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第百五話 開戦初日 その二

冒険者が受け持つ南門で俺は今まで受けたことがない歓声を浴びている。


「騒ぐな、お前らは敵をしっりと見ろ、直ぐに始まるぞ」


 フェドセイが怒鳴り声をあげたとほぼ同時に中央から巨大な火球が魔人に向かって降り注いだ。火球は地面にぶつかるとその周辺を火の海へと姿を変え視界は見えなくなったが、そこに向かってバリスタや弓矢も矢の雨を降らせている。その様子を見ていたチムールは吐き捨てる様に言う。


「馬鹿が、いきなり火球を使うなんて何を考えている」


「何故だ、中々の先制攻撃じゃないか」


 フェドセイの言葉に答えず、チムールは魔道具で火属性を使おうと準備している者達に向け声を張り上げた。


「いいか、そのうち奴らは森の木を使って穴を塞ごうとするだろう。火属性の魔法はその木を燃やす為だけに使うんだ。無限に使える訳ではないんだから考えろ」


 火球によって視界が奪われていた場所は徐々にその姿を現すと、そこにはほぼ無傷と思われるサイクロプスが立っている。


「こっちも射程に入りましたので撃ちます」


 バリスタを担当している兵士の声により、此方の門に迫って来るトロールの部隊へ発射された。当たれば倒す事が出来るのは確認出来たが、まともに当たったのはごく僅かで残りはトロールが抱えている木によって遮られてしまう。弓矢の効果も有効とは言い難い。


「魔法を放つんだ」


 チムールの掛け声により、「サンダーボール」「アイスランス」「風刃」などの様々な魔法は効果を発揮するが、敵の数が余りにも多いため数の力でどんどん迫って来る。トロールの後ろから迫って来るサイクロプスは森の木を抜いてきて、次々と穴の中にその木を投げ込んで行く。


「予想通りだな、ほれっ火属性の出番がきたぞ、穴に目掛けてしこたま火球を打ち込め、仁君は派手な魔法を放って相手を驚かせろ」


 チムールの指示に従って、冒険者が放つ火球が穴に撃ち込まれ埋めようとしていた木を燃やし始めた。これで奴らの行動は無駄になったはずだ。繰り返せばかなり時間が稼げそうだ。


 俺は馬ほどの大きさの円錐に作った岩を三つ出し魔力を込めながら高速回転させる。三つとも別の方向に進ん行くように方向を定める。


「行けっバズーカ」


 岩はかなりの音を出しながら魔人達をなぎ倒して飛んで行く。魔人の軍勢の中に三本の道を作って行くが、手前は直撃するので殺せたが、奥の方になると軌道を読まれ交わされてしまう。


「見た目より効果が薄かったですね」


「仁君、そんな事は無いよ、中央も穴に火球を落とし始めたよ。仁君の魔法を見てこっちのやっていることが分かったんだろうね」


 すると僅か短時間しか戦っていないのに魔人達は後退を始め森の中に消えて行った。城壁の周りには魔人の数百体の死体がそのままの形で残っている。


「何故、魔石に変わらないんだ」


 誰かがその事に気が付き声を出すと、フェドセイは仁に近づいて行く。


「仁、どうなっている。お前は魔石を持ってきたよな」


「俺は倒しただけで知らないですよ、魔石を見る前に意識が消えましたから」


 城壁の最前列にいた一人の冒険者が穴の右側を指し叫んだ。


「あそこに落ちているのは魔石じゃないか」


 周りにいた冒険者が城壁から身を乗り出しながら見ると、死体と死体の間に魔石が数個だが落ちているのが見える。


「一体どういう事なんだ」


 チムールは呟くが誰も正解を知らない為に答える事が出来ない」


「いい加減にしろ、魔石ばかり見るな、あれで終わりじゃないんだからな」


 フェドセイが大声を出して気持ちを引き締めさせるが、魔族側には多少ではあるが被害があるのに対し、ここの上では誰一人としてかすり傷すら負っていない。この城壁があれば本隊が来るまで守り抜く事は容易に感じ、そればかりか魔族側は諦めて帰ってしまうのではないかと考えを持つ者が現れ始め緊張感が薄れてしまっている。そんな中で伝令の兵士がフェドセイの元に現れた。


「司令官より伝令があります。北門に兵士を少し回して貰えないかとの事です」


「どうしたんだ、何かあったのか」


「北門を攻めて来たオーガは穴ではなく城壁の上を狙って木や岩を投げ込んできたので、北門ではかなりの死傷者が出てしまっています」


 フェドセイは直ぐに兵士を二百人向かわせ、この場をにいる者全てに聞こえる様に話す。


「おいっお前ら静かに聞け、ここからでは見えないが北門では死傷者が出てしまっているようだ。向こうを攻めている奴らは穴では無く城壁の上を直接狙って来たそうだ。ここも次はそうなり可能性がある事を覚悟してくれ、エンシオの部隊は暫く上で盾を装備して投石に備えてくれ」


「さっきまでは何もやる事が無かったので、その分頑張らせてもらいますよ」


 気が緩み始めていた冒険者達はもう一度気を引き締めなおした。だが北門では盾で防げるような石や木は飛んできてはいない事に気が付いていなかった。まだ彼らの中では魔人の力を過小評価している。

 

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