第百六話 開戦初日 その三
俺は先程から森を見ながら考えている。最初の戦いはあっけなく終わってしまったが、それなのに北門では人員の補充を要請してきた位なのだから次の戦いが始まったら耐える事は出来ないのではないだろうか。そんな考えに囚われていると俺の側に一頭のペガサスが降りて来た。
「すみません、仁殿ですよね、司令官から伝令がありましてまだ貴方の魔力が残っているのであれば北門の内側にも外と同じような穴を開けて欲しいそうです」
フェドセイを見ると直ぐに頷いたので兵士の腰にしがみ付き初めてペガサスに乗ることになった。かなりの速さで飛んで行き、中央門を下に見ながら北門に辿り着く。北門は城壁はまだ健在ではあったが、城壁の上には木や岩が散乱していてあちこちに血の跡がある。
城門は少し変形してしまっていてかなりの数の投石を受けてしまったのであろう。急いで内側に中央門と同じぐらいの穴を開けた。これで例え城門が破壊されても直ぐに街の中に魔族が入って来る事は無いだろう。勿論、城門としての価値はなくなりデメリットも多いのだが。
この仕事で今の俺の魔力は三割あるかどうかに減ってしまっている。先程の兵士に声を掛け南門に戻ろうとしたとき、立派な髭を生やしたここの指揮官らしき兵士が話し掛けて来た。
「迷惑をかけてしまってすまんな、君が開けてくれたこの穴が無駄だと思えるぐらいにしっかりと城門を死守してみせるよ」
「そうなりますよきっと、お互いに耐えましょう」
南門に帰りながら、操縦してくれている兵士に尋ねてみた。
「南にはオーガの姿はなかったのですが、やはりオーガにはかなり知恵があるのでしょうか」
「すまんが俺も生まれて初めてオーガを見たから分からんよ、君もそうだろ、魔人なんて本でしか知らないからな、ただ奴らが城壁の上を狙ったのは偶然だと思うぞ」
話によるとペガサスを利用して魔人の上から魔法を放っていたらしいのだが、それを嫌がったオーガがペガサスを石で落とそうとしてたまたま城壁の上に落ちて来たらしい。上が騒ぎになってしまった為にオーガは狙いを城壁の上に変えたそうだ。人間ならば到底岩を投げて城壁の上に落とす事など出来ないが魔人は根本的な力が人間とは違い過ぎる。それならばまた同じ事が起こってしまうと考えられ、それに対処出来るのかと聞きたがったが、その事は口にする事が出来なかった。
「ぐぉぉぉぉぉぉ」
魔人共の雄叫びが聞こえ再び魔人達が城壁に近づいて来る。ペガサスから飛び降りて直ぐにチムールの元へ駆け寄った。
「戻りました、早速準備します」
頭上に「アロー」を二百本以上出し、それぞれに魔力を注ぎ迎え撃つ準備を始める。
「それで君の魔力の残りは」
「聞かないで下さい、ただ魔力回復の魔石がありますので大丈夫ですよ」
「なるべくこんな初日からは使わないでくれよ」
徐々に近づいて来る魔人の軍勢に「アロー」を発射させた。今回は此方にもオーガが来ているようで、そのオーガやトロールの身体には大穴を開け貫通して更に飛んで行くが、サイクロプスには刺さりはするが貫通にはいかずに「アロー」は消えてしまう。
「ぐしゃ、ぐしゃ」
城壁の壁に何かが潰されてしまうような気味の悪い音が聞こえて来たと思うと、次々にオークやゴブリンや魔獣までもが投げ込まれてくる。優しく投げている訳ではないので、殆どが無事に降り立つ事はないのだが、それでも身体に傷を負ったまま襲って来た。魔人達に物のように扱われても本能のように人間を敵だと思っているからだろう。
「エンシオ、下にも少し回してくれ、この高さだと無事だとは思えないが念のためだ」
フェドセイは声を張り上げながら目の前のゴブリンの頭を砕く。城壁を飛び越え下に落とされた奴らは死んでしまっているとは思うが、万が一の事があっては困ると判断したからだ。
「あいつらはこの為に一度引いたのだな、ゴブリンなんか嫌いだがここまで酷い扱いをされると哀れに思えてしまうよ」
チムールはゴブリンの攻撃を避けながら呟いている。そのチムールを救う為にギルスが現れゴブリンを片っ端から倒していく。
「チムールさんよ、こいつらはこんな扱いをされても人間側の味方になろうと何て考えようともしない。所詮は知性の無い魔物だよ」
ギルスは言い終わると直ぐにオークに襲われている兵士の救出に向かった。倒しても、勝手に死んでくれても、それでもまだ魔物は振って来て余りにもおぞましい光景が広がっている。俺は「バレット」で一体ずつ倒していくが、突然背中にかなりの衝撃を食らってしまった。振り返るとオークが棍棒を振り上げている所だったが、ゆっくりとオークの身体が分断されて行く。
「お待たせ、仁は外から投げて来る奴らを狙ってよ、仁の事は私達が守るから」
アーシャとラルフが突然現れ、俺の周囲にいる魔物を全て蹴散らしていく。俺は残りの魔力の殆どを使い特大の「ブーメラン」を出現させ、投げようとしていた魔人達に向かって発射させた。あのサイクロプスでさえ切り裂きながらも加速を止めることなく暴れまわる。更に魔法を放とうとして杖の魔石を握ろうとしたところでアーシャが俺の手を掴んだ。
「大分飛んでくる数も減ってきたから、向こうもそろそろネタ切れのはずだよ。それにそれはまだ使っては駄目」
アーシャに止められてしまったので俺の身体からどんとん力が抜けていき意識が消えて行った。アーシャの思惑道理に直ぐに魔物の雨は止み、魔人共は戦闘を止め森の中に消えて行った。
魔人は消えたがまだ城壁の上には魔物や魔獣が取り残されている。その処理が終わる迄にかなりの時間を費やさなくてはいけなかった。
初日が終わり、兵士や冒険者の戦死者は早くも二千人を超えてしまっている。




