第百二話 開戦一日前 午後
チムールに連れられてボーイェンの所へ行く。隊舎の中は兵士が慌ただしく動いていてこれから起こる事の重大さが感じられる。小さな応接間に案内されボーイェンとカルスを待っていると直ぐに二人は現れた。
「お忙しい時に申し訳ない。冒険者の連中は明日の朝に南門に集合させる事になりましたよ」
「協力してくれて感謝する。ところでそちらの人物が私に合わせたい人でいいのかな」
チムールが俺を紹介し、ここに来た目的を話し始めた。大穴を掘る事にかなりの興味を持ったようだが、それにより城壁に取り着いてしまうのではないかと言う懸念が生まれたようだ。
「そこは賭けでしかないですね、ただあの城壁だと登りずらそうですよ、それに魔族が弓を使うとは思えませんがどうしましょうか」
ボーイェンは答えを出せずにいる。ここには人数が圧倒的に少ないので魔族が城門の前の穴に集まってくれた方が戦いやすいが、はたしてその作戦が上手くいくのかが分からない。
「魔力は無限ではありません。大穴を開けるのに使ってしまうと回復までにかなりの時間が掛かります。今すぐに答えが出せない様でしたら魔族との戦いに備えますのでこの事は聞かなかったことにして下さい」
「分かった。今回は城門から出ていく事は無いだろうからお願いするよ。カルス、問題がないように一緒に行ってくれ」
結論が出た所でチムールは闘技場に向かい、俺と副司令官のカルスで三ヶ所の城門を周ることになる。
南門と北門は前に利用した中央門の半分程の大きさでしかないが、それでも今まで見てきた街のどの門よりも大きくて頑丈に作られている。まずは南門を開門してもらい地面に手を付けた。
「じゃあ始めますね、気に食わなかったら言って下さい」
カルスが頷いたので、全てが五十mほどの穴を開けた。城門よりかなり幅もあるので城門を壊して侵入するには穴を埋めるしかない。カルスは驚いていたが納得してくれたようなので城門を閉めてもらい城門自体にも土でカバーをして強度を上げた。次に中央門、そして最後に北門にもちゃんと同じように処理をした。思った以上に魔力を消耗してしまったようで半分ぐらいが失ってしまったようだ。
「君は大丈夫なのか、ちゃんと休める様に部屋を用意しようか」
「いいえ自分の家に帰って休みますよ、その方が早く回復すると思いますので」
流石に疲れてきたが、あと一つだけ用事が残っているのでカルスと別れようとしていた時に、兵士がカルス向かって駆けて来た。
「副司令、偵察が戻ってきました。魔族達はもう監視塔の僅か西にまで迫って来ているそうです」
「ご苦労、直ぐに指令室に戻る」
やはり魔族が来るのは確定のようだ。出来る事ならば間違いであって欲しかったがもうその可能性は無いだろう。
カルスと別れた後で魔力感知を最大にして僅かに覚えている魔力を辿って馬を走らせる。隠しているのか、それとももう居ないのか中々発見できなかったが、月が昇り始めた頃ようやく魔族の女を感知することが出来た。
彼女は自宅と思われる二階建ての家の中にまだいるようなので、「ブーメラン」を小さく杖の上に出してから玄関の扉をノックする。
「誰なの」
この前、助けた形になった魔族の女が無造作にも姿を現した。
「前置きは省くぞ、君は魔族だね、これからこの街に来る魔族を手配したのは君なのか」
「ふーん、やっぱりあの時に気が付いていたんだね、それより中に入ってくれないかな、まだ逃げていない近所の人がいるんだよね」
警戒しながら中に入って行くが、中は普通の家となんら変わりが無い。魔族の女は机の上にお茶を並べながら俺に座るように言ってきた。
「毒なんか入っていないから飲んでも平気だよ、それに貴方ぐらいの魔術師なら毒が入っていたとしても解毒するのでしょうけど」
解毒の魔法なんてものはまだ知らないが、チムールなら知っているかも知れない。こんな時ではあるがまた一つ習いたい魔法が見つかった。
「どうしたのかしら」
「いや、ちょっと考え事しただけだ。それよりさっきの質問の答えがまだなのだが」
魔族の女は優雅にお茶を一口飲んだ後で言葉を選ぶようにゆっくりと答え始めた。
「普通は最初に名前でしょ、まぁいいわ、私の名前はカミラ、貴方は」
「仁だ、それより君は敵なのか」
「面白い方だね君は、普通なら魔族は全員敵だと考えるんじゃないの」
「どうかな、それよりゲレオンを知っているか」
その言葉を聞いたとたんにカミラはその手からカップを滑らせてしまった。
「何で貴方はその名前を知っているの、竜魔王様の側近なのよ」
「ちょっとこの間知り合ってな、彼と同じ国ならもしかしたら敵では無い可能性に賭けたんだよ。ドルムントの事があるから警戒はしているけどね」
カミラは呆れたように俺を見ている。
「また大物の名前を出したわね、まぁいいけど私は竜魔王様派であってツクヨミ様派では無いって事よ、だからドルムントは嫌い」
「そうかなら良かった。少し情報をくれないか」
ツクヨミ派が気になったが、それよりも信用の証として魔法を解除して杖を手放した。




