルバとルークに助けられ、フランや皆と暮らす事が出来たのは本当に幸運だった。
俺とフランは輪の中に戻り、腹いっぱいに肉を食べて、疲れを癒すかのように笑い、そして俺は涙を浮かべながら眠った。
ゴブリンの村を討伐してから一日が過ぎ朝を迎えた。昨日までの嫌な匂いは既に無く、爽やかな風が森の香を運んでくる。
上手い具合にアサドとイマームが二人だけで話していたのでそっと近づき、里を出る事を伝える。近所に買い物へ出かけるんだろう程度のあっさりとした返答だったがそこはエルフらしくていい。
全員の支度が終わり、いよいよ東西に別れて移動を開始する。別れ際、最後にもう一度フランと握手を交わした。
「仁、迷い人がお前で良かったよ、またいつかな」
「フランもお元気で、いつか必ず会いに行きます」
涙はなく、お互い笑顔で別れる事が出来た。




