第百一話 開戦一日前 午前
早朝にギルドに到着すると、ギルドにはかなりの冒険者で溢れている。ホールで話しがあるはずだったが、変更したのか職員は冒険者達に闘技場に行くように案内を出していた。すると俺の姿を発見した職員は近づいて来る。
「お早うございます。仁さんは直ぐにいつもの部屋に行ってください。ギルド長がお待ちです」
その言葉に気が付いた冒険者達は俺のの道を開けてくれ、口々に「赤腕」やら「放火魔」などと言っている。平常時であれば恥ずかしくて逃げ出したいのだが、今はその気持ちは薄れゆっくりと部屋に入って行く。
部屋の中は火事騒ぎがあったとは思えない程綺麗になっていて、その中に机がコの字型に並べてあり、中央のテーブルに左からチムール、フェドセイ、そして初めて見るが多分A級のエンシオが座っている。
「仁か、お前のおかげで部屋がすっきりしたぞ、空いている席にどこでもいいから座れ」
嫌味がいきなり飛んできたが、何処に座るか見渡すとギルスが手を振って呼んでくれ、ギルスとカーチレの間に座る事になった。
「久しぶりだな、それが噂の赤腕か、いきなり放火するとは面白い奴だな」
「その事は忘れて下さい」
ギルスと話している間にも見知らぬ冒険者が入ってきて、残りの椅子は二席のみとなったがフェドセイは立ち上がって言ってきた。
「マイルスとボエルはまだダンジョンに入っていて、連絡をしに行っているからこれでB級以上は全員集合だ。暫く静かに聞いてくれ」
フェドセイは周りを見渡しながら水を一口だけ飲んでから話を続けた。
「状況は昨日連絡した通りで何も変わっていない。そこでギルドとして第一級強制依頼を宣言する。分かっていると思うが断った場合は誰もがF級に降格になる」
その言葉を聞いて仁の正面に立っているB級のプロスペロが机を叩き立ち上がった。
「ふざけろよ、あんたは歴史を知らないのか、前回の戦いは魔族が二十万でこっちが百万以上いたらしいのにそれでも劣勢だったそうじゃないか、俺の仕入れた情報だと魔族が三万に対して兵士は千五百人しかいないそうじゃないか。どんなに少なくても十万はいないと城壁があっても意味ないんじゃないか、それなのにギルドは強制依頼を出すのか」
「あぁそうだ。お前も冒険者になる時に説明を受けただろ、第一級は何十年と出ていないから無いとでも思っていたのか、文句を言うくらいなら冒険者なんかやめちまえ、他の国に行ってB級と名乗るのもいいが数ヶ月すれば虚偽がバレるからな、覚悟しておけよ」
プロスペロはフェドセイを睨みつけるが部屋から出て行く訳でもなく無駄な時間が流れる。それを見かねたエンシオが初めて声を出した。
「今回は君が悪い。君もそこまで情報を仕入れたのならばそこで思考を止めないで、なんで強制依頼の事を考えなかったんだ。昨日の内にこの街から逃げ出せばB級のままでいられたじゃないか。それにな弱者の変わりに金銭で依頼を受け持つのが俺達だろ、冒険者なのだから死なんて日常じゃないか、いいかそこにいる赤腕を見てみろよ、彼は唯一魔人を知っているのにさっきまで無駄口をしていたんだぜ、君は先輩として恥ずかしくないのか」
急に俺の名前が出てきて驚いてしまった。無駄口の事は申し訳ないとしか言えないが、俺は別に怖くない訳ではなくて怖すぎて麻痺しているだけだ。
「エンシオの言う通りだ。王国からは一先ず大金貨二百枚を預かった。それ以外にも魔石などは戦いが終わった後でちゃんとギルドが責任をもって分配する」
フェドセイがその事を言っている中でプロスペロは何も言わず部屋から出て行ってしまった。ギルスによると彼は苦労して二年前の三十四歳でB級に上がったらしいが、もう冒険者引退するのかも知れない。
「他にも出て行きたい奴はいるか」
フェドセイは暫く待つがもう誰も席を立つ者はいない。
「話を進めるぞ、俺達は城壁の南門を受け持つ。半分は城壁の上で待機してもう半分は南門の前に待機してもらう。俺が上の連中を指揮するが下の連中はエンシオが指揮をする。人員の振り分けはこれから闘技場で行う。チムールは魔法を使える奴を率いてくれ、では闘技場に移動するぞ」
闘技場に移動をしている時にチムールを捕まえ話し掛けた。
「籠城だけするのであれば城門の前に深い穴を掘ったらどうですかね、魔人達は埋めると思いますが時間稼ぎにはなるんじゃないですか」
どれくらいの広さと深さを開けられるのかは正確には分からないが、俺は少しでも生き残る方法を模索したい。死ぬ覚悟なんてものは俺は一切持っていないからだ。
チムールは俺の案が面白いと考え、直ぐにフェドセイに話すと二人で司令官であるボーイェンの元へと行くことになった。
闘技場ではフェドセイによる感動的な演説があったようで総勢約五百人の冒険者が魔族を迎え撃つことになるが、その影には二百人以上の冒険者はここに現れず廃業を決めてしまったようだ。




