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第十五話 崖を越えろ

 翌朝、外に出て見ると重苦しい雲が空一面に広がっている。昨日とは違い空気までもが淀んでいる様だ。


 簡単に朝食を済ませて出発の準備に取り掛かる。その際そっとミネルバが近寄ってきて俺だけに聞こえる声で言ってきた。


「今日の秘策って仁が何かやるんでしょ、楽しみにしているね」


 ミネルバの顔によく似合うウインクをしながら言ってきた。俺は照れ笑いを浮かべ軽く自分の心臓を叩き部屋の処理をしに向かった。ミネルバと旅する事が出来たらやはり楽しいのだろうと、そんな事を考えながら。


「よーし、二日目行くぞ」


「うっし」


 フランが気合を入れ、それにルークが答えて進行が始まる。


「重いけど今日もよろしくな」


「軽いぞ、任せろよ」


 出だしは順調に何も邪魔されなかったが、雲が切れ始め光のカーテンが出来た頃、空からウッズホークという魔獣が接近してきた。


「左斜め上に六羽、距離二百四十」


「バレット」


 スピードが意外と早く躱されてしまう。無駄な弾幕は止めて一羽一羽狙って行く。そうなると「バレット」では難しい。


 次の魔法に切り替える。「バレット」が機関銃を元にしたイメージなら今度はライフル元にしたイメージになっているので、弾は「バレット」より細長く飛距離が大幅に長くなっていて、さらに獲物へ向かって少しの間なら追いかける。連射は出来ないが高性能だと自負する。

 

 まず先行している二羽が左右に別れ弧を描く様に迫って来る。俺は杖を構え狙いを定めた。


「ショット」


 右から迫って来るウッズホークに対し勢いよく飛び出た弾は、若干カーブしながら顔を捉えて撃ち抜き、そいつはきりもみ回転しながら落ちて行った。


 さらに左から迫って来たウッズホークにも弾は顔の中心を捉える。その次の三羽目は頭上高く舞い上がり、一気に急降下をしてくる。太陽が視界に入ってしまい大雑把な姿しか見えないが、それでも弾は軌道を変えながら身体を貫いていく。そしてその勢いのまま地面にぶつかり見るも無残な姿へ変えた。


 異変を感じたのか残りの三羽はバラバラの方向へ逃げて行く。まだ狙えば一羽位は倒せそうだがそこは見逃した。


「よーし一旦昼メシにしよう」


 フランが号令をかけて休憩に入る。昨日から俺をおんぶしていたルークの肩を揉みながら、俺は干し肉を頬張りアサドに声を掛けた。


「あのさ、崖ってどんな感じ」


「高さはそりゃ高いぜ、堕ちたら絶対に助からない。幅はまちまちだけど狭い所で百五十mぐらいだな、森がいきなり切れて崖が現れるから足を踏み外す奴もいるから注意しろよ、まぁ今回は俺がいるから大丈夫だがな」


 休憩が終わり再出発したのだが、崖が近いのだろうかなりスピードが抑え目だ。陣形はそのままで進む事十分、いきなり目の前が開け、下を見ると気の遠くなりそうな断崖絶壁が現れた。


「仁、お前の出番だ。ちゃっちゃとやってくれ」


 フランは何でもないようね感じでやはり俺に振って来た。答えを言わないのはこれもまた訓練なのだろう、向こうの森まで二百m位か余裕だ。なにせ寝ずに昨日からずっと考えていたのだから。俺は皆に指示を出す。横一列に並んでもらい手を繋ぐ。


「じゃあ、手を離さないで、1,2,3で上にジャンプするよ。前じゃなく上だからね間違えるなよ」


「おい、仁、何を言っているんだ」


 何かフランが言っているようだが何せ端と端なので聞こえにくいから無視する。


「行くよ、1,2,3はいっブースト」


 巨大な風の塊が全員の身体を持ち上げ一気に崖を越えて行く、隣の方から叫び声が聞こえるが気にしない。中間地点に差し掛かった時に俺はまた指示を出す。


「じゃあ手を放して、着地は各自で頑張って怪我をしないようにね」


 言い終わると直ぐに森が迫って来た。着地の事はすっかり忘れていたが、そこはエルフ達だ何とかしてくれると思う。


 皆はバラバラに森の中へかなりの勢いのまま突っ込んで行く、かなり文句の声が上がり五月蠅いが、その中でフランが大声を出す。


「おーいみんな無事か、ここに集まれ」


 皆も何とか掠り傷程度で済んだようで、身体をさすりながら集合してくる。俺を見つけたフランは久し振りに俺の頭を叩きながら怒鳴った。


「何しでかしてんだお前は、普通は橋を架けるだろ」


 俺は頭をさすりながら説明する。


「あの距離だと幅が一m位の橋しか出来ないですよ、それも手すり無しですよ、怖いじゃないですか」


「あのな、いきなり飛ばされる身にもなってみろ」


 フランの答えに皆が頷き、ミネルバでさえ目を合わしてくれない。俺には味方はいなかったらしい。「ブースト」は空を飛んだり瞬時に移動させる為に考えた魔法だ。しかし方向転換もスピードの制御もまだ出来ない未完成品なのだが。


 崖を飛び越えたおかげで、早くもコルテス山の近くに辿り着いた。


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